第二話 家族と過ごす為に
2022/08/21 レコルの年齢を修正しました。
シロンの具合が悪くなり、僕は暫く仕事を休んでいた。
「シロンも、ケイコも亡くなってしまった。ここ数年忙しくて、かまってやれなかったなぁ」
僕は後悔していた。
「こんなんじゃいけない。家族と一緒に過ごす時間を、もっと作ろう!」
そう思い立ち、実行に移す事にした。
「お早う!」
「「「二コルさん!」」」
「シロンちゃんは?!」
「昨日亡くなったよ」
「そう、なんだ。シロンちゃん・・・・・。ひっぐ、えーん!」
「「シロン・・・・・!」」
「シロンの為に、泣いてくれるんだな。ありがとう」
三人は孤児院で、子供の頃からシロンと仲良くしていた。
シロンの容態を気にし、見舞いにも来てくれた。
「ダニー、サム、ルーシー、仕事は楽しいか?」
「二コルさん。俺達は大恩ある貴方の役に立てる事が、嬉しいんです」
「仕事の種類は、関係無いぜ!」
「そうよ。二コルさん!」
「お前達・・・・・。実を言うと、店を閉めようかと思ったんだ」
「「「えっ!」」」
「そんな事したら、みんな困りますよ!」
「トイレットペーパーは、この街だけじゃなく、他の領地まで広まってるんだぜ!」
「トイレ事情が良くなったと、喜んでくれてます」
「みんなは、反対なんだな?」
「「「はいっ!」」」
「・・・・・分かった。続けるよ!」
「「「良かったー」」」
三人は、安堵した。
「でも僕は、家族の側にいてやりたいんだ。ここへ来るのは、二週間に一度でいいか?」
「構いません。任せて下さい!」
「俺はもう、一人前だぜ!」
「自分だけ何よ。私だって、一人前なんだから!」
「ありがとうな。みんな」
僕は屋台の出店も止め、二週間に一度在庫の補充と売り上げの回収をするだけにした。
◇
フロリダ街の役場の方はというと、食料自給率が高くなり足を運ぶ頻度は少なくなっていた。
今は砂糖や胡椒といった調味料や、リートガルド様向けに日用品をメインに売るだけだった。
僕は有耶無耶になっていた案件を済ませに、役場を訪れた。
「リートガルド様。お貸ししていた魔法袋百個、返して下さい」
「えっ! 何を今更」
「街の情勢は落ち着きました。もういいでしょう」
「返してしまったら、此方は困るのだが」
「それでは、買い取っていただけますか?」
「うっ、流石に全部は無理だ!」
「私は魔法袋を《ダン防》に委託し、ダンジョン探索者に《レンタル》しようと考えてます。そうすれば、ドロップ品の収穫量は維持できると思います」
「《ダン防》を仲介すると、ドロップ品の物価が上がってしまうな」
「元の状態に戻るだけですよ。魔法袋の貸し出しは、急激に人口が増えた為の対策でしたから」
「それはそうだが・・・・・。ところで、レンタル料金は幾らだ?」
「《ダン防》との話し合いにもよりますけど、一日千マネーといったところですかね。高いと借り辛いですし」
「うむ。その値段だったら、利用しやすい。我々も借りられるのか?」
「可能ですが管理が難しくなるので、貸し出しはダンジョン内だけにしようと思います」
「それでは魚介類や農作物の運搬に、支障がでる。どうにかならんのか?」
「やはり、買い取って貰うしか」
「うーむ」
リートガルド様は悩んだ結果、一つ百五十万マネーで二十個買い取る事にした。
しかも、五年ローンで。
残り八十個の魔法袋は、後日返して貰う事になった。
僕はこの後《ダン防》の偉い人と会い、話しを纏めた。
◇
翌日。
《ノーステリア大公爵領の鍛冶屋》
「すみません。行商に来るのは、今回が最後です」
「何だと! ここじゃあんたのインゴットで作った製品が、売れ筋なんだ。もう一度考え直してくれ!」
《新王都のラングレイ伯爵邸》
「すみません。行商に来るのは、今回が最後です」
「ニコル君、冗談よね? 冗談って言って!」
《新王都のグルジット伯爵邸》
「すみません。行商に来るのは、今回が最後です」
「ニコル君、何があったの? そんな事言わないで、お願い!」
三ヶ月に一度足を運んでいた顧客を、バッサリ切ってしまった。
◇
そのまた翌日。
忙しい日々から逃れ、僕はやっと《のんびり》暮らせるようになった。
「パパ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい!」
レコルは現在九歳で、学校に通っている。
エシャット村では五歳から十歳になるまでの五年間、学校に通う事になっている。
そこで読み書き・算数・歴史・地理等を学び、十歳から仕事の手伝いを始める。
仕事をした分は、勿論賃金が貰える。
「パパ、行ってくるね!」
「行ってらっしゃい!」
サーシアは十一歳になり、既に学校を卒業し十歳からスーパーの手伝いを始めている。
将来はスーパーで働くか服飾工房で働くか、はたまた魔法を活かし狩猟班になるか悩んでいる。
「ミーリア。エミリアは僕が見てるから、工房に行ってきたらどうだい?」
「ありがとうニコルちゃん。久しぶりに、行ってくるね」
子育ての間、ミーリアは服飾工房を休んでいた。
その間ミーリアのお母さんが切り盛りし、従業員の育成も行っていた。
「パパー!」
エミリアはまだ四歳なので、学校には通っていない。
「エミリア、何して遊ぼうか?」
「おそといこ!」
「孤児院かい?」
「うん!」
エミリアが言う『おそと』とは、孤児院を指していた。
僕はエミリアを連れて、孤児院に向かった。




