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第四十五話 ユミナへの依頼報告

ニコルが去った翌日、若き国王ドナルドの手によって禁書庫と宝物庫の扉の鍵は解かれた。


禁書庫には王家に伝わる特別な魔法書や書物や文献が貯蔵され、宝物庫には秘宝や国宝といった類の武具や魔道具、宝石のついた装飾品や金貨がところ狭しと保管されていた。


「ドナルド。流石、国王じゃ。立派に務めを果たした」


「はい。しかしヤマト殿と比べたら、私などまだまだです!」


「謙遜しなくても良いぞ」


「いえ、謙遜ではありません。ヤマト殿は私とメラニアと母上の命の恩人であり、今までに多くの民の命を救いました!」


「そうじゃな」


「ヤマト殿は、私の《師》と仰ぐべき御方です!」


「陛下はヤマト殿に、御執心でらっしゃる」


「今度訪れた時、会えたらいいですな」


「私から、頼んでみよう」


「本当ですか、お祖父様!」


「ああ、任せておけ」


若き国王ドナルドは、エドワードからヤマトの活躍を聞かされ強い憧れを抱いていた。



僕はノーステリア大公爵領を去った後、三日置きにラングレイ伯爵領とグルジット伯爵領を訪れた。

今は夫人方の買い物が終了し、ユミナと二人きりにさせて貰った。


「王太子殿下や他の王族の方達の遺体を、持ち帰ったよ」


「えっ!」


「今は僕が預かってるけど、エドワード様は新しい王都に埋葬したいと言っていた」


「ニコル君には無茶させてばかりで、感謝しきれません!」


ユミナはうっすらと、涙を浮かべた。



「遺体は棺に入れて、綺麗に修復してある。王太子殿下だけでも、顔を見るかい?」


「はい」


ユミナの返事を聞き、《亜空間収納》から棺を取り出した。


「開けるよ」


「お願いします」


棺の蓋を開けると、ユミナの目から涙が溢れた。


「ウィリアム殿下!」


そう叫ぶと、棺の前で床に両膝をついた。

そして寄り添う様に遺体を眺め、その後祈りを捧げた。



祈りが終わると、ユミナは『スッ!』と立ち上がった。


「ニコル君。ありがとうございました」


「バロン様には、会わせなくていいのかい?」


「はい。王都で埋葬する時でいいです」


「・・・・・分かった」


思うところはあったが、口出しせず棺を閉じ《亜空間収納》にしまった。



「これ使って」


《亜空間収納》からボックスティッシュを取り出し、ユミナに渡した。

ハンカチかとも思ったが、気障に思えたので止めた。


「ありがとう」


「それじゃ、帰るよ」


「もう帰るんですか?」


「僕の顔を見たら、バロン様が不機嫌になるだろ」


「すみません。私から言い聞かせます」


「いいよ。自然に蟠りが無くなるのを待つから」


「でも」


「また来るよ」


僕は別れを告げ、応接室を出てそのまま屋敷を去った。



僕は行商を終えエシャット村に帰ってからも、被災地に足を運んだ。

そして引き続き、ゾンビを屍に戻し回収する作業を続けた。


各領地の領都を優先し回ったが、その移動中兵士や一般人が魔物狩りをする姿を見掛けるようになった。

魔物は人間にとって脅威ではあるが、資源でもあった。


そんなある日、偶然顔見知りを見掛けた。


「アレンさん!」


「ん? お前、もしかしてニコルか?」


「はい。今は変装して、『ヤマト』と名乗ってます」


「それじゃその姿の時は、『ヤマト』と呼んだ方がいいな」


「お願いします」


アレンさん相手だと、どうもキャラを作れず素に戻ってしまう。



「ヤマト。俺、貴族になっちまったんだわ」


「聞きました。ライト伯爵様ですよね」


「ああ。だが、返上しようかと思ってる」


「アレンさんには、似合いませんもんね」


「言ってくれるじゃねーか!」


「ハハッ!」


「じじいの奴、領民が一人もいねーこんな土地を寄越しやがって、頭にくるぜ!」


「それは酷い話しですね」


「家族を連れて、どこかに夜逃げしてーぜ」


「そこまで言うって事は、相当精神的にきてますね」


「まーな。ところで、ヤマトの村は住みやすいのか?」


「普通の農村ですよ」


「本当かー? 嫁の親父が、子供達に自転車を買って来たぞ」


「便利なので、錬金術で作っちゃいました」


「ほんと良いよなー、その能力。俺なんて、戦うしかできねーからよ」


「そんな事ないです。アレンさんは凄いですよ!」


「いや、褒めても何もでねーから」


「ハハッ!」


アレンさんは、少し照れていた。



「そうだヤマト、魔物退治を手伝ってけ!」


「すみません。実は今ゾンビを屍に戻し、回収して埋葬しようと思ってるんですよ」


「ふっ。お前も面倒を、背負い込むな」


「お互い様です」


「頑張れよ!」


「アレンさんも!」


アレンさんと別れ、再びゾンビのいる領都を目指した。



僕は三ヶ月振りに、ノーステリア大公爵領の領主城を訪れた。

今回は最初からヤマトに変装している。


「ヤマト殿。私と母と妹の命を救ってくれた事、誠に感謝している!」


「気にしなくていい」


「貴方は私の《目標》だ。是非、《弟子》にしていただきたい!」


「断る!」


「えっ、何で?!」


「ドナルド。唐突に何を言っておる!」


大祖父様(おおじいさま)。国を統治するには、政治力だけでは駄目なのです。皆を守る武力や魔法が無いと!」


「それを、ヤマトに乞うというのか?」


「はい!」


「俺のは《チート》だから、教えられん。諦めろ」


「チート?」


「神から授かった、いかさま紛いの特別な力の事じゃ」


「こんな領地を作った爺さんも、たいがいチートだがな」


「お主が本気なら、もっと良い領地を作れるじゃろ」


「そんな事はない。俺には村がやっとだ」


「謙遜じゃな」


「謁見は終わりだ。王城の移動先は、決まったのか?」


「ああ。決まっておる」


「それなら、早く終わらすぞ!」


「待ってくれ。まだ話しが」


「終わりだ」


幼い国王に付き纏われると面倒なので、可哀想だが突き放した。



「大爺様。私も現地へ行きます!」


「うむ。国王として見ておくのも、勉強の内じゃ。ヤマトよ、連れて行ってくれぬか?」


「しかたない」


こうして厄介そうなドナルド陛下が、王城の移設に同行する事となった。

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