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第四十二話 ニコルの正体

店の仕事を《影分身》に任せ、三ヶ月振りにノーステリア大公爵領を訪れた。


「ニコルよ、良く来た」


「本当はこんな場違いな場所に、来たくなかったんですけどね」


「そんな事、言うてくれるな。それで、依頼の件はどうなったのじゃ?」


「全て持ち帰りました」


「全てじゃと? 王族しか開けられぬ宝物庫の鍵を、開けられたというのか?!」


「いえ。そういう訳では」


「鍵を開けず持ち帰るとは、一体どういう事じゃ?」


「えーとですね。実は《王城》ごと持ち帰りまして」


「はあ?!」


エドワード様は口を大きく開け、フリーズしてしまった。



「ノーステリア様?」


「ハッ、いかん。意識が何処かに飛んでおった!」


「大丈夫ですか?」


「お主の規格外の行動に、度肝を抜かれたわい。どうやら冗談ではなく、真面目に言っておる様じゃの」


「そのつもりです。王城から必要な物を運び出したら、ちゃんと元の場所に戻します」


「元の場所に戻すじゃと! 城を建てるのに、どれだけの労力と金が必要だと思っておるのじゃ?!」


「それはそうですが、私としては早く約束の物をお渡ししてさっさと引き上げたいのです」


「お主。その物言い、アレンに似てきたの」


「そうですか?」


「まあ、良い。しかし、本当に困ったものじゃて。うーむ」


エドワード様は、腕を組んで考え込んでしまった。



「できれば新しい《王都》に設置したいところじゃが、その候補地すら決まっておらん」


「はぁ」


「暫く待っておれ。息子と相談してくる」


「分かりました」


エドワード様は困った様子で、一旦部屋を出ていかれた。

僕は僕で、もう一つの案件をどう切り出すか悩んでいた。



「ニコル、来ていたのか!」


「ニコル君、久しぶりだね!」


応接室でエドワード様を待っていると、ラングレイ伯爵とグルジット伯爵が現れた。

二人はこの領城で、大臣職を務めていた。


『スッ!』


「お久し振りです。お忙しいでしょうに、どうされました?」


僕は立ち上がり、二人に挨拶をした。


「聞いたぞ。とんでもない事を、しでかしたそうだな?!」


「いやいや、驚いたよ。ニコル君は、本当に規格外だな!」


「王族を今の王都に連れて行くのは、危険だと判断したんです」


というのは真っ赤な嘘で、王族と共に行動するのが面倒なだけだった。


「「それにしてもだなー!」」


二人は何か、言いたそうである。



「それはそうと、ニコルは行商でエマと会っているそうじゃないか。約束と違うぞ!」


「うちのソフィアもだ!」


「その件に関しては、私も忠告したんです。しかし奥様方は、聞き入れてくれませんでした」


二人は単身赴任しており、妻の行動を監視できなかった。


「「何もしてないだろうな?!」」


「すっ、する訳ないじゃないですか!」


『『ジーーー!』』


「そんなに疑うなら、『来るな!』と言えばその通りにしますけど」


「まっ、待て。それはそれで、問題になる!」


「ソフィアがエシャット村に押し掛けたら、どうするんだ!」


「私はそれでも、構いませんが」


「「うおーい!」」


行商に行くのが面倒なので、本心を言ったら二人に突っ込まれてしまった。



『ガチャッ!』


「待たせたな!」


「いえいえ」


エドワード様が、男性を一人連れて戻って来た。


「君がニコルか。私は領主の、アルフォンス・ノーステリアだ」


「ノーステリア大公爵様、お初にお目に掛かります」


「父上から、話しは聞いた。王城を本当に持ち帰ったのか?!」


「はい」


「魔物の大群の中を、しかもあの巨大な王城を。信じられん」


「ニコルよ。アルフォンスと話したのだが、王城を一度見せてくれんか? そうすれば、信じるじゃろ」


「お出しするのは構いませんが、他の場所へ移動しろと言うのは《別料金》ですよ」


「「「「なっ!」」」」


僕の言葉に、重鎮達が揃って声を上げた。



王城の移動を何度もさせれたら面倒なので、つい言ってしまった。


「父上! 彼は我々に対し大口を叩いてますが、宜しいのですか?!」


「構わん」


「何故です?!」


「ニコルの正体は、《影に隠れた英雄》であり《黒髪の英雄》であり《黄橙色の鎧の英雄》じゃからだ」


「「「えっ!」」」


「こやつは、隠そうとしとるがな」


「すると、アリーシア・ドナルド・イメルダの命を救ったのは!」


「ニコルじゃ」


「おっ、おぉー、何て事だ! ニコル殿、心より感謝する!」


「いや、ちょっと!」


ノーステリア大公爵が、僕に抱き付いてきた。



「ニコル君が、あの《影に隠れた英雄》だったのか!」


「ニコル。戦争から国を救ったなんて、初耳だぞ!」


「君にもアレン殿同様、爵位を授けねば!」


「皆さん、勘違いです。僕は只の《商人》です!」


「「「「今更、誰が信じるか!」」」」


「くっ!」


僕の思いは、この国の重鎮達に届かなかった。

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