第四十一話 王族の屍の回収
お昼休憩が終わると、《亜空間農場》の出口を開いた。
「ほら、出ていいぞ」
「行ってくるニャ!」
そう言って、シロンが出て行った。
「コケー!」
「モキュッ!」
するとその後を、ケイコとポムが追った。
「シャルロッテは、いいのか?」
『はい』
「それじゃ悪いけど、ここで待っててくれ」
『分かりました』
シャルロッテには並外れた《体力》と《筋力》があるので、戦闘ではシロンに引けを取らない筈である。
しかし、戦闘をあまり好まなかった。
「《雷撃》ニャー!」
『バリバリバリッ!』
シロンは魔法の一撃で、ウルフを同時に三匹仕留めた。
「コケー!」
『バサバサバサッ、ザシュッ!』
ケイコは、高高度からの爪攻撃でボアを仕留めた。
「モキュッ!」
『ブスッ!』
ポムは、鋭利な触角の一突きでオークを仕留めた。
アイテムで強化しているので、驚異になる魔物は此処にはいなかった。
先程は大群にいきなり囲まれたので、びっくりしたのだろう。
「僕がいなくても、大丈夫だな」
僕はシロン達を残し、ユミナと約束した国王様や王太子殿下達を探しに行った。
◇
《地図》機能で探すと、国王様は平民街の軍施設にいた。
「あそこだ!」
空を飛んで移動すると、直ぐにその場所に辿り着いた。
「この建物の中か」
大きな建物で、王族の回りには兵士や貴族のゾンビが密集しているようだ。
「一人一人回収するのは、面倒だ」
そう呟くと王城の時と同じように、建物を《亜空間収納》に回収し、排出されたゾンビを纏めて屍に変えた。
屍を回収していると、王太子殿下を見付けた。
「王太子殿下の屍は、ユミナの元に送り届けるべきなんだろな」
しかしその変わり果てた姿に、思うところがあった。
「《上級体力回復》」
『・・・・・・・・・・!』
崩れた身体の回復を試みたが、何も起こらなかった。
「死人の肉体には、《回復属性魔法》は効かないって事か? ・・・・・待てよ。錬金術なら!」
そう思い、屍に右手を翳し《修復》能力を使った。
『ポワー!』
すると王太子殿下の屍が光に包まれ、みるみるうちに身体が修復されていった。
「良かった。成功した!」
どうやら死体は《物体》という定義で、錬金術が効くようだ。
「初めて見たけど、思っていたより年上だな。ユミナとの仲は、上手くいってたんだろうか?」
王太子という立場を使い、半強制的に三番目の妻にした事を思い出してしまった。
「余計なお世話だな」
あの時僕は、何もできなかった。
そんな事を言う資格が無いと思った。
王太子殿下の《遺体》を回収すると、続けて横たわる《屍》を次々と回収していった。
「埋葬してしまえば同じ骨になってしまうけど、やはりゾンビの姿のままでは心苦しいな」
そう思い、他の屍も《亜空間収納》内で《修復》する事にした。
「報酬として、資源となる《魔石》は抜き取らせて貰うけど」
そんな事を呟きながら、屍の回収を終えた。
「他は後回しだな」
軍施設には、まだまだ多くのゾンビが徘徊していた。
しかし王族を探した時に、王立大学・王立学園・王立初等学園にもいる事が分かっていた。
効率は悪いけど、ユミナとの約束を優先する事にした。
◇
三つの施設で、王族を含む全ての屍の回収を終えた。
それらの敷地は、ゾンビが入って来れないように門や扉を全て閉じてある。
シロン達の次の狩り場にする予定だ。
「切りも良いし、みんなの所へ戻ろう」
王城の敷地に戻ると、シロン達はまだ狩りをしていた。
流石に全滅させるには、もう暫く掛かりそうだ。
「ただいま」
「お帰りニャ!」
「コケー!」
「モキュッ!」
「どうだい調子は?」
「いっぱい狩ったニャ!」
「そうか。後で倒した魔物を、見せて貰うからな」
みんなには収納用の魔道具を、身に付けさせている。
袋とか鞄ではなく、体型に合ったアイテムに収納の機能を付与したものだ。
「今日は、もう終わりにしよう」
「そう言えば、お腹が空いたニャ。続きは明日ニャ!」
「コケー!」
「モキュッ!」
シャルロッテが待つ《亜空間農場》にみんなで入り、僕は夕食の準備に取り掛かった。
◇
翌日からは、《影分身》で効率を上げた。
その甲斐もあり、一ヶ月で三十万人分のゾンビを屍に戻し回収する事ができた。
しかしそれでも、王都から全てのゾンビをなくす事はできなかった。
子供達との約束もあったので、一ヶ月半で旅を切り上げエシャット村に帰った。
「ただいまー!」
「「あー、パパだー!」」
「ニコルちゃん、お帰りなさい!」
「パーパ、おかえりなちゃい!」
「みんな元気そうだね!」
僕は久し振りに家族に会い、みんなを抱き締めた。
エドワード様の所へは、次の行商の機会に伺う事にした。




