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第三十七話 エドワード様からの依頼

2021/10/20 一部内容の修正をしました。

「はい!」と返事をしながら声の方へ振り向くと、そこには前ノーステリア大公爵の姿があった。


「久しいな」


「ご無沙汰しております。お元気そうで、なによりです」


「いや。あの頃に比べたら耄碌した」


「そんな事、ありませんよ」


「世辞はいい。少し、二人で話さんか?」


「申し訳ありません。今は接客中ですので、急ぎでなければ終わるまで待っていただけませんか?」


「それじゃったら、わしも買い物をしていいかの?」


「どうぞ」


そう言うと、ノーステリア様は興味深そうにプレハブの中に入って行った。


この時僕は、悪い予感がしていた。



商品はエシャット村価格ではなく、正規の価格を表示している。


エマ様は自分の分だけでなく、親族や知人の分まで大量に購入していた。

商品棚に置いてある数で足らない分は、魔法袋からその都度補充している。


またエマ様が『エドワード様の店の商品より、品質が良いのよ』と、本人に告げるのを聞いて冷や汗が出た。


エドワード様とは前ノーステリア大公爵の名前で、色々と事業を起こしているようだ。

比較する為か、一通り商品を購入していた。


そして全員の買い物が済むと、応接室に連れられてエドワード様と二人きりになった。



「ニコルよ」


「はい」


「わしの領地、いや今は息子の領地じゃが、三万もの人を送り込んだのはお主じゃろ?」


「えっ!」


「《転移》で避難民を連れて現れた《黄橙色の鎧の男》が、お主だと言っておるのじゃ」


「何の事です?」


グルジット伯爵とラングレイ伯爵から、話しが漏れたとは思えないので惚けてみた。



「わしも《魔王襲来》時の、《黒髪の英雄》の活躍ぶりは知っておる。あちこちに現れた事から、恐らく《転移》を使ったのだろう。先日、アレンがお主を『自分以上の実力者』だと言っておったから、ピンときたのじゃ」


「アレンさんが、そんな事を」


「以前も言ったが、《貴族》にならんか?」


「えっ! いやいや、なりませんから」


「領都が大混乱になったとはいえ、三万もの命を救ったのじゃ。それにプラーク街への避難や、充満した魔素の浄化にも関わっていると聞く」


「人違いですよ。何の事か、さっぱり分かりません」


「目が泳いでおるぞ」


『ギクッ!』


「わしを舐めるな。そのくらい見抜く目は持っておる!」


「・・・・・」


「本当の事を言うとな、わしが何より感謝しておるのは孫達を救ってくれた事なのじゃ」


「・・・・・」


「お主はこの国の《王》と、その母と妹を救ったのじゃぞ!」


僕の嫌な予感は、当たってしまった。

どんどん、追い詰められていく。


元大公爵の肩書きは、伊達ではなかった。



「お主の性分なのだろうな。地位も名声も望まぬか」


「私は《商人》なもので、お金になる事しか興味がありません」


「ふん。どこまで本気で言ってるのやら」


『ジー・・・・・!』


「そんなに見詰められると、居心地が悪いんですけど」


「分かった。一つ願いを叶えてくれれば、もう貴族への勧誘はすまい」


その言い回しが、凄く怪しく感じた。

僕はエドワード様の掌の上で、転がされてる気分になった。


しかし領地に三万人を送り込んで迷惑を掛けた負い目もあり、取り敢えず用件を聞く事にした。



「ちなみに、願いとは何ですか?」


「おっ、乗ってきおったな」


「いつまでも言われ続けるのも嫌なので、内容によっては受けます」


「そうか、実はな。王城の宝物庫や大金庫、それに大書庫の中身を持ってきて欲しいのじゃ!」


「何というか、大変な依頼ですね」


「しかも宝物庫の扉の鍵は、王族の血を濃く引く者にしか開けられん」


「それは、更に条件が厳しい」


「魔物の大群の中を、行かねばならんからな。しかし《転移魔法》を使えるとなると、その危険度は大きく下がる」


「王族の方を連れてですか・・・・・」


「アレンとお主で、何とかならんか?」


「アレンさんとですか?」


「ちなみにじゃが、この間アレンは授爵したぞ」


「えっ、あの自由人のアレンさんがですか?」


「嫁は貴族の娘じゃし、その方が良いじゃろう。今じゃ、アレン・ライト伯爵じゃ」


「伯爵! まさか、嵌めたんじゃ?」


「ゲフッ、ゲフッ! 何を言っておる。奴は《英雄》の称号を持つ程、国に貢献しておる。当然の事じゃ!」


「怪しいですね」


エドワード様は、目を反らした。



「一つ、質問しても?」


「何じゃ?」


「大書庫には、《特級以上》の魔法書はありますか?」


「ある筈じゃ」


「そうですか。ある(・・)んですね」


「何を企んでおる?」


「その魔法書を見ていいなら、受けます」


「お主は、《特級魔法》を使うと言うのか?」


「さあ、どうでしょう。試してみなければ、使えるか分かりません」


「ニコルよ。使用する魔法によっては、街が一つ吹っ飛ぶぞ!」


「その辺は、安心して下さい。その手の魔法は、人の迷惑になる場所では使いませんから」


『ジー・・・・・・・・・・!』


またもや、無言で見詰められてしまった。



「分かった。許可しよう」


「ありがとうございます」


「アレンは今、自分の領地を見に行っておる」


「あっ、取り敢えず一人で様子を見てきます」


「大丈夫か?」


「はい」


アレンさんと同じ様にいいように使われるんじゃないかと危惧しながらも、《魔法書》という報酬に釣られ僕は仕事を受けた。


その日はラングレイ邸に泊めて貰い、翌朝グルジット伯爵領へ向かった。

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