第三十六話 二年振りの行商の旅
フロリダ村は人口が五千人を越え、半年前に正式に街に格上げされた。
人口増加の要因にもなった《元魔人》の避難民達は、それぞれ職に就き街は落ち着きを取り戻した。
その後リートガルド様の《男爵》叙爵が決まると、街の住民は皆祝福した。
今は仮の王都ノーステリア大公爵領で、《叙爵式》を終えた頃である。
一方僕はアパート建設や畑の開拓の褒美に、また土地を貰った。
今回は海を眺望できる山の一部だが、忙しいので活用はしてない。
そして九月半ばになり、僕は二年振りに行商の旅に出る事にした。
「「パパ、早く帰って来てね!」」
「分かってるよ。ママの言う事、ちゃんと聞くんだぞ!」
「「うん!」」
「ミーリアとエミリアも、気を付けて!」
「はい、気を付けます。エミリア、パパに『行ってらっしゃい!』しなさい」
「パパ、いってらったい!」
「エミリアたーん、行ってくるよー!」
僕は家族に見送られ、シャルロッテの引く馬車にシロン・ケイコ・ポムを乗せエシャット村を出発した。
◇
『ダダッ、ダダッ・・・・・・・・・・!』
「シャルロッテ。《転移》するから、そんなに急がなくていいぞ!」
『すみません。つい嬉しくて』
毎日フロリダ街に通っているが、長距離の旅は嬉しいらしい。
「久し振りの旅だから、はしゃいでるニャ!」
「シロンも、楽しそうだぞ」
「旅はずっとご主人と一緒にいられるから、嬉しいニャ!」
シロンは子供達に遠慮し、僕に甘える事が少なくなっていた。
「ご主人と気がねなく話せるのが、何より良いニャ!」
「普段は、よく我慢してるよ。何とかしてあげたいけど、《異分子》は怖がれたり排除されるからな。旅の間は、話し相手になってやるぞ」
「ごっ、ご主人、シロンの事そんなに思ってたニャんて・・・・・」
「何、感極まってるんだよ」
「ご主人、愛してるニャー!」
「シロン、操車中だ。抱き付くな!」
「いやニャー、愛してるー!」
「コケー!」
「モキュー!」
ケイコとポムまで、僕にすり寄って来てしまった。
『ご主人様ズルいです。私も仲間に入れて下さい!』
「あーもう、いい加減にしろ!」
口ではこう言ったが、旅の間は騒がしいのも楽しく感じる。
◇
酒・衣類・生地・靴等の仕入先は、幸いにも爆発の被害から免れた。
しかし、以前野菜を仕入れていたヤッチマッタ街近辺は、魔素に飲み込まれてしまった。
僕は亡くなった人達に冥福を祈り、仕入れをしながらノーステリア大公爵領に向かった。
「何か、混雑してるニャ」
「一年前の件でこのノーステリア大公爵領の領都に、三万人もの人を送り込んだからな」
「ここの領主にしたら、迷惑な話しニャ!」
「そうだよな。押し付けといてフォローもしてないし、恨まれてるかもしれない」
「それで良く来れたもんニャ」
「しょうがないよ。この領都では女性用下着や牛乳とか仕入れる物があるし、鍛冶屋にはインゴットを卸してるからな」
僕達は二日間滞在し、次の目的地に向かった。
◇
ノーステリア大公爵領の北東にラングレイ伯爵領、南東にグルジット伯爵領が隣接していた。
約束の三ヶ月に一度の行商をしに、僕達はラングレイ伯爵領を訪れた。
「ニコル君、待ってたわー!」
「お久し振りです」
エマ婦人が、長男の嫁を引き連れて現れた。
僕に会わないという約束は、最初に来た時から無かった事になっていた。
「ニコル君の商品のお陰で、髪も肌も凄く調子がいいの!」
「喜んでいただけて、何よりです」
『ニコッ!』
「「キャーーー!」」
「ニコル君、その笑顔はいけないわ。私には、夫がいるのよ!」
「ニコルさんは、罪作りです!」
「すみません。顔を隠しましょうか?」
「いいえ。その必要無いわ。勿体ない!」
「お義母様の言う通りですわ!」
「そっ、それでは、このまま接客させていただきます。商品は、今回も此方に出して宜しいですか?」
「良いわよ。お願いね」
僕は屋敷のロビーに、八畳程のプレハブ小屋を取り出した。
その中の棚には、商品がズラリと並んでいる。
◇
「あらニコル君、来てたのね」
「やあ、エミリ」
アレンさんとエミリの家は、この屋敷の近くにあった。
過去に二度訪れたが、二度とも会っている。
最初に会った時は、音沙汰が無かった事で酷く怒られた。
しかしエミリの《魔眼》スキルでヤマトの正体がバレ、両親を救った事に感謝された。
「あー、イケメンの人ー!」
「わー、イケメンのおじちゃんだー!」
「ポムはどこー?」
現れたのはエミリの三人の子供達で、六歳の娘エミリアと四歳の娘アレーナと三歳の息子エレンである。
偶然にも上の子はうちのエミリア、下の子は村の住人と同じ名前だった。
「ポム、出ておいで」
「モキュッ!」
ショルダーバッグから、ポムが姿を現した。
「ポムー!」
ポムはエレク君の、お気に入りになっていた。
僕はエレク君に、ポムを手渡してやった。
「ニコル!」
すると後ろから、僕を呼ぶ声がした。




