第三十四話 避難完了の日
伯爵達は商品の購入が終わると、お昼にチーズバーガーとフライドポテトを食べ、満足して王都に帰って行った。
やがて日が落ち、ユミナとバロン君が帰る時間になった。
「「バロン君、元気でね!」」
「サーシアとレコルも!」
「ニコル君、色々とありがとうございました」
「礼を言われる程、何かした覚えは無いんだけどな」
「そんな事ありません」
「行商しに領地へ行く事になったから、その時はよろしく」
「はい。でも、良かったんですか?」
「御婦人方を納得させるには、仕方無かったからね」
「フフッ。それでは、またグルジット伯爵領でお会いしましょう」
こうして、ユミナとバロン君は帰って行った。
◇
翌朝、仕事を《影分身》に任せ、ヤマトに変装しグルジット伯爵邸に《転移》した。
そこでは既に、出発の準備が整っていた。
「ヤマト、来たのか」
「今日が最後なのだろう。《亜空間ゲート》を、回収しに来た」
「そうだったな。するともう、此処へは戻れんのだな」
「《結界》は直に消える。用事があるなら、魔物を倒し辿り着けば良い」
「フッ、言ってくれる。それが、どれだけ大変な事か。それに《結界》が無ければ、この辺も荒らされてしまうだろう」
「そうだな」
「ヤマトよ。王都内の魔物だけでも、排除できぬか?」
「どうだかな」
「はぁ、諦めるしかないのか?」
「復興は国の重鎮であるあんた達が、頑張ってくれ。餞別に、ノーステリア大公爵領まで送ってやる」
「本当か? それは助かる。私の領地とグレンの領地は、ノーステリア大公爵領に隣接しているんだ!」
「あんたらの領地に行った事があれば、直接送れたのだがな」
「いや、充分だ。プラーク街から帰るのに、王都を迂回しながら二ヶ月は覚悟していた」
「そうか。では、準備を始める」
「待ってくれ。プラーク街で、馬車の手配をしている」
「それなら、そいつらを先に移動させよう」
僕とグルジット伯爵は、《亜空間ゲート》を潜りプラーク街の別荘へ移動した。
◇
「この《亜空間ゲート》は、ノーステリア大公爵領に設置する。取り敢えず回収するぞ」
「ああ、分かった」
《亜空間ゲート》を回収し庭に出ると、十六台の馬車が停まっていた。
この事から、大人数になる事が伺えた。
聞いてみたところ、両家合わせて百人を越えるらしい。
王都にあった馬車も、車体は魔法袋に入れ馬は頭を下げさせて《亜空間ゲート》を通ったとの事だ。
「グルジット伯爵様、準備は整っております」
「そうか。全員いるか?」
「はい」
「すまんが、少し予定が変わった」
「えっ!」
「話しは後だ。みんなそのまま、じっとしててくれ」
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」
「いいか?」
「ああ、頼む」
『『『『『『『『『『フッ!』』』』』』』』』』
『『『『『『『『『『スタッ!』』』』』』』』』』
「「「「「「「「「「うわっ!」」」」」」」」」」
次の瞬間人と馬車を、ノーステリア大公爵領の開けた場所に《転移》させた。
「もう、着いたのか?」
「ああ、領都の近くだ」
「グルジット伯爵様、これは?」
「《転移魔法》だ。ここは、ノーステリア大公爵領だ」
「「「「「「「「「「えっ!」」」」」」」」」」
「お前達が驚くのも無理はない。私も驚いている。兎に角これで、移動の距離は大幅に削減できた」
「「「「「「「「「「信じられない・・・・・」」」」」」」」」」
みんなの視線が、僕に集まった。
「これは、其方の方のお力なのですか?」
「そう。ヤマトの力だ」
「えっ! それでは、私達の命の恩人」
「そういう事だ」
「あああああ、ありがとうございます」
「「「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」」」
「分かった。鬱陶しいから、それ以上の感謝はいい!」
「「「「「「「「「「そんなぁ」」」」」」」」」」
「その代り、お前達はこの《亜空間ゲート》を見張っていろ!」
回収した《亜空間ゲート》を、取り出しながら言った。
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」
「私達は一度王都へ戻り、皆を此処へ連れて来る」
「「「「「「「「「「分かりました!」」」」」」」」」」
グルジット伯爵と僕は、《亜空間ゲート》を潜り王都へ戻った。
◇
グルジット伯爵は使用人達を順次移動させ、直にやって来たラングレイ伯爵家の人達もそれに続いた。
全員の移動が完了すると、伯爵達は使用人達を先に領地に帰した。
伯爵達は、ノーステリア大公爵に会いに行く事になった。
「終わったな。《亜空間ゲート》は回収するぞ」
「ああ、構わない」
グルジット伯爵の了承を得て、《亜空間収納》にしまった。
「ヤマトよ。これを受け取ってくれ」
ラングレイ伯爵が、袋を差し出した。
「これは?」
「私とマイクからの謝礼だ。《二億マネー》入ってる」
「いらん」
「そう言わず、受け取ってくれ!」
「それなら、《復興》の為にそのまま寄付する」
「むっ、分かった。復興に役立てると、約束しよう」
ラングレイ伯爵は僕が受け取らないと察したのか、差し出した袋を引っ込めた。
「ヤマトよ。私達と一緒に、ノーステリア大公爵に会って行かないか?」
グルジット伯爵が、そんな提案をしてきた。
「遠慮する。面倒に巻き込まれるのは、御免だ」
「ははっ、見透かされたか。《英雄》として、勲章を与えて貰おうとしたのだがな」
グルジット伯爵は、《貴族席》にも推薦する気でいた。
「そんな事をしても、俺は国に属さないからな」
「残念だ」
「フン。もう行くぞ」
「そうか、また何処かで会おう!」
「マイクよ。三ヶ月後に、また会えるだろ!」
『ニッ!』
ラングレイ伯爵は、僕がニコルとして行商に行く事を匂わせた。
「ラングレイ伯爵、何の事かな?!」
『ギンッ!』
僕はラングレイ伯爵に、睨みを利かせた。
「いや、何でもない」
ラングレイ伯爵は、『これが原因で行商の件が無くなったら、エマに叱られる』と冷や汗をかいた。
「ヤマトさん、大変お世話になりました」
「ああ、じゃあな」
最後にユミナに素っ気なく別れを告げると、《亜空間ゲート》を回収しに王都のグルジット伯爵邸に《転移》した。




