表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
287/401

第二十九話 ユミナとミーリア

「もしかして、ニコルちゃんの奥さんになる筈だったお貴族のお嬢様ですか?」


「覚えていらしたのですね」


「はい。でも何で今頃・・・・・」


「いえ、あの、その、心配なさらないで。プラーク街のお家を貸していただいたお礼に、来ただけですから」


ユミナは慌ててそう答えたが、本当は命を救って貰った礼が言いたかった。


「そうでしたか」


王都の人々がプラーク街へ避難している事は、ミーリアの耳にも入っていた。

しかし、ユミナの事までは知らされていなかった。



「私も、こんな長閑な場所に住んでみたかった」


「えっ!」


「いえ、何でもありません」


「あのー宜しかったら、家でお茶でも如何ですか?」


「お邪魔して、宜しいんですか?」


「はい、どうぞ」


「それでは、お招きにあずかります」


ユミナは緊張しながらも、素直に招待を受けた。



「バロン様も、如何です?」


「バロンは子供達と楽しそうにしているので、このまま遊ばせて下さい」


バロンはふら付きながらも、既に一人で自転車に乗れる様になっていた。

運動神経は、普通の子供より良かった。


「そうですね」


「サーシアちゃん。バロンの事、宜しくね」


「うん!」


元気良く返事をすると、サーシアは子供達の輪の中に駆けて行った。


「行きましょうか?」


「はい」


ミーリアもまた緊張しながら、ユミナを自宅に案内した。



ユミナをリビングに招き入れると、ミーリアはケーキと紅茶を用意した。


「どうぞ」


「ありがとうございます。エミリアちゃん、可愛いですね」


ミーリアがお茶を用意している間、ユミナがエミリアをあやしていた。


「ユミナ様にそう言っていただけて、エミリアは幸せ者です」


「パイパーイ!」


エミリアは小さな手で、ユミナの大きな胸を鷲掴みにした。


「あっ、駄目っ! エミリア」


「いいんですよ。赤ちゃんのする事ですから」


「すみません」


「キャハハッ!」


そして、再び鷲掴みにした。


「エミリア、こっちにいらっしゃい!」


「ブー!」


「ダーメ!」


ミーリアはエミリアを抱きかかえ、ソファーに座った。



「ユミナ様は、王子様と結婚されたのですよね」


「はい。しかし今回の件で、殿下は既に・・・・・」


「すみません。私、知らなくて」


「ミーリアさんが、謝る必要はありません」


「そうだ、ケーキを召し上がって下さい」


「美味しそうですね。いただきます」


「どうぞ」


『パクッ!』


ユミナは、上品にケーキを口に運んだ。


「美味しい」


「良かった。気にいっていただけて」


「王宮で食べるのと、遜色ありませんよ」


「それを聞いたら、ケーキを作った村の職人も喜びます」


「フフッ!」


二人は緊張しながらも、次第に打ち解けようとしていた。



「ニャー!」


「シロン!」


寝ていたシロンが目を覚まし、ポムを背に乗せユミナの前に現れた。


「ニャー!」


「久し振りね」


「ユミナ様は、シロンの事を知っていたんですね」


「はい。まだ学生の頃、ダンジョンに一緒に行きました」


「そうでしたか。でもシロン、覚えているのかしら?」


「頭の良い猫ですから、覚えててくれてるみたいですね」


「ニャー!」


「モキュ!」


「このかわいいスライムは?」


「主人に懐いて、連れ帰ったんです。子供達と遊んでくれるんですよ」


「良い子ですね」


シロンは家族の前で、人の言葉を話さなかった。

ユミナもそれを察し、敢えて触れなかった。



「ただいまー!」


夕方になり、僕は仕事から帰った。


「「パパ、お帰りー!」」


「おお、二人共元気だな」


「あのね。お客さんが来てるんだよ!」


「誰だい?」


「バロン君と、お母さんとお爺ちゃん!」


「バロン君って、確かユミナの子供。それじゃ、ユミナやグルジット伯爵が来てるのか?」


《亜空間ゲート》に、制限は掛けていない。

来ようと思えば、いつでも来れたのだ。



リビングへ行くと、グルジット伯爵とバロン君がいた。


「いらっしゃいませ」


「お邪魔しているよ。ところで、君は本物か?」


「えっ! いきなり何ですか?」


「以前私の屋敷で会った君は、《影分身》だったからな」


そんな報告を、《影分身》から受けた気はする。

しかし、あまりの忙しさに聞き流してしまった。


「えーと、本物です」


「そうか本物か。《闇属性魔法》を使える魔法師は少ないというのに、底が知れんな」


「そんな事無いです」


「私達を救ってくれた《ヤマト》も、君なんだろ?」


「ヤマトが私? 彼は私の友人ですよ」


「そこは、シラを切るのだな」


「お祖父様。あのヤマトとこの人が、同じ人なのですか?!」


「ユミナが、そう言っている」


『ジーーー!』


僕はバロン君に、疑いの目で見詰められた。



「でも、顔が全然違いますよ」


「バロンよ。魔法やアーティファクトで、姿を変える事は可能なのだ」


「えっ、お祖父様もできるのですか?」


「ああ、できるぞ」


『ジーーー!』


バロン君は、再び僕を見詰めた。


『ニコッ!』


僕は意味も無く、微笑み返した。



「ハッ! お祖父様、早く帰りましょう!」


「何故だ?」


「母上が、危険です!」


「お前は、何を言っておるのだ?」


「バロン君、帰っちゃうの?」


「サーシア」


「サーのママとバロン君のママが、ご馳走を作ってるんだよ」


バロン君は、サーシアと僕の顔を交互に見詰めた。


「帰らない」


「良かったー!」


バロン君は、顔を赤くした。

僕はそれを見て、『何を恥ずかしがってるんだ?』そんな事を思った。



「バロンは、サーシアちゃんに形無しだな」


「お祖父様!」


『そういう事か?』


どうやらバロン君は、サーシアに気があるらしい。

僕は嫌われた様だが。


「えっ、何々バロン君?」


「何でもない」


バロン君は恥ずかしそうに、サーシアから顔を逸らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ