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第二十八話 バロンとサーシア

ユミナは、バロンとサーシアを見守っていた。


「バロン。怪我をしないようにね」


「はい、母上」


「バロン君。サーがお手本を見せるから、見ててね」


「うん」


「両手でハンドルをしっかり掴んで、足でペダルを漕ぐの!」


そう説明すると、自転車は走り出した。


『ドヒューーーン!』


しかも、凄い勢いで。


「「凄い!」」


ユミナは前世で補助輪付きの自転車に乗っていたが、こんなスピードで走る子供を見た事が無かった。



『キキーッ!』


「どお、分かった?」


「うっ、うん」


「それじゃ、やってみて!」


バロンはサーシアから自転車を受け取り、サドルに跨がった。


「うわぁぁぁ!」


しかし、いきなり両足をペダルに掛けてしまい、バランスを崩してしまった。


「あっ!」


サーシアは、咄嗟にバロンの体を支えた。


『フワー!』


「良い匂い」


「えっ、何?」


「何でもない」


バロンは、頬を赤く染めた。



「ごめんね。最初だから、倒れない様に後ろで支えてあげる!」


サーシアはずっと《身体強化》スキルを発動しているので、子供同士でも問題無く支えられる。


「うん」


「あのね。今みたいに停まったまま両足を離したら、バランスを崩すの。最初片足は地面に付けておいて、反対の足で漕ぎ出すのよ!」


「分かった」


そしてバロンがペダルを漕ぎ出すと、自転車はゆっくりと進み始めた。


「やったー! 走ったー!」


「上手、上手!」


「サーシアのお陰だ!」


「そんな事ないよ」


この後レコルや近所の子供達も混ざり、自転車の特訓は続いた。



その頃、グルジット伯爵はというと。


「凄い、凄い、凄いぞ!」


スーパーの商品を見て、『凄い』を連呼していた。


建物は増築(・・)により商業スペースを広げ、十数年前に比べ品数は増えていた。

おまけに、フードコートまであった。


「王都にも無い商品のオンパレードだ。それに、魔道具も沢山置いている!」


「あのー、申し訳ありません。商品の販売や貸し出しができるのは、村人だけ(・・・・)なんです」


「何故だ?!」


「商品の数に限りがありますので、他所の方に売ると村人に行き渡らなくなりますので」


「そういう事か」


普通貴族であれば無理強いしそうなところだが、グルジット伯爵は違った。



「グルジット伯爵様、お待たせしました。ささ、どうぞこちらの執務室に」


村長のジーンは従業員見習いをしているジーナに呼ばれ、店先に出向いた。


「ジーン殿。いきなり押し掛けてすまなかった。もうじき王都の住民の移住が終わるので、ニコル君に挨拶に来た」


「そうでしたか。生憎ニコルは隣村に仕事に出ていますので、帰るのは夕方になります」


「その事なら、可愛いお孫さんに聞いている」


「そうでしたか」


「それはいいとして、この店の商品は目を見張る物が多いな?」


「ありがとうございます」


「余所者には売る事ができないそうだが、どこで仕入れているか教えて貰えんだろうか?!」


「食品以外の商品は、ここに卸しているニコルしか知りません」


「ニコル君か。お孫さんが乗っていた自転車も、そうなのか?」


「はい」


ジーンはニコルが作っている事を知っていたが、話す訳にいかなかった。



「ここには、見掛けなくなった《ボックスティッシュ》も置いている。それに、トランプやガラス鏡もだ」


「それらも、ニコルが店に卸した物でして」


「この鍋やスプーンやフォークは、鉄や銀ではないな?」


「はい。《ステンレス》という、錆びにくい素材でできてます」


「ステンレス、初めて聞く名だ」


「そうでしたか」


それもその筈である。

ステンレスはニコルが錬金術で作り出した金属で、元々この世界には存在しない。



「やはり、売ってはくれんだろうか?」


「今表示されているのは《村人価格》でして、実際は数倍します。ニコルの計らいでこの価格なのです」


「だろうな。それなら、全て《十倍》支払おう」


王都で買えば、十倍ではすまない商品も数多くあった。


「それでしたら、魔道具以外なら」


「魔道具は駄目かなのか?」


「はい。こちらは、貸し出しのみとなっております」


「そうか。残念だが、しょうがあるまい」


この後グルジット伯爵は、気になる商品を次々と購入していった。

魔法鞄を持っていたので、持ち帰りの心配はなかった。



ミーリアがエミリアを抱きかかえ家の外に出ると、見た事のない美しい女性が佇んでいた。


「こんにちは」


ミーリアは、その女性に挨拶した。


「こんにちは」


するとその女性は、『ニコリ』と微笑み挨拶を返した。


「どちらから要らしたんですか?」


「王都からです」


「王都?」


「はい」


「ママー!」


「あら、サーシア。何してるの?」


「自転車の乗り方を、バロン君に教えてた!」


「バロン君?」


「私の息子です」


「ああ、そうでしたか」


「サーシアちゃんのお母様という事は、貴方がニコル君の奥様?」


「えっ!」


「ユミナと申します。十年以上前に、ニコル君にお世話になりました」


「ユミナ・・・・・さま?」


ミーリアは、その名前に聞き覚えがあった。

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