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第二十六話 フロリダ村の難民受け入れ

僕は集団から離れ、店にいる《影分身》と入れ代わった。


「ニコル。ニコルはいるか?!」


間も無くして、リートガルド様が店に現れた。


「はい、いますよ」


「頼みがある!」


「またですか?」


「またとは何だ! 私の頼みが、不服か?!」


「いえいえ。それで、一体何です?」


用件は知っていたのだが、これはお決まりの遣り取りである。



「例の《魔素被害の難民》を、二千二十一人受け入れる。寝床と食料を、用意してくれ!」


「また無茶な事を」


「頼む。我々だけでは、とても対処しきれん!」


「報酬は、いただけるのですか?」


「そっ、その内、何らかの形で支払う」


『シーン!』


見詰め合ったまま、一瞬時が止まった。



「寝床は、何処に作ったらいいんです?」


「おお、やってくれるか。一瞬、焦ったぞ! 寝床は海のトンネルへ通ずる道の周辺を、適当に切り開いてくれ!」


「分かりました。ですが食料を継続的に用意するのは大変なので、こちらをお貸しします」


そう言って、魔法袋から魔法袋を百枚取り出した。


「これはもしや!」


「魔法袋です。人を雇うなりして、ダンジョンで食料を確保して下さい」


「こんなにいいのか?」


「近々販売しようと思っていた商品ですが、構いません」


「助かる!」


大勢いた兵士は開拓が落ち着くと、殆んどが領都に引き上げてしまった。

今は残った数名の兵士が指揮をとり、移民の中から衛兵を育てている。


そんな事もあって、食料調達に使える人手は多くなかった。



話しが終わると、僕は早速山に入り《結界》を張った。


「悪いけど、急いでいるから大したものは建てないよ」


そう呟き、木の伐採と整地をしていった。


これから建てようとしているのは、《三畳一間》のアパートである。

ベッドを置くだけでいっぱいの、狭い部屋だ。


それを廊下を隔てて、十戸ずつ並べる。

四階建にしてしまえば、一棟八十戸にもなる。


「そう言えば、トイレも要るな」


一階だけにしてしまうと上の階の人が大変なので、各階に共同トイレを設ける事にした。


「問題は汚物の排水設備なんだけど、・・・・・・・・・・。いいや、今回は特別だ!」


悩んだ末に採用したのは、店にも設置している《清浄》スキルを付与したトイレだった。

排水設備を必要とせず、人体も含め全てを綺麗にしてくれる優れ物である。


これなら、風呂やシャワーも必要無くなる。



「こんなものか。あと、何棟必要だ?」


一棟完成したところで計算してみると、残り二十五棟必要だった。

予備に一棟加え、《亜空間収納》内で二十六棟の《複製》に取り掛かった。



「終わったーーー! 後は並べるだけだーーー! っとその前に休憩、・・・・・んっ?!」


《複製》が完了し休憩しようとすると、突然ある事に気付いた。


「待てよ。食事はどうする?」


アパートには、調理器具も食事をするテーブルも無かった。


「厨房付きの、食堂があった方がいいな」


一端休憩を挟み、先に食堂の建設を始めた。



「二千二十一人に対し、座席は三百か。まっ、しょうがないな」


食堂の大きさに不安を抱えながらも、回りにアパートを設置していった。



「ふー、やっと終わった。後は夕食かー!」


建築作業を終えると、早速食事の準備に取り掛かった。



「ニコル、お前・・・・・・・・・・!」


全ての作業が終わりリートガルド様に見せたところ、呆然と立ち竦んでしまった。


それもその筈である。

六時間余りで、二千人以上住める団地が出来上がってしまったのだ。


「狭いですけど、全て個室でベッドもあります。複数人で住むのが希望なら、仕切りの壁を取っ払いますよ」


「・・・・・・・・・・!」


「リートガルド様?」


「こっ、こっ、こんな立派な居住区にするとは、思わなかったぞ!」


「確かに開拓当初に建てた小屋に比べたら、立派ですね」


口ではこう言ったが、これでも自重している。

その気になれば、王城だって建ててしまえるのだから。



「この短時間に二千戸以上の個室か。とんでもないな」


「命じたのは、リートガルド様なんですが」


「それはそうだが、大勢入れる大部屋でいいと思っていた」


「そーは言っても、建ててしまいましたから。ご要望に沿わなければ、回収しますよ」


「いや、このままで良い!」


「それでしたら、報酬は如何程ですかね?」


リートガルド様の目が、泳いだ。


「そっ、そう言えば、いい匂いがするなー。食事も作ってくれたのか?」


そして、話題をすり替えた。


「はい。スープだけですが、具沢山で栄養たっぷりです。厨房付きの食堂を作ったので、料理のできる人を雇って下さい」


「ああ、そうするとしよう」


その時僕は、敢えて誤魔化されたフリをした。



僕がアパートを建ている間、難民達の仕事の振り分けが行われていた。


その中にダンジョン探索者も多くいたが、殆どが保護を受けず自立するそうだ。

装備とダンジョンとお金があれば、それは自然な事と言える。


「ダンジョンで食料調達させたかったんだが、無理強いはできなかった」


「まあ、しょうがないですね。自立してくれるなら、それはそれで良いじゃないですか」


「確かにな。だが兵士や腕っぷしに自信のある奴もいて、何とか食糧調達班の補充ができた」


「良かったですね」


「ああ。でもな、他にも問題があるんだ」


「何ですか?」


「難民の大半が農民なんだが、貸し与える農地が足りない。その中には、《稲作農家》もいるというのに!」


「へー」


「『へー』って、それだけか? パエリアの《米》が作れるんだぞ!」


先に述べた通り、開拓を手掛けていた兵士は魔法師も含め領都に帰ってしまった。

今は村人達が、細々とその仕事を引き継いでいる。


『以前米作りを断った手前、どうしたものだろうか?』と、そんな事を考えていた。



「分かりました。開拓だけなら、手伝います」


「おお、そうか。まるで、催促したようだな!」


「あれっ、催促しましたよね。でも引き受ける代わりに、報酬はきっちり貰いますからね!」


「わっ、分かっている。今回の建築費用に上乗せする!」


そう言いながら、リートガルド様の目は再び泳いでいた。

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