第二十四話 次代の王の行方、三ヶ月振りの帰宅と薬の開発
ダンジョンコアの爆発による被害は、王都を筆頭に都市部が多く百八十万人もの死者を出した。
爆心地に近い程物理的被害は酷く、木は薙ぎ倒され建物は瓦礫と化した。
そして、数え切れない程の魔物やゾンビが徘徊している。
人々が入り込むにはリスクが多く、とても復興などできる状況ではなかった。
そんな中《影分身》が救った人々は三万人にも及び、送り込まれたノーステリア大公爵領は混乱を期したが、元々人口が多く食料事情も豊かな為何とか対応する事ができた。
しかし、王城の地下通路から避難した王族や貴族の中で、生き残ったのは第三王子の妻アリーシアと二人の子供だけであった。
祖父から送られた非常時に発動する《結界》の魔道具で、難を逃れていた。
アリーシアは現ノーステリア大公爵の娘でもあり、故郷で家族と再開を果たす事ができた。
そして国王陛下や夫の第三王子やその他の王族の死が彼女の口から伝えられ、次の国王を誰にするか揉めていた。
「災害から三ヶ月が経つ。いつまでも、王が不在という訳にはいかんのだ。子供達が育つまで、アリーシアが《女王》になる他なかろう」
「私には、務まりませんわ!」
「助力なら、いくらでもする」
「お飾りで良いのでしたら、正当に王家の血を引く長男のドナルドが適任ではないですか?」
「ドナルドは、まだ七歳だぞ。名だけの王だとしても、若過ぎる」
「あの子は、お祖父様にて聡明です」
「それは認めるが、国王としての立ち振舞いを見せてやってくれんか?」
「それでしたら、お祖父様が国王になればいいのですわ!」
「なっ!」
元々ノーステリア大公爵家は王家の分家であり、先代である祖父の母親も王族であった。
この後も説得は続いたが、アリーシアは聞き入れる事はなかった。
◇
フロリダ村の店で仕事を終えた《影分身》と、僕は三ヶ月振りに入れ替わった。
『ああ、本物のご主人様が目の前にいる!』
「心配掛けたな」
『心配しました!』
シャルロッテは興奮し、しきりに頭を僕の体に擦り付けてきた。
「もうそろそろいいか?」
『あっ、もう少し。でも、一体何があったんですか?』
「走りながら話すよ」
シャルロッテの気の済むのを待ち馬車を走らせると、これまでの事を説明しながらエシャット村に帰った。
自宅に到着すると、厩舎の前でケイコが出迎えてくれた。
「コケー!」
「ケイコ。久し振り」
「コケッコー!」
「相変わらず、元気だな」
主従契約しているシャルロッテとケイコは、僕が本物だと分かるらしい。
ケイコは御者台に飛び乗り、甘えてきた。
「何だ、撫でて欲しいのか?」
「コケー!」
ケイコも気の済むまで撫でてやり、馬車をしまうと食事を用意してやった。
◇
そして、久しぶりの帰宅である。
「ただいまー!」
「「「お帰りなさーい!」」」
『『バタバタバタバタ・・・・・!』』
『ムギューーー!』
玄関まで走って来たサーシアとレコルを、屈んで抱き締めた。
「パパ、嬉しそー!」
「嬉しそー!」
「そうかー?」
「何か良い事が、あったのかしら?」
ミーリアもエミリアを抱きかかえて、出迎えてくれた。
「きっと、みんなに会えて嬉しいんだ。ねー、エミリアたーん!」
立ち上がり、エミリアの頬を指でつついた。
「キャハハッ!」
やはり三ヶ月も家族に会えなくて、寂しかったのだろう。
自然と笑顔が零れた。
「ニャニャ、ニャー!」
「モキュ、モキュー!」
シロンとポムが、足に擦り寄って来た。
「お前達も、元気にしてたか?!」
笑顔を零しながら、シロンとポムも撫でてやった。
「ニコルちゃんったら、本当に機嫌がいいわね」
その日は家族といられる幸せを噛み締めながら、夕食を味わった。
◇
《影分身》が保護した《魔人》の数は、二千人を越えた。
今は《亜空間農場》で眠らせ、《回復魔法》で生命を維持している。
「それじゃ、仕事の方は任せたぞ」
「任せろ!」
翌日も《影分身》に仕事を任せ、僕は魔人を人に戻す薬の開発を進めた。
万能薬のエリクサーを主成分に、貴重な薬草やキノコと調合してみた。
しかし化学的根拠も無く、《調合》と《鑑定》を繰り返し悉く失敗に終わった。
「あー、くそっ! 《特級エリクサー》が出来たというのに、魔人を人に戻す効能が無いじゃないか!」
僕は愚痴を溢しながら、頭を悩ませた。
「他の薬草を、もう一度探しに行くか? だが、そんな薬草が何処にある?!」
暫く考えるが、全く思い当たらなかった。
《検索ツール》にも出てこないのだから、当然である。
「そうだっ! こうなったら、地球へ行ってみよう!」
神様にすがる思いで、僕は日本へ飛んだ。




