第二十三話 新たな協力者
十日間昼夜ぶっ通しで魔素を回収し続け、僕は体力的に限界がきていた。
しかし、一向に終わる気配がなかった。
『多少、魔素濃度が薄くなったかな』と、思えるくらいである。
規模がデカ過ぎて、自分の無力さを実感した。
「駄目だ。もう、持たない」
『少し休め。お主は人間の癖に良くやった』
離れた場所にいる筈なのに、魔王様には僕の呟きが聞こえたようだ。
念話で返事が返ってきた。
「すまない。少し寝たら戻る」
『充分、休んでいいぞ。どうせ、長丁場だ』
「だが」
『お主がいてもいなくても、状況は然程変わらん』
「くっ、分かった」
僕は反論できず、《亜空間農場》の家で深い眠りについた。
◇
「ふぁー、良く寝た!」
八時間たっぷり眠り、僕は元気を取り戻した。
魔素回収作業に戻る前に、ある事が気になった。
そのある事とは、勇者達の様に《魔人》になってしまった人達の事だ。
僕は《影分身》達に殺害の指示を出せず、魔法で眠らせるよう指示した。
そして、《亜空間農場》で保護させた。
「どうにか、直せないだろうか?」
魔人になって《狂暴性》が増したとはいえ、その殆どは普通の人だった筈。
勇者達とは違う。
僕は治療法を、《検索ツール》で調べた。
「くそっ、無いのか!」
念の為、魔王であるサムゼル様に聞きに行く事にした。
◇
「そんな事になっておったか!」
「はい」
プラーク街のダンジョンに《転移》すると、早速サムゼル様に相談した。
「だがハッキリ言って、魔人を人に戻す方法は無い」
「やっぱり」
サムゼル様の答えは、《検索ツール》と同じだった。
「ニコルよ。だったら作れば良いのじゃ!」
「えっ!」
「お主には、類いまれなる《錬金術》があるではないか!」
「そっ、そうか。諦めるのは、まだ早いですね」
「その通りじゃ! 魔素の回収なら、妾も手伝うのじゃ!」
「ありがとうございます」
「悪いが、我は行けぬぞ」
「はい。ダンジョンを離れる事は、大きな危険を孕んでると知りました。サムゼル様は、ここを守って下さい」
「うむ」
この後ゼルリル様を連れ、爆心地へ戻った。
◇
「成る程。酷いものじゃ」
ゼルリル様は被災の光景を見て、眉をしかめた。
「向こうに、魔王様がいるので行ってみますか?」
「うむ。妾も会ってみたいのじゃ!」
「それじゃ、行きましょう」
僕達は空を飛び、もう一人の魔王様の元へ向かった。
「お待たせしました」
僕の口調は、自然と元に戻っていた。
「早かったな。もっと休んでいて良いのだぞ」
「充分休めたので大丈夫です。魔王様も、休まれたらどうですか?」
「何だ。魔王と気付いておったか?」
「はい。私の名は、ニコルと申します。今まで無礼な口を利いて、すみませんでした」
「別に構わん。わしはアムゼルだ。それに、まだまだ余裕。伊達に魔王を名乗っておらぬ!」
「流石ですね」
「ところで、隣にいるのは同族の様だな?」
「はい」
「ゼルリルなのじゃ!」
「ゼルリル? あの赤子だったゼルリルか?!」
「妾は、覚えておらんのじゃ」
「それはそうだ。わしはそなたが赤子の時、この世界に来たのだ」
「随分、昔なのじゃ」
「すると、ゼルリルの歳は・・・・・」
「アムゼルジジ上、妾の歳の話しはいいのじゃ。それより、魔素の回収を手伝うのじゃ!」
「そうか、頼んだぞ!」
こうして、三人掛かりで魔素の回収が始まった。
◇
そして、爆発から三ヶ月が過ぎた。
一帯の魔素は、希薄した状態にまでなった。
しかし魔素は地中にまで染み込み、回収が難しくなっていた。
「もう、良かろう。魔物は発生するが、人が魔人になる程ではない」
「これ以上やっても、効率が悪いのじゃ」
「そうですね。魔素が残っていた方が、魔物もそこから出て行かないですし」
魔素の回収作業は、こうして終わりを迎えた。
二人が作った高濃度の魔素球は、僕に託された。
数が多過ぎて《アイテムボックス》の邪魔になるし、二人には必要のない物だそうだ。
「この後の復興は、大変だな」
「そうですね」
「ニコルなら、錬金術でチョチョイのチョイなのじゃ」
「いいえ。ここから先は、国の仕事です」
「そうなのかえ?」
「商人ですから、対価を支払われれば協力はしますが」
「以外と、現金な奴じゃのー」
「ハハッ。それに今は、他にやる事がありますし」
「やる事?」
「魔人になった人達を、早く元に戻してやらないと」
「そうじゃ。そんな事を言っておったのじゃ」
「ある意味、復興より難しいかもしれんな」
「はい。どうしていいやら」
僕は魔素を回収しながら、《亜空間収納》で薬を作っていた。
しかし、全て失敗に終わった。
「ニコルなら、きっとできるのじゃ!」
「頑張ります。これ、今回のお礼です」
そう言いながら《亜空間収納》を開き、ゼルリル様に沢山のケーキをプレゼントした。
「こっ、こんなにケーキを貰えて、ラッキーなのじゃ!」
ゼルリル様は、満面の笑みを浮かべた。
「三ヶ月近く働いて貰って、こんなお礼しかできなくてすみません」
「ニコルのケーキは、絶品なのじゃ。アムゼルジジ上も、一緒に食べるのじゃ!」
「そうか絶品か。それなら、わしもいただくとしよう」
「ニコルも、パパ上の所に行くのじゃ!」
「いえ。僕は眠いんで」
「そうかえ?!」
ゼルリル様とアムゼル様はケーキをお土産に、サムゼル様の待つダンジョンへ帰っていった。
「本当、あの人達タフだな」
僕はこの後、《亜空間農場》の家で深い眠りについた。




