第二十二話 協力者
声のする方へ視線を向けると、空中に人が浮かんでいた。
「魔素を、回収している」
驚きながらも平静を装い、問いに答えた。
「《泥酔》して寝ていたせいで、危うく死に掛けたぞ! 貴様がダンジョンコアを破壊したのか?!」
「ちっ、違う。人違いだ!」
その問いには、慌てて否定した。
目の前の人物が、《魔王》だと悟ったからだ。
「どうやら、嘘ではない様だな!」
僕の言葉を、素直に信じてくれた。
魔王は皆《魔眼》の持ち主で、嘘が見分けられるそうだ。
「俺は少しでも、魔素の被害を減らそうとしているだけだ!」
「お主の言い分は分かった。わしも協力しよう」
「手伝ってくれるのか?!」
「ああ。わしにも、責任の一端はある」
お互い名乗りもせず、協力する事になった。
魔王様は、僕から距離をとった。
「《魔素回収》」
『ビュオォォォォォーーーーーーーーーー!!』
すると魔素が渦を巻き、右手に集まり始めた。
その魔素は球形になり、次第に膨らんでいった。
以前ゼルリル様も、同じ事を行った事がある。
「こんなものだろう」
暫く続けると、直径五メートル程の凝縮された魔素の球ができた。
「《アイテムボックス》」
魔王様は《アイテムボックス》を開き、その魔素球をしまった。
ちなみに魔王様には、魔物は襲って来なかった。
「そうか。僕も魔物を、寄せ付けなければいいんだ。《魔物避け》」
僕は魔物を倒すのを止め、《聖属性魔法》を放ち魔素の回収に集中した。
◇
一方王都の生き残った人達は、混乱を期した。
それは、当然の事である。
辺りは突然暗くなり、張られた《結界》の外には魔物やゾンビが徘徊しているのだ。
「一体、何が起こってるんだ?!」
「おかあさん、こわいよー!」
「大丈夫よ。見えない壁で、化物はこっちに来ないからね」
「俺達、一生ここに閉じ込められたままなのか?!」
「うわぁー、どうすりゃいいんだー!」
その人数は、八千人にも及んだ。
「お前達、落ち着け! 私は伯爵のラングレイだ。今王都から、安全に脱出する段取りをしている」
「それは、本当ですか?」
「本当だ。約束する!」
「おー、俺達助かるんだ!」
「「「「「「「「「「やったー!」」」」」」」」」」
ラングレイ伯爵が私兵を引き連れ、混乱している人々を落ち着かせた。
その間グルジット伯爵は、プラーク街の代官に援助を申し入れていた。
「そんな事が・・・・・。分かりました。避難所や宿を用意します!」
「助かる!」
その準備が終わると、王都に住居の無い者から《亜空間ゲート》での移動が始まった。
また貴族の親族にも助かった者はおり、領地に帰る者や帰らず当主や子供の帰りを待つ者がいた。
それに対し帰る領地の無い者は、屋敷を捨てられず困る者が多かった。
そんな中グルジット伯爵とラングレイ伯爵は、王都に残り人々を支えた。
◇
そして別荘にあるもう一組の《亜空間ゲート》の存在も、知られる事となった。
それはニコルが使用規制を掛けるのを、忘れたからである。
「あんた達、誰だ? ここはニコルの別荘だぞ」
別荘を訪れた、サジが問い質した。
「お前達は、避難民じゃないのか?」
「避難民? 違うぞ」
「私達は、グルジット伯爵家に仕える兵士だ。ヤマト殿から、この家の使用許可を得ている」
「ヤマト? 知らねーな。何だって、そいつが許可を出すんだ?」
「知らん。我々は、グルジット伯爵の指示で動いている」
「スギル。ちょっと、村長を呼んで来てくれ!」
「分かったんだぜー!」
「我々も、伯爵様に報告した方がいいな。お前、行ってこい!」
「分かった。行ってくる!」
この後二人は対面したが、村長のジーンは事情を知らず伯爵を前にあたふたしていた。
「そっ、それではニコルが帰って来たら、お伺いさせます」
「その方が、良さそうだな」
こうしてニコルが、グルジット伯爵邸を訪れる事になった。
◇
仕事から帰った《影分身》のニコルは、父親ジーンから説明を受け、早速グルジット伯爵邸に足を運んだ。
『『シャキーン!』』
「「誰だ?!」」
《亜空間ゲート》を出ると、兵士にいきなり剣を向けられ問われた。
「プラーク街の家の持ち主のニコルです。伯爵様に呼ばれて来ました」
「失礼した。その事なら聞いている。伯爵様を呼んでくるので、応接室で待っていてくれ」
「はい」
嘗て来た事のある応接室に、僕は通された。
暫くすると、グルジット伯爵とユミナが現れた。
「お久しぶりです」
《影分身》は座っていたソファーから腰を上げ、二人に挨拶した。
「やはり、君だったか!」
「ニコル君!」
ユミナは《影分身》の前に歩み寄り、両手を取った。
「ニコル君。私達を救ってくれて、ありがとうございます」
そして目に涙を浮かべ、感謝の言葉を述べた。
「えっ!」
しかし《影分身》は事情を聞いておらず、本体から《念話》で日常生活を任せられただけだった。
その為、戸惑いを隠せなかった。
「えっ!」
しかしユミナの方も、戸惑いの声を上げた。
「あなたは、《影分身》なのですか?」
「えっ!」
ユミナの脳裏に、目の前の人物の過去が映し出された。
《過去視》スキルが、自動で発動してしまったのだ。
「ユミナ。彼はニコルの《影分身》なのか?!」
「はい」
「ニコルは、《闇属性魔法》まで使うのか? それで、本体はどうしているのだ?!」
「さあ」
《影分身》は誤魔化すのを諦め、そう答えた。
◇
「あー、疲れるー!」
その頃本体のニコルは、魔素の回収を必死に行っていた。




