第二十話 亜空間ゲート
《結界》で救えたのは、グルジット伯爵邸・ラングレイ伯爵邸・ダニエル商会本店・ダニエル商会支店・御食事処やまと・喫茶店を囲んだごく一部の範囲に留まった。
咄嗟な事で、これ以上の範囲を覆えなかった。
救助を《影分身》に任せ、僕は防具の兜を外しプラーク街の別荘に《転移》した。
「ヤマトさん!」
「「ヤマト!」」
「大規模の魔素の発生は、止められなかった」
「えっ!」
「「何だって!」」
「俺が《転移》した直後、魔素の爆発は起こった。今、王都は大変な事になっている」
「「「そんな!」」」
「だが一部の地帯だけは、《結界》で救う事ができた」
「「「えっ!」」」
「行くか?」
「行くぞ!」
「私もだ!」
「分かった。少し待ってくれ」
そう言って、《亜空間収納》を開いた。
「《アイテムボックス》?」
グルジット伯爵の言葉を無視し、そこから《亜空間ゲート》を取り出した。
「これは?」
「後で説明する」
『『『『『『フッ!』』』』』』
僕は五人を連れ、王都のグルジット伯爵邸の玄関前に《転移》した。
◇
『『『『『『スタッ!』』』』』』
「「「「「わっ!」」」」」
「ここは、私の屋敷ではないか?!」
「そうだ」
「救ってくれたのか?!」
「そういう事だ」
「ヤマトよ。感謝する!」
「私の屋敷はどうなった! 暗くて見えん!」
辺りは魔素が充満し、薄暗かった。
「大丈夫だ」
「おおっ!」
ラングレイ伯爵は、隣にある自分の屋敷に慌てて駆けて行った。
「グレンの奴、行ってしまった。私達も屋敷へ入ろう」
「「「はい」」」
屋敷に入ると、メイドや執事や兵士達がざわついていた。
「「「「「「「「「「伯爵様!」」」」」」」」」」
こちらに気付き、一同は驚きの声を上げた。
「おお、お前達!」
「ユミナ様にバロン様まで!」
「ソフィアはいるか?!」
「はい、お部屋に!」
「そうか!」
グルジット伯爵は、そのままソフィアさんの所へ向かおうとした。
「待て!」
僕はその伯爵を、止めた。
「何だ?!」
「俺の話しが、終わっていない」
「そっ、そうか。誰か、ソフィアを呼んできてくれ!」
「はい!」
するとメイドが、直ぐに駆けて行った。
僕は再び《亜空間収納》を開き、《亜空間ゲート》を取り出した。
「これは、先程と同じ物だな?」
「二つ一組で使う魔道具だ」
「魔道具なのか!」
「暫くの間、これを貸し与える。あんたの責任で、有効に使ってくれ」
「分かった。だが、これは一体何なんだ?」
『ガチャッ!』
「着いて来い」
僕は《亜空間ゲート》の扉を開け、グルジット伯爵を促した。
「みんなは、待っておれ!」
「「「はい!」」」
ユミナ達に一言告げると、グルジット伯爵は《亜空間ゲート》に足を踏み入れた。
「なっ! 何だこの空間は!」
僕はその声を無視し、対のドアを開け外に出た。
◇
「ここは、先程までいた部屋ではないか?!」
グルジット伯爵は扉を出ると、驚きの声を上げた。
「そういう事だ」
「何て凄い魔道具を、持っているんだ! どうやって手に入れた?!」
「そんな事はどうでもいい。《結界》は閉鎖された空間だ。食料は何れ尽きる。この魔道具を使い人々を救ってくれ」
「あっ、ああ。分かった」
「それと、魔石で魔力の補充を忘れないようにな」
「分かっている。私はこれでも、魔道具に精通している」
「そうか」
「ところで、ここは何処なんだ?」
「・・・・・プラーク街の友人の別荘だ」
「ダンジョンのあるプラーク街か?」
「そうだ」
「友人の家と言ったな? 私達が使って構わないのか?」
「緊急時だからな」
「友人の名を、聞いておこうか?」
「ニコルだ」
「ニコルだと!」
「ああ」
「私の娘ユミナは、お主がニコルだと言っているぞ!」
「違う。俺は俺だ。それに名前が同じだけで、そいつは俺の友人と同一人物なのか?」
グルジット伯爵は疑いの目で見るが、僕は動じなかった。
「兎に角、俺はやる事がある。あんたらは、自分達の事を何とかしろ!」
そう言うと、手に持っていた兜を被った。
「行ってしまうのか?!」
「ああ。後は任せた!」
グルジット伯爵を残し、僕は別荘を出た。
◇
外に出ると、《地図》機能で勇者達を探した。
「ガーランド帝国との国境付近にいる! 逃げたつもりでいるのか?!」
だが、様子がおかしい。
違うマーキングが、一つ混ざっている。
地図をズームしていくと、動きが激しい。
争っている感じだ。
「でもこの動き、早過ぎる。・・・・・アレンさん!」
その相手を調べてみると、アレンさんだった。
「急がなきゃ!」
僕は地図が示す場所に、慌てて《転移》した。
「《灼熱放射》!」
『ブアオォーーーーー!!』
『シュタッ!』
「チッ! 素早い」
「オラーッ!」
『ガインッ! ガインッ! ガインッ!』
『ズバビュッ!』
『ガシャーン!』
『ビュン! ビュン!』
『ギンッ! ギンッ!』
「ウガー!」
『ブオンッ!』
『シュタッ!』
『ドゴーーーン!』
《転移》すると、そこは戦闘の真っ只中だった。




