第十八話 ユミナの未来視
2021/11/05 一部内容の修正をしました。
ユミナ達が階段を降り一階へ着くと、近衛騎士や兵士達の亡骸でフロアは埋め尽くされていた。
「「「うっぷ!」」」
この惨状にはバロン王子だけでなく、ユミナやメイドも気分が悪くなった。
「あっ、あの人!」
ユミナは声を上げ、突然走り出した。
「《中級体力回復》」
ユミナはまだ息のある者を見付け、回復魔法を掛けてやった。
「大丈夫ですか?」
「うっ、ううっ! ユッ、ユミナ様!」
「まだ、痛みはありますか?」
「だっ、大丈夫です!」
「良かった!」
兵士が体を起こすのを見て、ユミナは安堵した。
「お父様。避難は、待っていただけませんか?」
「どうしてだ?」
「治療が必要な人達が、まだいるかもしれません」
「・・・・・そうか。それなら、私も手伝おう」
「おい、マイク。王太子殿下が心配しているぞ!」
「ユミナが、怪我人を放っておける筈ないだろ」
ラングレイ伯爵はユミナに視線を移し、一瞬考えた。
「それもそうだな。そういう事なら、急いで助けるぞ!」
「はい!」
ユミナ達は逃げるのを止め、負傷者を探し治療に当たった。
◇
ユミナ達のお陰で、十二名が一命をとりとめた。
「ユミナ。城の中には、もう負傷者はいない。陛下達の元へ向かうぞ」
「まだ、城の外も見てみないと!」
「先程の爆発では、まず助からんだろう」
「ですが、一応確認してみないと。えっ!・・・・・・・・・・嫌っ!!!」
突然ユミナの動きが止まり、驚きの声を上げた。
「「ユミナ(ちゃん)。どうした?!」」
「母上!」
「ユミナ様!」
「・・・・・大変です! この辺り一帯の領地が、大量の《魔素》で覆い尽くされます!」
「「何っ!」」
「このままでは、多くの人が亡くなってしまいます!」
ユミナの言葉を、二人の伯爵は疑わなかった。
仲の良い両家の主は、お互いの娘の《特異な能力》の事を知っていた。
「もしかしてガーランド帝国で起こった事が、エステリア王国でも起こるというのか?!」
「はいっ!」
「それは、いつ起こるんだ?!」
「おそらく、三十分後です!」
「時間が無い!」
「我々は《結界》に守られているが、陛下達や屋敷にいる妻達はどうする?!」
「くっ! 陛下達が避難した場所は、平民街にある軍事施設だ。残念だが、今からでは間に合わない!」
「我々の屋敷なら、ギリギリ間に合うだろ!」
「いや。《結界装置》を起動するには、莫大な魔力が必要だ。皆を迎えに行くのに解除したら、三十後の起動に到底間に合わない!」
「くっ、何か手は無いのか?!」
「私だって、ソフィアを迎えに行きたい! だがこの王城には、まだ多くの人がいる!」
「くそっ!」
二人の伯爵は、この危機に何もできず悔やんだ。
◇
僕が《転移》した場所は、ヤッチマッタ街の手前の街道である。
そこからは、空を飛びダンジョンを目指した。
「ここだな」
到着すると入場料を支払い、ダンジョン探索者として入場した。
そして勇者達が相手なので、念の為オリハルコン装備を身に纏った。
このダンジョンは地下三十七階層からなり、勇者達は最深部のボス部屋にいる。
「追い付くのは、難しいな」
ボス部屋へ辿り着くには、僕が急いだとしても何日も掛かってしまう。
しかし奴等は《転移》を使えるので、逃げ場所を一つずつ潰していく必要があった。
追っている間に《転移》されたら、またそこを目指し追うだけである。
面倒と思いながらも、僕はダンジョンを駆け抜けた。
走りながら、先程勇者達と対峙した時の事を考えた。
「あいつら魔人になったとは言え、体を真っ二つにされて何故死なないんだ?」
そう思い、魔人の弱点について調べてみた。
「何々。魔人に止めを刺すには、《魔石》の破壊か抜き取りが必要」
あのしぶとい生命力は、魔石が原因だったらしい。
数ある魔物の中で、スライムも同様の性質を持っていた。
これで勇者達の退治が、可能となった。
しかも人では無くなった事で、殺害する事への抵抗は弱まっている。
『お願いします。ニコル君、助けて下さい!』
そんな時、再びユミナの助けを呼ぶ声が聞こえた。
「ユミナの声? だけど、勇者達はダンジョンにいるぞ。今度は何があったんだ?!」
《地図》機能で、勇者達の動向は常に追っていた。
ユミナ達の事が心配になり、再び王城へ戻った。
◇
王城へ戻ると、ユミナや伯爵達は不安な顔を並べていた。
『ガシャッ!』
「何かあったのか?」
僕は兜を外し、その理由を問い掛けた。
「「ヤマト!」」
「ニコル君!」
「俺の名は、ヤマトだ! 勘違いするな」
「では、勇者達を追った筈なのに、何故此処に?」
「いや、その。偶々だ」
「偶々ですか?」
「何も無いなら、俺は行くぞ!」
「待って下さい! 魔素が、大量の魔素が王都や他の領地を飲み込んでしまいます!」
「何だと!!」
「信じてくれるんですか?」
「ああ。それで、何時なんだ?!」
「もう、二十五分もありません!」
「くっ! それで、原因は何なんだ?!」
「そこまでは、分かりません」
「そうか。きっと、勇者達の仕業だろう」
「勇者達ですか?」
「ああ」
「止める事は、可能ですか?!」
「いや。勇者達は、ダンジョンの最深部にいる。今からでは、追い付けるか分からない!」
「・・・・・」
ユミナは言葉が出ず、悲壮な表情を浮かべた。
「だが、やってみる!」
『ガシャッ!』
そう言い、手に持っている兜を被った。
『フッ!』
そして次の瞬間、《転移》した。
「「消えた!」」
「ニコル君」
「ユミナ。ヤマトは、ニコルなのか?」
「おそらく」
ユミナには、ヤマトがニコルだと確信めいたものがあった。
そしてニコルに頼る他、救われる道は無いと思っていた。




