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第十七話 ユミナとの束の間の再会

勇者達が消え《地図》機能で足取りを追うと、王都の北にある行った事のないダンジョンにいた。


この場に戻りそうもないので、素早く二人の伯爵の治療を済ませた。


「痛みが消えた!」


「傷も治っている!」


「奴等は《転移》で、何時戻るか分からない。城は安全な場所では無くなった。命が欲しければ、身を隠す事だな」


「救ってくれた事には感謝する。だが、お前は一体何者なんだ?」


「今はそんな事、どうでもいい」


「《結界》が張ってあるのに、どうやって王城に入った?」


「秘密だ」


「秘密だと! 不法侵入だと分かっているのか?!」


「捕まえるか?」


「流石に命の恩人に、そんな事はしたくない!」


「そうか」


「待て、グレン。その黒髪、もしや《魔王襲来》で王国を救った英雄殿ではないか?!」


「まさか!」


「ん? 何の事だ」


英雄視されるのは嫌なので、惚けてしまった。



そんな会話を交わしていると、ユミナが《結界》を解除し子供とメイドと共にこちらへ近付いて来た。


『うわー!』


心の中で、思わず叫んでしまった。

大人になったユミナは、美しさも色気もあの頃の比ではなかった。


『ふらっ!』


「大丈夫か?」


「ハァ、ハァ。すみません」


急にふら付いたので、咄嗟に体を支えてやった。

ユミナは、少し息を荒くしている。


「お前っ! 母上に触るな!」


ユミナと一緒にいた子供が僕を突き飛ばし、間に割って入った。


「バロン。この方は、命の恩人なのですよ。そんな言い方は駄目でしょ」


「しかし、母上! こいつ、ヘラヘラしてます!」


「バロン!」


「はい」


バロンと呼ばれた子供は、渋々返事をした。

ユミナの子供という事は、《王子》なのだろう。



「窮地を救っていただき、ありがとうございます」


「偶々だ。気にするな」


「偶々なのですか?」


「それより、魔力切れか?」


魔力が少なくなると、貧血のような症状になる。

辛そうにしているユミナに、問い掛けた。


「はい」


「俺の魔力を分けてやる」


「えっ、そんな! でも・・・・・、お願います」


了承を得るとユミナに手を翳し、魔力を分け与えた。



「ハッ! この感じ、懐かしい」


「えっ!」


「もしかして、あなたはニコル君ですか?!」


「うえっ!」


ユミナの突然の問い掛けに、僕は変な声を上げてしまった。


「「ニコルだと!」」


「きっと、神様に祈りが通じたんですね!」


そう言えばこの姿で、ユミナの前世である少女をバイクから救おうとした。

しかしその時は突然の事だったので、覚えているとは思えない。


「おっ、俺はヤマトだ!」


伯爵達に偉そうな口を利いた手前、ユミナにも正体を偽ってしまった。


「えっ!」


「やはり、英雄ヤマトか!」


随分昔だが、リートガルド伯爵領乗っ取り事件の時、この名を名乗っている。

グルジット伯爵が知っていても、不思議ではなかった。



「そんな事より、この状況を説明してくれ!」


「はっ、はい。彼等はガーランド帝国の勇者達で、エステリア王国を乗っ取りに来ました」


「乗っ取りだと!」


勇者達の首には、《悪事強制リング》が付いたままだった。

しかしこの状況は、リングの効果がない事を示唆していた。


「しかも彼等は、《魔人》になっていました」


「あれは、魔人だったのか?!」


思いもしない事で、色々と驚かされる。


「はい」


「あの紫色の血と生命力は、そのせいか・・・・・」


《鑑定》する間が無かったので、気付かなかった。



「英雄ヤマトよ。奴等を蹴散したその力で、王家の方々を守ってはくれぬだろうか?」


僕が考え込んでいると、ラングレイ伯爵がそんな要求をしてきた。


「俺には他に守るべき者がいる。そんな約束はできない」


その対象は勿論、家族やエシャット村のみんなである。

奴等がいつ何処に現れるか分からない今、王族の警護にだけ構っていられない。


「ではこの窮地に駆け付けた理由は、何だったのだ?!」


「・・・・・」


ユミナの助けを呼ぶ声が聞こえたからなのだが、言い出せなかった。



「私の祈りが、届いたのですね?」


「それは・・・・・」


「否定しないのですね?」


「いっ、いや。そんな事より、早く避難しろ!」


「「こやつ、誤魔化しおった」」


困っている僕に、伯爵達がすかさずツッコミを入れた。


「兎に角、俺はガーランド帝国の勇者達を追う。あんた達とはここまでだ!」


「えっ!」


「ヤマトよ。一緒に来てくれぬのか?」


僕は返事を返さず振り返ると、走って階段を降りた。


そして視界の届かない場所へ行くと、勇者達のいるダンジョンの近くへ《転移》した。



「ヤマトか。行ってしまったな」


「そうですね」


「私達も、早く避難しよう」


「はい」


「地下通路の扉は、既に閉まっている筈だ。《結界装置》を解除して、城門から出る」


「分かりました」


階段に向かうと、兵士の亡骸が転がっていた。



「兵士達よ、よくぞ守ってくれた。お陰で陛下達は避難でき、ユミナやバロンは助かった」


「皆さん、ありがとうございます」


「マイク、私は城に残る。上司として、こいつらを放っておけん。生きている者を集め、埋葬する」


「そうか。私も残ってやりたいところだが、頼んだぞ!」


「おじ様、申し訳ありません」


「いいんだ。城門まで送るから、無事に避難してくれよ!」


「はい!」


「バロン、こっちへ来い!」


「どうしてですか?」


「亡骸の中を歩くのは、お前には刺激が強すぎる。私が抱きかかえてやるから、目を瞑っていろ」


「お祖父様、大丈夫です! 僕は男ですから、自分の足で歩きます!」


「むっ、そうか分かった。気を付けるんだぞ!」


「はいっ!」


バロン王子は幼いながらに、男らしかった。

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