第十七話 ユミナとの束の間の再会
勇者達が消え《地図》機能で足取りを追うと、王都の北にある行った事のないダンジョンにいた。
この場に戻りそうもないので、素早く二人の伯爵の治療を済ませた。
「痛みが消えた!」
「傷も治っている!」
「奴等は《転移》で、何時戻るか分からない。城は安全な場所では無くなった。命が欲しければ、身を隠す事だな」
「救ってくれた事には感謝する。だが、お前は一体何者なんだ?」
「今はそんな事、どうでもいい」
「《結界》が張ってあるのに、どうやって王城に入った?」
「秘密だ」
「秘密だと! 不法侵入だと分かっているのか?!」
「捕まえるか?」
「流石に命の恩人に、そんな事はしたくない!」
「そうか」
「待て、グレン。その黒髪、もしや《魔王襲来》で王国を救った英雄殿ではないか?!」
「まさか!」
「ん? 何の事だ」
英雄視されるのは嫌なので、惚けてしまった。
◇
そんな会話を交わしていると、ユミナが《結界》を解除し子供とメイドと共にこちらへ近付いて来た。
『うわー!』
心の中で、思わず叫んでしまった。
大人になったユミナは、美しさも色気もあの頃の比ではなかった。
『ふらっ!』
「大丈夫か?」
「ハァ、ハァ。すみません」
急にふら付いたので、咄嗟に体を支えてやった。
ユミナは、少し息を荒くしている。
「お前っ! 母上に触るな!」
ユミナと一緒にいた子供が僕を突き飛ばし、間に割って入った。
「バロン。この方は、命の恩人なのですよ。そんな言い方は駄目でしょ」
「しかし、母上! こいつ、ヘラヘラしてます!」
「バロン!」
「はい」
バロンと呼ばれた子供は、渋々返事をした。
ユミナの子供という事は、《王子》なのだろう。
「窮地を救っていただき、ありがとうございます」
「偶々だ。気にするな」
「偶々なのですか?」
「それより、魔力切れか?」
魔力が少なくなると、貧血のような症状になる。
辛そうにしているユミナに、問い掛けた。
「はい」
「俺の魔力を分けてやる」
「えっ、そんな! でも・・・・・、お願います」
了承を得るとユミナに手を翳し、魔力を分け与えた。
「ハッ! この感じ、懐かしい」
「えっ!」
「もしかして、あなたはニコル君ですか?!」
「うえっ!」
ユミナの突然の問い掛けに、僕は変な声を上げてしまった。
「「ニコルだと!」」
「きっと、神様に祈りが通じたんですね!」
そう言えばこの姿で、ユミナの前世である少女をバイクから救おうとした。
しかしその時は突然の事だったので、覚えているとは思えない。
「おっ、俺はヤマトだ!」
伯爵達に偉そうな口を利いた手前、ユミナにも正体を偽ってしまった。
「えっ!」
「やはり、英雄ヤマトか!」
随分昔だが、リートガルド伯爵領乗っ取り事件の時、この名を名乗っている。
グルジット伯爵が知っていても、不思議ではなかった。
「そんな事より、この状況を説明してくれ!」
「はっ、はい。彼等はガーランド帝国の勇者達で、エステリア王国を乗っ取りに来ました」
「乗っ取りだと!」
勇者達の首には、《悪事強制リング》が付いたままだった。
しかしこの状況は、リングの効果がない事を示唆していた。
「しかも彼等は、《魔人》になっていました」
「あれは、魔人だったのか?!」
思いもしない事で、色々と驚かされる。
「はい」
「あの紫色の血と生命力は、そのせいか・・・・・」
《鑑定》する間が無かったので、気付かなかった。
◇
「英雄ヤマトよ。奴等を蹴散したその力で、王家の方々を守ってはくれぬだろうか?」
僕が考え込んでいると、ラングレイ伯爵がそんな要求をしてきた。
「俺には他に守るべき者がいる。そんな約束はできない」
その対象は勿論、家族やエシャット村のみんなである。
奴等がいつ何処に現れるか分からない今、王族の警護にだけ構っていられない。
「ではこの窮地に駆け付けた理由は、何だったのだ?!」
「・・・・・」
ユミナの助けを呼ぶ声が聞こえたからなのだが、言い出せなかった。
「私の祈りが、届いたのですね?」
「それは・・・・・」
「否定しないのですね?」
「いっ、いや。そんな事より、早く避難しろ!」
「「こやつ、誤魔化しおった」」
困っている僕に、伯爵達がすかさずツッコミを入れた。
「兎に角、俺はガーランド帝国の勇者達を追う。あんた達とはここまでだ!」
「えっ!」
「ヤマトよ。一緒に来てくれぬのか?」
僕は返事を返さず振り返ると、走って階段を降りた。
そして視界の届かない場所へ行くと、勇者達のいるダンジョンの近くへ《転移》した。
◇
「ヤマトか。行ってしまったな」
「そうですね」
「私達も、早く避難しよう」
「はい」
「地下通路の扉は、既に閉まっている筈だ。《結界装置》を解除して、城門から出る」
「分かりました」
階段に向かうと、兵士の亡骸が転がっていた。
「兵士達よ、よくぞ守ってくれた。お陰で陛下達は避難でき、ユミナやバロンは助かった」
「皆さん、ありがとうございます」
「マイク、私は城に残る。上司として、こいつらを放っておけん。生きている者を集め、埋葬する」
「そうか。私も残ってやりたいところだが、頼んだぞ!」
「おじ様、申し訳ありません」
「いいんだ。城門まで送るから、無事に避難してくれよ!」
「はい!」
「バロン、こっちへ来い!」
「どうしてですか?」
「亡骸の中を歩くのは、お前には刺激が強すぎる。私が抱きかかえてやるから、目を瞑っていろ」
「お祖父様、大丈夫です! 僕は男ですから、自分の足で歩きます!」
「むっ、そうか分かった。気を付けるんだぞ!」
「はいっ!」
バロン王子は幼いながらに、男らしかった。




