第十六話 ユミナの救出
僕の頭の中で、助けを求める声が聞こえた。
「君は、誰なんだ?!」
『せめてこの子だけでも、助けて下さい!』
「今、何処にいるんだ?」
『助けて、お願い!』
「僕の声は、聞こえてない? 待てよ。この声、聞き覚えがある。ユミナなのか?!」
十数年ぶりに聞くその声は大人っぽくなっていて、直ぐに気付かなかった。
それにこの通信は、あちらからの一方通行の様だ。
「ニコル?」
「ああ、すみません。今頭の中で、助けを呼ぶ声がしたんです」
「念話か?」
「さあ。でもその声が、昔の知り合いみたいなんですよ」
「女かえ?」
「まあ、そうですけど」
「ほほう。それはそれは」
ゼルリル様が、いやらしい目で僕を見た。
「緊急のようなので、お暇します。《転移》」
『フッ!』
僕はゼルリル様の視線から逃れる様に、この場を去った。
◇
ユミナは王太子と結婚しているので、王城の近くに《転移》した。
「何だこの有様は!」
王城のフェンスが外側に吹き飛び、敷地が焼け野原になっていた。
「それより、今はユミナだ!」
僕は《地図》機能で、ユミナの居場所を探した。
「いたっ! 三階だ」
その場所の近くには、リートガルド伯爵の件で行った事があった。
僕は素性を隠す為前世の自分に変装し、帯剣してから王城内に《転移》した。
「グフッ!」
「ゲフッ!」
転移先で、見知った顔が深手を負っていた。
グルジット伯爵と、ラングレイ伯爵である。
その傷を負わせた相手は、ガーランド帝国の勇者達だった。
『ウガー! 止めだーーー!』
「不味い!」
『シュバッ!』
『ガイーーーン!!』
僕は《瞬動》スキルで間合いを詰め、狂戦士の振るう剣を受け止めた。
「ウガー! てめえ誰だーーー!」
狂戦士は大剣を振り上げ、今度は僕に襲い掛かった。
『ヒュン!』
『ボトッ!』
『ブシューーー!』
僕は超速で剣を振るい、狂戦士の首を落とした。
そして落ちた首から《悪事矯正リング》が転がり、紫色の血飛沫を吹いた。
狂戦士の殺気に当てられ、僕は初めて人を殺めてしまった。
「ウガーーーーー!!! いてーーーーー!!!」
すると落ちた首が叫び出し、胴体は大剣を振り回した。
「「「「「「「「「「「なっ!!」」」」」」」」」」」
その場にいた者は、勇者達を含め全員驚愕した。
「こいつ、首を斬っただけでは死なないのか?!」
「てめー、この野郎!」
『ブオーーー!』
『ヒュン!』
魔槍士が僕目掛けて突いた槍を、剣の一振りで真っ二つにした。
『ヒュン!』
『ブシューーー!』
そのまま剣を切り返し、魔槍士の胴体を真っ二つにした。
『バタリ!』
「うおーーー!!! いてーーー!!!」
「こいつもか!」
「チッ、不味いな。《転移》」
『フッ!』
賢者がそう呟くと、次の瞬間勇者達の姿が消えた。
◇
賢者の機転で、勇者達はダンジョンに《転移》した。
「グギャオーーーーー!!」
「チッ! メギドラスラッシュ!!」
『ズサッ!!』
『ドサッ!!』
襲い掛かって来たダンジョンボスを、勇者は速攻で倒してしまった。
「すまねー、悪羽魔」
「気にするな」
「ところで、お前等大丈夫か?」
「ウガー! 大丈夫じゃねー!」
「見て、分かんだろ!」
「うん、大丈夫だな。お前等、分かれた体をくっ付けて押さえてくれ。エリクサーを使う」
「「「「ああ」」」」
「キーヒッヒッ!」
「ウガー! てめー、笑ってんじゃねー!」
「キーヒッヒッ! これで、良く生きてられんな?」
「全くだ」
「魔人になったせいなのか?」
「ガーランド帝国で見た奴等は、死んでたぜ」
「確かに」
「ウガー! 無駄口きいてねーで、早く直しやがれー!」
「すまん。すまん」
賢者は《アイテムボックス》から《エリクサー》を取り出し、二人に掛けてやった。
すると、分断された体は忽ち繋がった。
◇
「体が真っ二つになって生きてるなんて、訳が分からねーぜ!」
「ウガー! 今度会ったら、ぶっ殺す!」
「止めた方がいい。あいつは多分、《魔王に匹敵》する化け物だ」
「ウガー! そんな奴が、あちこちにいてたまるかー!」
「罵烙は、どう思う」
「悔しいが、俺には剣筋が見えなかった」
「キーヒッヒッ! 逃げて正解って事か?」
「そうだな」
「俺達の目的は、どうすんだ?」
「敵対する化物がいるってーのに、国の支配なんて無理だろ」
「このままじゃ、気がすまねー! トンズラする前にダンジョンを爆発して、この国を地獄に変えるぞ!」
「ダンジョンコアの破壊か? 俺達死に掛けたんだぜ。勘弁しろよ!」
「爆発するって分かってりゃ、《転移》でどうにかなんだろ!」
「悪羽魔、どうする?」
「やってできねー事はねーな。置き土産にいいんじゃねーか」
「キーヒッヒッ! このダンジョンにも魔王がいたりしてな」
「「「「「何っ!」」」」」
「魔王を相手にすんだったら、今の俺達の実力じゃ無理だぞ!」
「ウガー! いるかいないかなんて、行って確かめりゃいい!」
「そんな事言って、いたらどうすんだ?!」
「ウガー! 殺ってやるーーー!」
勇者達はこの遣り取りを、暫く続けた。




