第十五話 勇也叫ぶ
「紹介も済んだ事だし、飯にするか」と、勇也さんがみんなを促す。
料理とエールを頼み、先に運ばれてきたエールで乾杯をする。
「ニコルのパーティー加入にかんぱーい!」
「「「「「かんぱーい!」」」」」
勇也さんは日本では未成年だが、気にした様子も無くエールを飲んだ。
この国の成人の年齢は十五歳で、飲酒もこの歳から許されてる。
同じ歳の僕も飲んでるしね。
料理が次々運ばれ、ご馳走になった。
いろいろ食べたが、だし巻き卵とポテトグラタン、レッドボアのステーキが美味しかった。
だし巻き卵とポテトグラタンは、勇也さんがこの店の店主に伝授したらしい。
レッドボアは隣りのダンジョン産で、運搬費も掛かり値段は高いが、非常に美味しいという事で注文してくれたようだ。
エールを飲みながら、勇也さんが愚痴り出した。
勇也さんは、三日前僕と別れてから王城へ行き、宰相様に謁見を申し込んだ。
しかしその日には合えず、今日の午前中の謁見となった。
「あの宰相、武器と防具の援助を申し出たら、自分達で何とかしろだと。最初の話しと違う。あったまくるぜ」
「えー、そうなの? そうしたら先に進めないじゃない」
「そうなんだ。それを言っても、全然聞き入れてくれない。王様に合わせてくれと言っても、断られた」
「今ある金で買い揃えても、全員分となると中途半端な物しか買えぬぞ」
「そうっすよねー。魔物もどんどん強くなるし、その度に買い換えられないっすよねー」
「俺は勇者だぞ。異世界召還物のテンプレだったら、聖剣や魔剣を寄越すだろう。どうやって魔王と戦うんだっての!」
「テンプレ? それ、美味いのか?」
「テンプレは、食い物じゃないぞ。ジャン」
勇也さんは、少し冷めた口調注意する。しかし、テンプレの説明は無い。
「ジャンは、くいしんぼね」
「すまん。勇也が作った天ぷらを思い出した」
勇也さんは、天ぷら食べさせたのか。僕も食べてみたい。
「それにしても、ミスリルや魔鋼の剣なら王都の店にもあるっすよ。何で俺っち達、ただの鋼鉄の剣なんすかね?」
「たぶん、宰相が懐に入れてる」
無口なレナが、小さな声で呟いた。
「「「「「???」」」」」
「宰相、権力を利用して国費をちょろまかす」
また、レナが呟いた。
「本当なのか?」
「うわさ。証拠無い」
「くそー! 宰相のヤロー!」
それからは、みんなが愚痴りだした。
「俺は望んで勇者になったんじゃないぞー。この国にさらわれたんだー。それで魔王を討伐しろだとー、てめえらでやれってんだー」
「わしだってそうじゃー。わしより優れた者はおったのに、みんな嫌でわしに押し付けたんじゃー」
「私の回りも嫌がってる人ばかりだったけど、魔王討伐報酬の爵位と褒賞金に目が眩んで志願しちゃった」
「私は教会の司祭様に『姉がいるんだから』と、言いくるめられて反論できなかった」
「おれっちは、楽しそうだから志願したっす」
「ニコル、お前だけが頼りだ。俺達を見捨てないでくれよな」
僕は、ほど良く酒に酔っていた。
《状態異常耐性》のアイテムを身に付けてるけど、酒酔いに関してのセーフティーラインをちゃんと設けている。
だから、酩酊する事は無い。
しかし、つい言ってしまった。
「勇也さん! 僕だって魔王討伐なんて嫌ですよ。魔王討伐が嫌なら、辞めて他の国に行ったらどうです? 勇也さん、以前言ってたじゃないですか!」
「「「「「えっ!」」」」」
「だっておかしいでしょ! 異世界の国に誘拐されて、死ぬかもしれない戦闘に送り込まれてるんですよ!」
「それはそうだけど・・・」
「何か理由でもあるんですか!? 召還者に逆らえない術が掛けられているとか」
「術は掛けられてないが、魔王を討伐しないと元の世界に帰れないと言われたんだ」
「誰に言われたんですか? 召還者ですか?」
「いや、宰相に聞いた」
「はー、それ信じるんですか? それに本当だとして、魔王討伐直後に元の世界に送還されたら、勇也さん褒賞が貰えませんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・なーーにーー!」
今まで考えもしなかったようで、勇也さんは声を張り上げた。
そして酒盛りも終わり、会計は今回も勇也さんがしてくれた。
明日は、勇也さんの収納スキル《アイテムボックス》にあるドロップ品を、売りに行くそうだ。
しかし僕の最後言葉で、勇也さんの様子がおかしくなった気がする。
酔った上での発言だとしても、責任を感じる。
心配だったので『明日の夕方、また来ます』と、言い残し借家へ帰る事にした。
何もなければいいと願いつつ、僕は借家に転移しすぐに寝てしまった。




