第十一話 勇者パーティーと魔王の動向
悪羽魔 罵烙率いる勇者パーティーは、断崖絶壁の山を越えてエステリア王国へ入国した。
一行は魔王から逃れる為、痕跡を残さぬよう気を付けた。
しかし金銀財宝はあるものの、エステリア王国の硬貨を持っていなかった。
そこで偶々通り掛かった商人の馬車を襲い、金品と馬車を奪った。
後々騒ぎにならぬよう、その商人は消し炭にしてしまった。
「おい、賢人。何処に向かってんだ?」
馬車の手綱は、賢者が握っていた。
「兎に角、南だ。ガーランド帝国から離れる」
「ウガー! 王都へ行けー!」
「何でだよ?」
「国を乗っ取るって、言ったろウガー!」
「キーヒッヒッ!」
「悪羽魔、どうする?」
「王都へ向かえ」
「そうかい」
勇者達の目的地は、ユミナの《未来視》スキル通り王都となった。
◇
三日後。
「この国は、豊かだな」
「ああ」
「飯が美味いぜ!」
「ガーランド皇帝が欲しがったのも、分かる」
「殺っちまったがな」
「ひゃーはっはっ!」
「どうでもいいけどよ、そろそろ金が無くなるぜ」
「ウガー! 奪えばいいだろー!」
「キーヒッヒッ! そこの屋敷なら、金がありそうだ」
「でっけー屋敷だな」
「ウガー! 俺は行くぜー!」
「おいっ!」
狂戦士は馬車を跳び降り、屋敷へ向かった。
「やれやれ!」
賢者は呆れ、馬車で後を追った。
◇
「へへへ、たんまり持っていやがったぜ」
「これで暫く持つな」
「皆殺しとは、俺の魔法は効いてないのか?」
《狂暴性》を押さえる為、賢者が全員に《平常心》の魔法を掛けていた。
「キーヒッヒッ! 目撃者は、始末するにかぎる」
「それはそうだが、騒ぎを大きくすると魔王に気付かれるかもしんねーぞ」
「賢人。もう三日も過ぎてる。気にし過ぎだ」
「何故だ?」
「索敵に優れていれば、とっくに追いついてるだろ!」
「一理あるが、油断は禁物だ」
賢者は、仲間達の警戒心が薄れていくのを感じた。
「ウガー! ぐだぐだ言ってねーで、馬車に戻るぞ!」
「くっ!」
「キーヒッヒッ! この家の馬車の方が、良さそうだぜ」
「おっ、いいの見付けたじゃねーか」
「それじゃ、乗り換えるとするか」
こうして勇者達は豪商の屋敷を襲い、大金と大きな馬車を手に入れた。
◇
その頃ガーランド帝国の魔素が広がる地域では、《紫色の目を持つ者》が狩られる噂が広まっていた。
「苦しい思いをして折角生き残ったのに、何で狙われるんだよ!」
「あいつ、《鑑定》が効かなかったぜ!」
「それって、もしかして《魔王》じゃねーか?!」
「そんな訳ねーだろ! 魔王と魔人と言やー、仲間じゃねーか。何で狩るんだよ!」
「知らねーよ。どうでもいいから、逃げるぞ!」
彼等は、魔人になってしまった召喚者達である。
同じ召還者が魔王に狩られる現場を目撃し、命からがら逃げのびた。
彼等だけでなく、大爆発で生き残った召喚者の多くが魔人になっていた。
◇
魔素の届かない地域でも、不安の声が上がった。
「あの黒い霧の中には、魔物がうじゃうじゃいるらしいぞ」
「人が入ったら、生きて帰って来れないという噂だ」
「帝都は、大丈夫なのか?」
「誰も戻って来れないんだから、分からんよ」
「帝都におられる領主様が、無事だといいんだが」
「そうだな」
「この国は、一体どうなってしまうんだ?」
先の見えぬ不安から、帝国民の気持ちは沈んでいた。
◇
一方、帝城では。
「勇者達、戻って来ないな?」
「あんな殺人鬼、ずっと戻って来なければいいんだ!」
「馬鹿っ! 聞かれたら、殺されるぞ!」
「どっちにしろ、外に出られないんだ。何れ、飢えて死ぬだろ!」
「ギリギリまで、希望を捨てるな!」
「そんな事言ってもよ、何処に希望があるんだ?!」
「・・・・・」
この場にいる者達は、一様に俯いた。
『バンッ!』
そんな時、扉が勢い良く開いた。
『『『『『『『『『『ビクッ!』』』』』』』』』』
「聞け! 安全な場所へ行きたい者は、我の元へ集まれ!」
「あなたは?」
「素性など、どうでも良い!」
「この魔素や魔物の中、どうやって行くんだ?」
「我に任せろ!」
「そんな事言ったって」
「お主、こちらに来い」
「私ですか?」
指名された男は、不信に思いながらも近付いた。
『スッ!』
「「「「「「「「「「消えた!」」」」」」」」」」
二人の姿が消え、この場にいる者達は驚きの声を上げた。
◇
数十秒後。
『『スタッ!』』
「「「「「「「「「「わっ!」」」」」」」」」」
二人が急に現れ、再び驚きの声を上げた。
「おい、みんな! 俺は今、魔素の無い街へ行ったぞ!」
「どういう事だ?」
「《転移》、《転移魔法》だよ!」
「《転移魔法》って、勇者が使うやつか?!」
「そうだよ!」
「だったら、俺達助かるんだな?!」
「ああ、助かるぞ!」
「「「「「「「「「「やったー!」」」」」」」」」」
「お主等、理解したな?」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「では、城にいる者達に教えてやれ。そして、荷物を纏めてここへ集まれ」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
魔王は《魔人狩り》をしながらも、《人命救助》を行っていた。




