第十話 危機感知と未来視の影響
《危機感知》スキルが反応した翌朝。
「二人共、ごめんな」
「また今度、連れて来てね」
「うん。約束だ」
「パパ、僕も」
「ああ、レコルも一緒だ」
僕達家族は、海辺の保養所を予定より早く引き上げた。
その帰りの途中フロリダ村の店に寄り、従業員達に警戒を促した。
「そういう訳で、昨日から《危機感知》スキルが相当ヤバイレベルで働きっぱなしなんだ。君達も警戒してくれ」
「「「はい!」」」
「それとエシャット村の人を見掛けたら、教えてやってくれないか?」
「「「分かりました!」」」
「でも、危険って何なんですかね?」
「バーカ。それをニコルさんが、分からないって言ってんだろ!」
「それはそうだけどさ、気になるでしょ!」
「お前達、言い争いは止めろ!」
「「はーい」」
この後ミーリア達を店に待たせ、僕は役場へ足を運んだ。
◇
「ニコル、昨日振りだな。早速パエリアの調理方法を、伝授しに来たのか?」
「いいえ。それは、次の機会でお願いします」
「では、どうしたのだ?」
「はっきりとは分かりませんが、危険が迫ってるかもしれません」
「何だそれは。何処からの情報だ?」
「いえ。僕の《危機感知》スキルが、昨日からざわついてるんです」
「ニコルの《危機感知》スキルだと?」
「ええ。思い過ごしならいいのですが、こんな事は初めてで」
「ニコルのそのスキルがどれ程のものか分からんが、一応気には止めておく」
「お願いします」
リートガルド様は今までの長い付き合いから、一応聞き入れてくれた。
◇
家族を迎えに行きエシャット村へ帰ると、父さんにも同様に説明した。
「《魔王襲来》以来の危機を、感じてるだと!」
「そうなんだ。だけど、昨日から何も起こる気配がないんだ」
「それが勘違いじゃないとしたら、この先起こるのかもな」
「僕もそう思う。念の為、村に《結界》を張らせて欲しい」
「ニコルがそこまで言うなら、やってくれ」
「ありがとう」
父さんは村人を集め、説明してくれた。
村人達も『ニコルが言うなら』と言って、素直に同意してくれた。
僕はこの後、エシャット村を覆う《結界》を張った。
◇◇
その頃、王太子の三人目の妻となったユミナは、《未来視》スキルである出来事を視て不安に駆られていた。
その出来事とは、ガーランド帝国から魔人と化した勇者達がやって来て、王城を急襲するというものだった。
『このままでは陛下や殿下や貴族達は殺され、私達女は・・・・・』
王族の女性は彼らの《慰み者》にされ、子供達は幽閉され人質に取られる。
『彼らには、武力では敵わない。どうすればいいの?』
ユミナは能力を明かしておらず、どう警告すればいいか悩んでいた。
『トン!、トン!』
「はい」
「私だ!」
「お父様、どうぞ入って下さい」
「失礼する」
『パタン!』
「久し振りだな」
「ええ。忙しいところ、お呼び出ししてすみません」
「それはいい。顔色が優れない様だが、大丈夫か?」
「はい」
「ユミナ様。休まれた方が、いいです!」
「アンナ。席を外して貰っていい?」
「えっ!」
「私からも、頼む」
「・・・・・そうですか。分かりました」
侍女は只ならぬ雰囲気を察し、部屋を出て行った。
◇
「お父様!」
ユミナは父親へ歩み寄り、その胸に飛び込んだ。
「ユミナ?」
「うっ、うっ!」
ユミナは不安に押し潰されるのを我慢していた為、泣き崩れてしまった。
「一体、どうしたのだ?」
「うっ、うっ!」
「《未来》を視たのだな?」
「はい。今お話ししますので、少し待って下さい」
「ああ」
「***** ******* ***** ******* ******* 防音結界」
ユミナはこれから話す内容の事の重大さに、《防音結界》を張り盗聴を阻んだ。
「ユミナ。その話しとは、《防音結界》が必要な程なのか?」
「はい。これから話す事は、他人に知られると騒ぎになります」
「そうか。ユミナ、聞かせてくれ」
「お父様、心して聞いて下さい。この先、この国に大変な事が起こります」
ユミナは父親であるグルジット伯爵に、《未来視》スキルで視た内容を伝えた。
◇
「そんな事が!!!」
「この王都に、彼等に敵う者は恐らくいません」
ユミナは自分達が陵辱される事までは、伝えなかった。
しかしグルジット伯爵は、『ユミナがただで済む筈が無い』と思っている。
「ユミナ。だとしても、魔人の好き勝手にはさせぬからな!」
「お父様。何か策は、あるのですか?」
「私が、命に代えても守る!」
「そんな!」
「王城を覆う《結界装置》と、地下通路から逃げる準備も整えておく」
「お父様。どうか、命を大切にして下さい!」
「ユミナ。王族や国を守るのが、貴族の使命なんだ!」
「お父様!」
ユミナは『争って殺されるくらいなら、城を捨て避難しては』と言いたかったが、口にできなかった。




