第九話 勇者パーティー、窮地に陥る
魔王の姿を見て、勇者達は驚愕した。
「まさかあの爆発で、全員生きておるとはな」
「あんな罠を仕掛けるとは、魔王のくせに卑怯だな?!」
「違う。あれは、我の意図したものではない。こちらも、迷惑を被った」
「偶然だっつーのか?!」
「そうだ」
「チッ!」
「この惨劇は、我がお主等を舐めておったのが原因」
「けっ、言い訳かよ!」
勇者は、言葉を吐き捨てた。
『スンッ!』
「血生臭いな。人を殺したのか?」
「ああ。リングの影響が無くなって、皇帝や貴族を殺ってやった!」
「勇者が魔人となって皇帝を殺すとは、何の因果か」
「抜かせっ!」
「やはり、野放しにできんな」
「続きをやろうってのか? いいだろう。決着をつけてやるぜ!」
魔王と勇者達は、再び対峙した。
◇
「「「「「「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・」」」」」」
勇者達は魔王の攻撃に圧倒され、息を上げていた。
「ステータスが三倍に上がったというのに、まだ届かねーのか?! 賢人頼む!」
「悪羽魔、またあれをやるのか?」
「ああ」
「やらせんぞ!」
『カッ!!!』
「「「「「「うっ!!!」」」」」」
魔王が放った高レベルの《威圧》スキルに、勇者達は怯み動けなくなった。
「《超爆裂》!」
『ドゥォォォガーーーーーーーーーーーン!!!!!』
体が硬直した勇者達を、凄まじい爆発が襲った。
「くっ! 《転移》」
死を思わせる強力な魔法に、賢者は咄嗟に《転移》した。
「チッ、逃がしたか!」
魔王は空中に浮きながら、《結界》の中でそう呟いた。
勇者達がいた場所は、直径二百メートルのクレーターになっていた。
その範囲は今も、炎と爆風が吹き荒れている。
もう少し《転移》が遅かったら、勇者達は死んでいた筈だ。
「ウガーーー!」
「キヒャ!」
「うぐっ!」
「ボヘッ!」
「くっ!」
勇者達は一日に二度、死に瀕した。
「《上級体力回復》」
賢者は自身を回復させると、焼けただれた仲間達を回復していった。
◇
「賢人、助かったぜ」
「おい、悪羽魔。戦うなんて、言ってる場合じゃない。本気になった魔王は、桁違いだ!」
「悔しいが、お前の言う通りだ」
「見付かる前に逃げるぞ!」
「何処へだ?」
《転移》した場所は、エステリア王国の国境近くにある街だった。
「このまま、エステリア王国へ行く! リングの効き目が無くなった今、密入国も可能だ」
「魔王は、追って来ると思うか?」
「魔王の索敵能力が、どれ程のものか分からん。俺達が力をつけるまで、対峙は避けたい」
「ウガー! ムカつくーーー!」
「キーヒッヒッ! しょうがねーだろ」
「この紫色の目は目立つ。足取りがつく様では不味い。目の色だけでも、変えるぞ。《変装》X6」
賢者は全員に魔法を掛け、紫色の目を白く見える様にした。
「どうだ?」
「おっ、おう!」
「キーヒッヒッ! いいんじゃねーか」
「ああ。元に戻った」
「狂暴性も押さえた方がいいな。《平常心》X6」
「「「「「うっ!」」」」」
「そこまでする必要あったか?」
「あちこちで、無闇に暴れてたら目立つだろ」
「それもそうだな」
「準備は整った。行くぞ!」
「「「「「おう!」」」」」
勇者達は魔王から逃れる為、エステリア王国へ向かった。
◇◇
※時間は、ダンジョンコアが爆発した直後に戻る。
僕は察知した《危機関知》スキルに、最大の警戒を払った。
「《結界》」
「ニコルちゃん、どうしたの?」
「何か分からないけど、危険が迫ってる」
「えっ!」
「こんな事は、《魔王》が現れた時以来だ」
「そんなっ!」
「君達は僕が守るから、安心してくれ!」
僕は命に替えても、家族を守るつもりだ。
「うん!」
「「パパー!」」
緊張感が伝わったのか、サーシアとレコルが僕に抱き付いて来た。
「二人共。パパがいるから、大丈夫だぞ!」
「「うん!」」
そう告げると、息を飲んで非常事態に備えた。
◇
「パパー、何も起こらないね!」
「起こらないね!」
「うっ、うん。そうだな」
《危機関知》スキルが反応してから一時間経つが、何も起こらなかった。
何も起こらないのは良い事だが、言った手前少しばつが悪かった。
《影分身》を飛ばしエシャット村やフロリダ村を確認させているが、変わった様子は無い。
その間も、《危機関知》スキルは反応したままである。
こんな事は、初めてだった。
「変だな」
「ねえ、パパ。大丈夫?」
「パパ、大丈夫?」
サーシアとレコルが、不安げな顔で僕を見上げた。
「ああ、大丈夫だ」
二人を安心させる為、頭を撫でてやった。
「かき氷でも、食べようか?」
「「うん、食べる!」」
緊張しっぱなしだと息が詰まるので、子供達をリラックスさせた。
結局この日は、何も起こらなかった。




