第八話 ガーランド帝国陥落
ガーランド帝国帝城には、異常を察知すると直ぐに《結界》が張られた。
今は魔物を退治しながら、魔素の混ざった空気を《聖属性魔法》で浄化している。
「皇帝陛下。城での魔物の発生は、押さえられました」
「ご苦労、ギルガメッシュ将軍。ところで、国の被害状況は分かるか?」
「申し訳ありません。全く持って、掴めておりません。ただ、帝都は壊滅的かと」
「そうか。お主も、家族が心配であろう」
「その件については、覚悟しております」
「すまぬな」
「お気に為さらずに」
「うむ。だがこのまま籠城が続けば、何れ食料は尽きてしまう」
「はい。魔物の増殖が収まらねば、もはや城外からの入手は不可能です」
「このまま飢え死にする訳にはいかん。何とかこの状況を打開せねば」
「宰相を始め、大臣共が話し合っております。いま暫くお待ちを」
「待っているだけというのも、何とも落ち着かぬものだ」
「そうですな」
「できれば魔素の影響の無い土地で、一刻も早く国を立て直したいのだが」
「それにはやはり、魔物が埋め尽くす土地を突っ切る必要があります」
「残った兵力で、突破は可能か?」
「何とも言えません。何処まで魔素の影響が、及んでいるか分かりませんので」
『ドゴーーーン!』
そんな会話の最中、部屋の外で大きな物音と振動がした。
◇
「ウガー! 皇帝は何処だーーー!」
音の原因は、狂戦士が振るった大剣が壁を砕く音だった。
その下の床には、死体が数体転がっていた。
『ザシュッ!』
「うあー!」
「キーヒッヒッ! この感じ、久し振りだぜ」
「おい。その部屋が、皇帝の執務室だ」
「ウガー! ここかーーー!」
『ドガーーーン!』
狂戦士が、重厚な扉を蹴破った。
「「なっ!」」
狂戦士を先頭に、勇者達は執務室に侵入した。
「久し振りだな、皇帝陛下。それに、ギルガメッシュ将軍」
「お主らは、勇者とその仲間!」
「その紫色の目は、どうした?!」
「この目か? 俺達はどうやら魔素の影響で、《魔人》になってしまった」
「「魔人だと!」」
「そのせいか、性格がやけに狂暴になってしまってな」
「お主ら、元々狂暴だったではないか?!」
「アーハッハッ! そうだったな。この首のリングのせいで、忘れてたぜ」
「陛下。こ奴等は《転移》を使えます。ここから脱出するには、交渉した方がよろしいのでは?!」
「そうだな!」
「将軍。何的外れな事を言ってるんだ?」
「何だと!」
「俺達はてめえらを、殺しに来たんだ!」
「何っ!」
「俺達を召喚したくせに、『戦争に使えなければ、用無しだ』と言って、《魔王襲来》が終わったとたん帝都から追い出しただろ!」
「くっ!」
「お主等は、人に害を与えられなくなった筈!」
「部屋の外の惨状を見て、分かんねーのか?」
皇帝が破壊された扉の向こうを見ると、近衛兵士の死体が幾つも転がっていた。
「まさか、リングの影響が無くなったというのか?!」
「そのまさかだよ!」
「何という事だ!」
「この国は、俺達が貰ってやる!」
「馬鹿を言うな!!」
「ヌオーーー! 勇者共よ、舐めるなーーー!!!」
ギルガメッシュ将軍は、怒号と共に《アダマンタイト》の剣を抜いた。
「別に舐めてないね。あんたの強さは、重々承知してる。だが俺達は、追放されている間あんたを越えた!」
そう言いながら、勇者も聖剣を構えた。
「その剣は、聖剣ゴルディバス!」
「ああ。《魔王襲来》の時に、貰ったやつだ!」
「やってはおらぬぞ。貸し与えたのだ。返せっ!」
「へー、そうだったんだ。今更、遅いぜ!」
皇帝は幾度となく取り戻す命令を出したが、勇者はそれを上手くかわした。
「それじゃ将軍。始めるか!」
「ウガー! 罵烙てめー、ズリーぞ!」
「その通りだ!」
「俺も行く!」
「キーヒッヒッ!」
賢者以外の仲間が、前に躍り出た。
「やれやれだぜ! 皇帝の首は、取っておけよ」
こうしてガーランド帝国皇帝とギルガメッシュ将軍は、勇者達に討たれた。
◇
勇者達は皇帝と将軍を殺害した後、敵対した皇族男子・貴族・兵士を殺した。
そんな中、皇族女性と恐怖に怯え抵抗しなかった給仕達は生かされた。
「ウガー! 俺等の国だーーー!」
「好き放題だな!」
「宝物庫を漁ろうぜ!」
「キーヒッヒッ!」
「お前等、はしゃぐなよ」
「俺は崩壊寸前のこの国だけじゃ、満足できねー!」
「罵烙。戦争でも仕掛ける気か?」
「皇帝が落とせなかったエステリア王国を、落としてやる!」
「俺達だけでか?」
「兵隊がいるな」
「だったらよ、魔人になった奴等を集めようぜ」
「ウガー! 魔人部隊だー!」
「それじゃ、探しに行くか?」
「「「「「おう!」」」」」
勇者達は意気揚々にしているが、大事な事を忘れていた。
◇
勇者達は城を出て、仲間になる魔人を探した。
「ウガー! 何だこりゃ!」
「ここにも、魔人の死体だぜ!」
「何人目だ?」
「キーヒッヒッ! 五人目だ」
「魔物に殺られた訳じゃねーな」
「魔物は敵意を見せない限り、俺等を襲わない」
「キーヒッヒッ! 魔人は魔物から、同類と思われてるんじゃねーか?」
暗殺者が言った事は、当たっていた。
魔人の体内には魔物と同じ魔石があり、それにより同類と見なされた。
「死体は全部、右胸を抉られてるな」
「そう言えば!」
「意図したものか?!」
「ウガー! 一体、誰の仕業だー!」
『シュタッ!』
「我の仕業だ!」
「「「「「「魔王!」」」」」」
勇者達の前に、再び魔王が現れた。




