第七話 魔人
魔王は剣戟の衝撃を逃す為空に《転移》し、そのまま数百メートル飛ばされた。
その直後、ダンジョンを中心に大爆発が起こった。
魔王は爆風の中、放心状態になった。
「ダンジョンコアを破壊されるとは、なんたる失態!!」
そして、この事態を悔やんだ。
《聖剣》は勇者が扱うと、魔物に対し《特殊効果》があった。
その力を解放する事で、魔王にも絶大なる力を発揮した。
「抜かったわ。奴のあの聖剣と技で、あの様な威力を発揮するとは!」
勇者に対し、魔王は警戒を怠り大した武装もしていなかった。
「こうなっては、収集がつかぬ。この国は、滅ぶしかなかろう」
魔素は広範囲に広がり、その回収には魔王を持ってしても時間が掛かった。
何しろ魔界で、百年掛けて集めた量である。
その魔素から次々と魔物が湧き出し、人々を襲った。
「これだけの魔物、我でもダンジョンコアとダンジョンが無ければ制御できぬ」
魔王は早々に、魔物を制御する事を諦めた。
「厄介なのは《魔人》。こ奴等は魔物と違って、魔素の広がる範囲から出ていける」
それは、大陸全土に害を成す危険を孕んでいた。
「こやつらだけは、殲滅する必要がある!」
魔王は一瞬で戦闘モードの装備を纏い、空を飛んだ。
◇
「ヒャッハー! 人間がいたぜー」
魔人は人間を見付け、二人掛かりで両腕を掴んだ。
「なっ、何をする?!」
「血祭りに上げろー!」
「内臓を、抉り出せー!」
「何言ってんだ? 冗談だろ」
魔人は、剣を構えた。
「止めろー! 止めてくれー!」
『ザシュ!』
「ウギャーーーーー!!!」
魔人達は人を見付けては、殺戮を繰り広げた。
『ヒューーーーーーーーーー、ズドーン!!!』
魔人達の前に魔王が飛来し、土埃が舞った。
「ぶはっ! 何が落ちて来やがった?!」
『ビュン!』
『ズボッ!』
「グハッ!」
『バタッ!』
魔王は土埃の中から《雷槍》を放ち、剣を持った魔人の右胸を貫いた。
その貫通した《雷槍》には、紫色の球が突き刺さっている。
この球の正体は、魔人の体内で作られた《魔石》である。
魔石は右の肺で作られ、それにより人は魔人化する。
魔素の充満する中で活動できるのも、魔石の齎す効果だった。
だが魔石は、魔人にとっての《急所》でもあった。
魔王は、その事を知っていた。
その他魔人の特徴として、血と白目が紫色に変わる事が上げられる。
『ブオッ!』
風魔法が土埃を吹き飛ばし、その中から武装した魔王と魔人の死体が現れた。
「「なっ! 死んでる」」
「魔人共よ。殺戮の代償に、その命貰い受ける!」
「何言ってやがる。舐めんじゃねーーー!」
「ぶっ殺す!」
魔王は襲い掛かって来た魔人達に、右手を翳した。
『ビュン! ビュン!』
『ズボッ! ズボッ!』
右手から放たれた《雷槍》が、有無を言わさず右胸を貫き魔石を破壊した。
「「グハッ!」」
『バタッ! バタッ!』
二人は勢いのまま地面に倒れ、命を失った。
「ゆるせ」
『スッ!』
魔王は直ぐ様、次の魔人を探しに空を飛んだ。
◇
一方、勇者はダンジョンのあった場所に戻り仲間を探した。
「あの爆発だ。まず、助からんだろう」
しかし、『自分が助かった様に、万が一がある』という思いがあった。
残虐性は以前より強くなったが、仲間意識は残っていた様だ。
「ウガー!」
「キーヒッヒッ!」
「爆槍!」
「《火炎竜巻》!」
「《テンペスト》!」
二時間に及び捜索していると、魔物を狩る集団がいた。
「お前等、生きてたのか?!」
「おー、罵烙。お前も生きてたか!」
「探したぜ!」
くしくも、仲間達は全員生きていた。
「あの爆発から、どうやって生き延びた?」
「賢人のお陰だ!」
賢人とは、賢者の名前である。
「賢人が死に瀕していた俺達を、瓦礫の中から探し出し救ってくれた」
「魔王と悪羽魔の戦闘が始まった時、《防御結界》を張ったがもろとも吹っ飛ばされた。あれが無かったら、全員危なかった。運が良かったぜ」
「ははっ、そうか。お互い、悪運は強い様だな」
「ああ。《魔人》になっちまったがな」
全員、白眼の部分が紫色に変わっていた。
「だがよ。お陰で、電撃が全く効かなくなった」
「ウガー! ステータスも上がったし、魔人も捨てたもんじゃないぜ!」
「キーヒッヒッ、だな」
他の連中も、勇者と同じステータスの変化が起こっていた。
「ほら。お前の剣も、回収しておいたぞ!」
賢者は《アイテムボックス》から聖剣を取り出し、勇者に渡した。
「おお、助かる!」
勇者は爆発で、聖剣を手放していた。
「ははっ、《ゴルディバス》よ。手放して悪かった」
勇者は聖剣を手にし、喜んだ。
「お前等、帝城に行くぞ!」
「俺達を用無しと言って帝都を追い出した皇族や貴族を、ヒーヒー言わせるのか?!」
「おっ、いいな!」
「ウガー! 皆殺しだー!」
「キーヒッヒッ、楽しみだ!」
「それじゃ、《転移》するぜ!」
「「「「「おう!」」」」」
賢者の言葉に、仲間達が応えた。
『フッ!』
次の瞬間、勇者達の姿が消えた。




