第六話 勇者対魔王
戦闘開始から、四時間が過ぎた。
「「「「「「はぁ、はぁ、はぁ」」」」」」
「くそっ! つえーな」
「俺達は、強くなった筈だ」
「何なんだ。奴の無尽蔵の魔力は?!」
「魔王とは、これ程なのか?!」
「キーヒッヒッ。引くしかねえな」
「いや、駄目だ。《転移阻害の結界》が張ってある」
「ウガー! どうすんだー?」
「限界を超えるしかねえな!」
「おい。まさか、あれをやるのか?!」
「ああ、やる!」
「体が壊れるぞ!」
「覚悟は決めた。それ以外に方法はねー!」
「仕方ねーな。後で治してやる」
「頼んだぜ」
賢者は勇者を気遣うも、勇者の言葉を聞き入れた。
「《身体強化スキルレベル6》」
勇者は、使える限界の身体強化スキルを使った。
「《付与属性魔法身体強化レベル6》」
それに上乗せし、賢者が更に身体強化の魔法を掛けた。
「ウォーーーーー!!」
《身体強化》スキルは、《攻撃力》・《物理防御力》・《筋力》・《敏捷》のステータスが一時的に上昇する。
その数値は、次の様に倍増する。
レベル1、一.五倍。
レベル2、二倍。
レベル3、四倍。
レベル4、六倍。
レベル5、十倍。
レベル6、十五倍。
レベル7、二十五倍。
レベル8、四十倍。
レベル9、六十倍。
レベル10、百倍。
《付与属性魔法》の《身体強化》も、また同様である。
これにより勇者の身体能力は、《三十倍》に膨れ上がった。
しかし無理をしたその反動は、自身の体に帰って来る。
「ほう。奥の手と言ったところか」
「行くぜーーー!!」
「来いっ!」
『ガイン! ガイン! ガイン! ガイン!・・・・・・・・・・!』
激しい打ち合いで、一瞬魔王の態勢が揺らいだ。
「今だっ! 《メギドラスラッシュ》!!」
『ゴイーーーーーン!!』
『ズザザザザザザーーーーー!』
「くっ!」
魔王はその一撃に、足を引き摺り大きく後ずさった。
「《聖剣ゴルディバス》よ。力を解放しろ!」
『キュオーーーーー!!!』
勇者の言葉に反応し、手に握られた聖剣が高鳴りと共に青く光り輝いた。
「止めだっ! 《メギドラゴンスラッシュ》!!!」
掛け声と共に《瞬動》スキルで、一気に間合いを詰めた。
勇者の本当の奥の手は、魔王に《特効効果》のある聖剣の力の解放とこの技だった。
二つの身体強化は、この技に耐える為だった。
『ゴギャーーーーーン!!!!!』
『ピキッ!』
攻撃力の爆増した剣戟を受け、魔王の剣に皹が入った。
『ギュオオオオオオオーーーーーーーーーー!!!!!』
「くっ、不味い!」
『スッ!』
その瞬間、魔王の姿がその場から消えた。
『ズザザザザザザザーーーーーーーーーー!!!!!』
勇者の剣戟は、そのまま固いダンジョンの壁を切り裂いた。
《ある物》と共に。
『ドゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
その結果、大爆発が起こった。
◇
勇者が破壊したある物とは、《ダンジョンコア》である。
ダンジョンコアは元々《直径百キロ》もある魔素の球体を、《直径十メートル》に圧縮したものだった。
長い年月で消費したとはいえ、そのエネルギーは計り知れないものである。
爆発は一瞬でダンジョンコアルームを吹き飛ばし、ダンジョンと街を破壊した。
魔素はダンジョンを中心に拡散し、《帝都》をも覆った。
ダンジョンと街にいた人間は、直撃を受け殆どの者が死ぬ事となった。
「いっ、息が・・・・・」
「くっ、苦しい」
「ぐっ、ぐっ、ぐぎゃーーー!」
魔素が充満する中で、《窒息死》する者や生き残り《魔人》に《種族変化》する者がいた。
「うわー、魔物だーーー!」
「キャーーーーー!」
「逃げろーーー!」
「たっ、助けてくれーーー!」
辛うじて呼吸可能な場所では、魔物の大群が人々を襲った。
死んだ者は魔素の影響でゾンビと化し、そのゾンビはまた人を襲った。
ガーランド帝国は、瞬く間に《地獄》と化した。
◇
『うっ、うう。体がっ!』
勇者は土砂に埋もれ、偶然にも生きていた。
身体強化三十倍が、命を救ったのかもしれない。
『動けん。一旦、外だ。《転移》』
勇者は声を出すのもままならず、頭の中で念じた。
《転移阻害の結界》は、魔王が《転移》する時に解かれていた。
『スッ!』
『うわっ!』
勇者が《転移》した場所には、地面が無かった。
そこは爆発で吹き飛び、クレーターができていた。
そしてクレーターには、無数の魔物が蠢いていた。
『《転移》!!』
勇者は慌てて、《転移》した。
『何だこの有様は?!』
帝都に《転移》するも、魔物が人を襲っていた。
『兎に角、回復だ』
勇者は《アイテムボックス》を開き、《エリクサー》取り出し飲み干した。
すると、破損した内蔵や折れた手足が、みるみる内に回復した。
「うっ、体は回復したようだが、この《狂気》に満ちた感情は何だ?」
殺戮の動悸が、沸いてきていた。
『ビリビリビリ・・・・・・・・・・!』
「おかしい。リングの電撃が効かない」
勇者は、ステータスを確認した。
「ステータスが三倍に上がっている。それに《電撃耐性》スキルが、一気にレベル10になった!」
《電撃耐性》は、先程までレベル6だった。
しかしリングからは、耐性レベルを上回る電撃が放たれていた。
「それはいい。問題は《種族》だ! この俺が《魔人》だと!」
自分は人間でないと知り、勇者はうろたえた。




