第五話 ボス部屋の下のただならぬ気配
時間は少し遡る。
ガーランド帝国の勇者パーティーは、ダンジョンのボス部屋にいた。
《魔王襲来》の時期が過ぎると、召還者達は揃って帝都を追い出された。
それは《悪事矯正リング》の影響を受け、戦争での利用価値が無くなったからである。
大半の者はダンジョン探索者を続けたが、スキルを活かし商売を始めた者もいる。
中には、砂漠の緑化を試みる者も現れた。
彼等は悪意を抑える術を身につけ、異世界の生活に馴染んでいた。
「本当に、やるのか?」
「ああ、やってくれ。お前達も、異論はねーな?」
「とっとと、やれよ」
「キーヒッヒッ!」
「ウガー!」
「異議無し」
勇者はボス部屋の下から、度々《ただならぬ気配》を感じた。
それが何なのか確認する為、賢者に穴を掘る様命じた。
「行くぞっ! 《縦穴》!」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・・・・・・・・!』
地面に直径二メートル程の穴が、開けられた。
◇
「随分深くまで掘ったぞ!」
「絶対何かある。続けろ!」
「チッ、分かったよ!」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・・・・・・・・スカッ!』
「手応えが消えた。空洞がある!」
「空洞だと! 何か感じるか?!」
「分からん」
「ウガー! だったら、さっさと降りようぜ!」
「何が出るか分からねーんだ。気ー抜くんじゃねーぞ!」
「ウガー! うっせー!」
「キーヒッヒッ!」
勇者は危機意識の無い狂戦士に忠告したが、素直に聞き入れられなかった。
「《飛行魔法陣》」
賢者が魔法を唱えると、縦穴の中に魔方陣が出現した。
これは人を乗せて飛ぶ事ができる、《飛行属性魔法》の一種である。
「《光玉》。降りる準備ができたぞ!」
賢者は魔法で明かりを灯し、魔方陣に乗り込んだ。
「俺等も乗るぞ!」
「あらよっ!」
「よいせっ!」
「キーヒッヒッ!」
「ウガー!」
「全員乗ったな。出していいか?」
「ああ、出してくれ」
『スーーーーー!』
勇者達はこうして、地下深く潜って行った。
◇
一キロ程降りると、空洞に辿り着いた。
「広いな」
「ああ」
「キーヒッヒッ! 悪羽魔が言ってたダンジョンボス以上の魔物なんか、いやがらねーな」
「ウガー! 期待外れだー!」
「待て! 向こうに、屋敷がある」
「何っ! こんな場所に、人がいるってーのか?」
「兎に角、行くぞ!」
勇者達は、歩を進めようとした。
『シュタッ!』
「それには、及ばん」
「「「「「「なっ!」」」」」」
勇者達の前に、突然風格のある白髪の男が現れた。
「誰だ、お前は?!」
「屋敷の主だ」
「おい、悪羽魔。この男、鑑定を阻害してるぞ!」
「何だと!」
勇者は自らも、目の前の男を鑑定した。
「俺にも見えねえ!」
「気を付けろ。こいつ、得体が知れない」
「ああ。俺もびんびん感じてる。多分、以前感じたのもこいつだ!」
勇者達は武器を構え、攻撃に備えた。
「ヌハハッ! 血の気の多い連中の様だが、仕掛けて来んのか?」
「できねーんだよ!」
「何故だ?」
「てめーには、関係ねー!」
勇者達は《悪事矯正リング》の影響で、人相手に自分達から手を出す事ができなかった。
「ヌハハッ! 恐怖して動けぬのとは、違うのだな? どれ、視てやる」
男は勇者達を、注視した。
「ほう。その首輪のせいか」
「チッ! 鑑定持ちか」
「それにお主等は、異世界から召還された勇者一行とな。興が乗ったぞ!」
「興が乗っただと?!」
「暇なので、遊んでやる」
「何だと!!」
「そのレベルでは、格下の魔物相手の戦闘は飽きただろう?」
「チッ! 何でも見透かすんだな」
嘗て彼らは、アレンとの戦闘でその自信を砕かれた。
それ以来十年以上に渡り、技に磨きを掛けてきた。
勇者達は全員、レベル78に達していた。
しかしレベルが上がるにつれ必要経験値が多くなり、今はレベル上昇が停滞している。
それは、レベルに見合う魔物がいないという事でもある。
「待て、悪羽魔。この状況から見て、この男《魔王》じゃないか?!」
「何っ!」
「何故そう思う?」
白髪の男は、賢者に向かって問い質した。
「第一に、ダンジョンのこんな場所にいる」
「ヌハハッ!」
「第二に、俺達の素性とステータスを知ってその余裕」
「お主には、余裕に見えるか?」
「第三に、《殺気》を浴びせてみたが、リングが全く反応しない」
「何だ。やたら睨むと思ったら、殺気を放っておったのか?」
「俺達の役目は、元々《魔王討伐》だ。だったらその魔王に殺意を抱こうが、リングは反応しない筈」
「賢者のお主は、なかなか頭が切れるな」
「正解という事でいいのか?」
「ふっ! お主達の《記憶》を、消さねばな」
「ウガーーー! 魔王ぶっ殺す!」
狂戦士は雄叫び共に、魔王へ襲い掛かった。
これを期に、勇者パーティー対魔王の戦闘が開始された。




