第四話 危機感知
子供達は砂浜で、潮干狩りを楽しんでいた。
「パパ見てー。アサリいっぱい捕れたよー!」
「僕も捕れたー!」
「二人共、凄いぞ。お昼ご飯に使うから、ママに持って行ってくれ」
「「はーい!」」
僕はその隙に他の食材を確保しようと、口に《酸素吸入》の魔道具を咥え海へ潜った。
少し沖に行くと、急に深くなっている。
子供の頃から来ているので、その辺の事は熟知していた。
『相変わらず、魚介の宝庫だな』
人の手が入って無い、優良な漁場である。
『《影腕》』
水中で《闇属性魔法》の《影腕》を伸ばし、海底を歩くロブスターを三匹捕まえた。
『楽勝、楽勝!』
捕まえたロブスターは、直ぐに網の袋に入れた。
すると、目の前に真鯛を発見した。
『《影銛》』
『プスッ!』
影腕の先端を銛に変え、瞬時に突き刺した。
『やったぞ! 大物を捕まえた』
七十センチ越えの真鯛を、手に握り締めた。
その後イカを捕まえ、浜に戻る途中蛤を拾った。
◇
保養所の建物に戻ると、子供達が三人で遊んでいた。
「わー、パパすごーい!」
「いつ、捕まえたの?!」
「今だよ。魔法で、チョチョイのチョイって感じだ」
「「うわー!」」
二人は興奮しながら、僕の後をついて来た。
「シロン。エミリアの面倒を頼む」
「ニャー!」
シロンにエミリアを任せ、僕達はキッチンに向かった。
「ミーリア。これも料理に使ってくれ」
キッチンのテーブルに、捕まえた魚介類を置いた。
「ありがとう、ニコルちゃん」
「サーも、料理手伝うー!」
「僕もー!」
「あら二人共、ありがとね。それじゃニコルちゃん、料理の間エミリアの面倒を見てて貰っていい?」
「ああ、構わないよ」
魔法で体を綺麗にし、僕はエミリアの所へ向かった。
「バーブー!」
『ポーン。ポム、ポム、ポム!』
「モキュ!」
『コロコロコロコロー!』
「ニャー!」
「キャハハッ!」
エミリアが、ポムを投げて遊んでいた。
シロンがそれを、転がして拾ってくれている。
僕はエミリアを抱きかかえ、頬擦りをした。
「エミリアたーん、可愛いでちゅねー!」
「キャハハッ!」
三人の子供達は、贔屓目抜きでみんな可愛らしかった。
◇
エミリアを抱きかかえたまま、厩舎へシャルロッテとケイコに食事を与えに行った。
「ウマ、ウマー!」
エミリアが、シャルロッテを見て手を伸ばした。
どうやら、シャルロッテに乗りたいらしい。
要望に答え、シャルロッテの背にエミリアを乗せてやる。
「キャハハッ! ウマ、ウマ!」
エミリアは、シャルロッテの鬣を握り締めはしゃいだ。
シャルロッテは、僕以外にも顔見知りの子供なら乗せてくれる様になった。
「エミリア、落ちるなよ」
と言いつつ《影腕》でサポートし、食事の用意を始めた。
「おーい、ニコルー!」
食事の用意が終わったタイミングで、遠くから僕を呼ぶ声がした。
シャルロッテの背からエミリアを抱きかかえ、声のする方へ歩いた。
「何でリートガルド様が、ここにいるんですか?」
「何でとは、とんだ言い草だな。建設中の施設の視察だ!」
「サボリの間違いじゃないですか?」
「なっ、何を言う。ちゃんと仕事をしているぞ!」
「本当ですかー?」
「馬鹿にしおって。ところで、いい匂いだな?」
「もうすぐ、お昼ですからね」
「そう言えば、腹が減ったなー!」
『チラッ!』
「何か、わざとらしいですね?」
「べっ、別に、たかりに来た訳じゃないんだからな!」
何故か、慌てている。
「分かりました。上がって下さい」
門を開き、リートガルド様を食事に招待した。
◇
「いやー、美味いな! これは、何て言う料理だ?」
「パエリアです。主人から、教わったんですよ」
「そうか、パエリアか。魚介が使われていて、この土地にピッタリだ。フロリダ村でも、広めたいな」
「それはいいですけど、米が手に入り難いですよ」
「エシャット村では、作らんのか?」
「作りませんよ。エシャット村は、小麦が生産のメインですから」
「だったら、フロリダ村で作るか!」
「私は、手を貸しませんよ」
「何も言ってないのに、お前は冷たいな」
「リートガルド様は、直ぐ私を頼りますから。米作りなら、専門家に頼むべきです」
「くっ、言われてしまった」
「おじさん、残念だね」
「残念」
「バーブー!」
リートガルド様は、子供達に宥められた。
料理はパエリアの他にも、真鯛のムニエルとアサリバターとサラダとスープが並んだ。
◇
リートガルド様が進めていたトンネルの準備は既に整い、一般にも通行が開始された。
照明には、ダンジョン内を照らす《輝石》が使われた。
しかしダンジョンの外では半月程で輝きを失うので、頻繁に交換が必要だった。
今は《馬糞》の清掃と共に、人海戦術で対応している。
その一方で、漁業の施設と塩の生産施設の建設も着々と進んだ。
船は既に二艘売れ、先行して漁業を始めている。
「リートガルド様、本当に視察だったのかな?」
「忙しいんですもの。たまには息抜きも必要よ」
「そうだな。追及するのは、止そう」
「バーブー!」
「エミリアも、『そうだ』って言ってるわよ」
「はははっ!」
そんな時だった。
「んっ?!!!!!」
《魔王襲来》以来の、強力な《危機関知》スキルが働いた。




