第二話 海への道
フロリダ村は急激に人口が増え、《街》として認められる五千人に迫ろうとしていた。
五年前にダンジョンが《地下十六階層》になってから、人口増加の勢いは更に増した。
当然これも、僕がゼルリル様に頼んでやって貰った事である。
それと同時期にリートガルド様に頼まれ、僕は《源泉》を堀り当てている。
完成した《温泉宿》の評判は良く、近隣から金持ちが宿泊に来る様になった。
僕は対価に再び土地を貰い、そこにエシャット村の《保養所》を建てた。
ダンジョンの収益は上がり、村を発展させたリートガルド様を、《男爵》に叙爵する話しが持ち上がってるそうだ。
「みんな、お早う!」
「「「お早うございます!」」」
「今日もニコルさん、素敵ですぅ!」
「ありがとう、ルーシー」
「ニコルさん、今日もカッケーな!」
「ありがとう、サム」
「お前達。毎日言ってたら、ニコルさんが鬱陶しいだろ!」
「「ブー!」」
「ダニー、もう慣れたからいいよ」
「そうですか?」
「三人共。今日も、頼むね」
「「「はい!」」」
店で働いて貰ってるのは、元孤児のダニー二十二歳とサム十七歳とルーシー十七歳の三人である。
ライルさんとソニアさん夫婦は自分達の店を持ち、そちらを経営している。
その一方、商品のラインナップは今も変わり無かった。
トイレットペーパーは月に一万個以上売れ、ガラス鏡も時々大口の注文が入ってる。
月の売り上げは一千万から二千万マネーをキープし、僕は満足していた。
◇
防犯対策で、店員はダンジョンでレベリングしている。
ちょっとした荒くれ者であれば、撃退可能だ。
装備も高性能の物を与え、休みの日には彼等だけでダンジョンに行っている様だ。
防犯はそれだけで無く、倉庫に僕達四人しか入れない《結界》を張っている。
そこには《金庫型魔法ボックス》も置いてあり、僕が長期不在でも在庫を置ける様にしてある。
「それじゃ、頼むね」
「「「はい!」」」
僕は店の外に出ると露店を広げ、焼きトウモローコシを作り始めた。
トウモローコシは、ここのダンジョンで捕れたものである。
僕は気が向くと、こうやって店先に露店を開いている。
「うおー、良い臭い!」
「今日はクレープじゃないんだー。でも、美味しそう!」
「一つくれっ!」
「ハイッ! 三百マネーだよっ!」
売る商品は、その日の気分で変わった。
店は三人に任せ、僕は割りと自由にしてる。
◇
そんなある日、役場の倉庫に食料を納めていると、リートガルド様からお呼びが掛かった。
ちなみに役場は僕が即席で建てた物でなく、ちゃんとした建物に引っ越している。
「何ですか?」
「折り入って、頼みがある」
「はあ」
「何だ、その気の抜けた返事は!」
「どうせ、碌でもない事なんでしょ?」
「お前にしか、できない事だ!」
「やっぱり」
「まあ、聞け。私はこの山の向こうの海へ、道を繋げようと思う!」
「またそんなとんでもない事を」
「海の珍味を、食べたいではないか」
「それはそうですけど」
「それに、塩の生産も見込める」
「ですが、山は険しいですし、距離もありますよ」
ここからだと、直線距離で十キロ位ある。
「だから、ニコルに頼んでいる。うちの連中だけでやったら、何年掛かる事やら」
「対価は、貰えるんですか?」
「とっ、土地をやろう」
「また、土地ですか?」
「他に、支払える物がない」
「はあ、しょうがないですね。分かりました」
「そうか、そうか。これでまた、村は発展するぞ」
こうして、リートガルド様にいいように使われてしまう僕だった。
◇
僕は、山を見上げた。
「この山を馬車で越えるのは、無理じゃないか?」
道を作ろうとすると、《日光のいろは坂》の様になってしまう。
「トンネルを、作るしかないな」
僕はシャルロッテに騎乗し、山に入った。
そして、トンネルを作る場所の検討を始めた。
「この辺りなら、整地して馬車も来れるな」
僕は先ず、トンネルの入口に当たりをつけた。
「《転移》」
そして、出口の海側に移動した。
『わっ!』
「ごめん。驚かせたな」
『いえ、いいんです。それよりも、海が見えますね』
「リートガルド様から、海に抜ける道作りを頼まれた」
『そうだったんですね。てっきり、ただの散歩かと思ってました』
「散歩は、今度ゆっくりしてやるからな」
『はい!』
僕はトンネル入口との位置関係を確認しながら、出口の場所を検討した。
「この辺がいいな」
出口に丁度いい場所を見付けると、そこにマーキングをした。
「良し。今日は、これで終わりだ。店に戻るぞ!」
『はい!』
「《転移》」
この日は山の反対側に戻ると、そのままシャルロッテを走らせ山を降りた。




