第四十話 国王との対面
僕とジークフリートと呼ばれた近衛騎士団団長は、国王の方へ振り返った。
「ジークフリートよ。そやつから、殺気は感じたか?」
「いえ」
「ならば、悪意はどうだ?」
「いえ。判断しかねます」
「我は思うのだ。そやつが、かの《英雄》ではなかろうかと」
「ハッ! 黒髪に底の見えない強さ」
「お主、アレン殿を知っているそうだな?」
「ああ。ガーランド帝国で、行動を共にした」
「やはり」
「それでは、《魔王襲来》の魔物討伐もお主なのだな?!」
「ああ、そうだ」
「「「「「「「「「「ざわ、ざわ、ざわ、ざわ・・・・・」」」」」」」」」」
国王達は、変装した僕の活躍を知っている様だ。
話しが少しでも有利に進む様、僕はこの流れに乗る事にした。
「それが本当だとしたら、彼はこの国の恩人と言えよう」
「その通りです」
「リートガルドを脱獄させたのも、理由あっての事かもしれぬ」
「確かに」
「陛下。そんな輩を、信用してはなりません。何処にも、《英雄》だという証拠はありませんぞ!」
「ラビネット宰相。何をそんなに、狼狽えておる?」
「そっ、そんな事は、ございません!」
宰相は平静を装っているが、明らかに狼狽えていた。
「陛下!」
「何だ?」
「王家直轄となったリートガルド領が、《人頭税》五割増しになったそうだが、これは陛下の指示か?」
「貴様その口のきき方、無礼だぞ!」
「ラビネット宰相よ。今は構わん」
「しかし」
「良いと言った!」
「はっ!」
「ヤマトよ。我はその様な指示、出してはおらぬぞ」
「ではそれは、領主代行の裁量で許される事か?」
「五割とは、いくら何でも上げ過ぎというもの。それでは、飢える者がおろう」
「増えた税収は、王家に渡るのか?」
「いや。王家への上納金額は、決まっておる」
「ほう。では、使い道は領主代行の自由という訳だ。コロネ子爵は、いったい何に使う気なのだろうな?」
「陛下。私はコロネ子爵の相談に乗り、魔物被害の復興やダンジョンの村の開拓の為の増税に賛同致しました」
そこに慌てて、宰相が口を挟んだ。
「初耳だのう」
「申し訳ありません」
こうなってくると、益々宰相が怪しくなった。
「言っておくが、コロネ子爵は大勢の子供を《誘拐》するような奴だぞ」
「誠なのか?!」
国王は、僕の言葉に驚きを隠せなかった。
「俺は以前コロネ子爵の屋敷から子供達を救い、その後屋敷に《結界》を付与した」
「あの《結界》は、お主の仕業か?!」
「陛下。そんな奴の戯れ言を、鵜呑みにしてはなりません」
「コロネ子爵には、その他にも黒い噂があると聞く。俺の友人の村も、その被害にあった」
「何があったというのだ?」
「そこはダンジョン近くの村で、女達がコロネ子爵の手下に拐われようとした。それを友人が撃退すると、今度は王国兵士を何十人も引き連れ村を襲わせた」
「馬鹿な。王国兵士も関わっているのか?!」
「これらの事は、直接コロネ子爵を問い詰めてくれ」
「しかし、今はリートガルド領におる」
「大丈夫だ。今、連れてくる。《転移》」
『スッ!』
「なっ、消えよった!」
「「「「「「「「「「ざわ、ざわ、ざわ、ざわ・・・・・」」」」」」」」」」
この場にいる者達は《転移魔法》を目の当たりにし、ざわめいていた。
◇
僕は地下牢獄からコロネ子爵を連れ、直ぐに国王の前に戻った。
『スタッ!』
『ドサッ!』
「「「「「「「「「「うわっ!」」」」」」」」」」
「お主、《転移魔法》を使えるのか?!」
「見ての通りだ」
「もしや、《勇者》か《賢者》なのではあるまいな?」
「どちらでもない」
「そうなのか」
「俺の事はどうでもいい。コロネ子爵を連れて来たぞ」
「寝ているのか?」
「ああ、魔法で眠らせている。《睡眠解除》」
話しを進める為、コロネ子爵に掛けた魔法を解いた。
「ん、んんっ」
「コロネ子爵」
「何だ?」
「我の声が、分からんか?」
「へっ、陛下!!!」
「目が覚めたか?!」
「はっ、はい。私は、何故ここに?」
「そこにおるヤマトが、連れて来た」
「ヤマト? あっ、お前は!」
「陛下の前に、連れて来てやったぞ。さあ、お前の悪事を吐いて貰おうか?」
「なっ!」
「まずは、リートガルド伯爵を嵌めた事からだ」
「わしは、嵌めてなどおらん。言い掛かりだ!」
「リートガルド伯爵も、同じ事を思ったろうな。正直に言わないと、また《結界》に閉じ込めるぞ。今度は《牢獄の中》だがな」
「なっ!」
「それでもシラを切るなら、これをつけてやる」
「《アイテムボックス》」
僕は《亜空間収納》の存在を隠す為、敢えて《アイテムボックス》を開いた。
そして、予め入れておいた《悪事矯正リング》を取り出した。
「それはっ!」
「俺の友人が、村を襲ったお前の手下に使った物だ」
「そんな物は、知らん!」
「ふっ、知らんのか。それでは、お前の足につけてやる」
「よっ、止せ。止めろ。来るな!」
「何故そんなに嫌がる?」
僕が近付くと、コロネ子爵は後退った。
コロネ子爵のこの慌てぶりは、その効果を知ってると物語っていた。
「わしは悪い事など、何もしておらん!」
「あくまでも、シラを切るんだな?」
「しょ、証拠を見せろ!」
「証拠など要らん。俺が決める」
「わしは貴族だ。貴様に裁く資格は無い!」
「俺もそう思っていた。だからこの間は、屋敷軟禁という嫌がらせに止めた。だがそれでは温いと、今回気付かされた」
「おっ、お前など、貴族に楯突いた罪で死刑だ!」
「『貴族』を持ち出せばどうにかなると思うその根性、虫酸が走る」
『ギンッ!!』
僕はコロネ子爵に向かって、先程より強力な《威圧》スキルを放った。
「ヒィーーーーー!!」
『バタンッ!』
コロネ子爵は耐えきれず、失神してしまった。




