第三十九話 王城への再侵入
コロネ子爵は、こめかみに血管を浮かべ僕を睨み付けた。
「貴様。貴族の屋敷に侵入し今の発言、五体満足で帰れると思うなよ!」
「捏造で国王や法廷を騙し、前領主を陥れたくせによく言う」
「戯れ言を抜かすな! 八つ裂きにするぞ!」
『ギンッ!』
僕はその言葉に、《威圧》スキルを返した。
「ヒィーーー!」
「お前は王都の屋敷に閉じ込められてる間、改心しなかった様だな」
「もっ、もしやあの時の《黒髪》なのか?」
あの時は手下共と争ったが、コロネ子爵とは対面していなかった。
「正解だ」
「よっ、よくもやってくれたな!」
コロネ子爵は《威圧》にビビりながらも、威厳を保とうと必死に言葉を発した。
「子供を誘拐しといて、どの口がほざく?」
「おっ、お前には関係無い!」
「ああそうだ。本来関係無い。だが、偶々現場に居合わせた俺の手を煩わせた。その戒めだと思え」
「くっ!」
「そしてまた、今もこの俺の手を煩わせている」
「そっ、そんなつもりは無い!」
「駄目だ。言い訳は通用しない」
「だっ、誰か、誰かおらぬか?!」
この部屋には、僕とコロネ子爵意外誰もいなかった。
そして、呼び掛けに応える者もいない。
それは僕がここに来る途中、屋敷の者を眠らせてしまったからだ。
「お前には、国王の所へ行くまで眠って貰う」
「よっ、止せ。何をする気だ。止めろ!」
「《睡眠》」
コロネ子爵は、椅子に座ったまま眠りに落ちた。
「さて、王城に行くか!」
僕はコロネ子爵を連れ、王城に《転移》した。
◇
《転移》した先は、地下牢獄である。
「《結界》」
この場から逃げられない様、コロネ子爵に《結界》を張った。
「邪魔だから、暫くここで寝てろ」
コロネ子爵を担いで運ぶには、王城は人目が多すぎた。
「《転移》」
一度地上に移動し、そこから国王のいる場所を目指した。
「おい。この先は、お前の様な一般人は通れぬぞ!」
二階へ上がる階段の前で、兵士に止められた。
「そうなのか?」
「待て! こいつ、黒髪だぞ!」
どうやら、昨夜の地下牢獄侵入の件で、話しが回っているらしい。
「まさか、昨夜の侵入者か? おい、入城許可証を見せろ!」
「そんな物は無い」
「無いだと! そんな奴が、ここまで来れる筈がない。益々怪しい。おいっ、捕まえるぞ!」
「おう!」
「《睡眠》」
『『バタン!』』
面倒なので、争いになる前に眠らせてしまった。
僕はこの調子で、王城を進んだ。
◇
「なっ、黒髪!」
「ここは、通さん!」
国王がいる部屋の前に辿り着き、ここでも兵士に立ち塞がれた。
「《睡眠》」
『『『『バタン!』』』』
「よし!」
『バンッ!』
僕は気合を入れ、扉を開いた。
「なっ、黒髪だと!」
部屋は会議中の様で、国王の他に貴族が大勢いた。
彼らは僕の姿を見て、騒然としていた。
「陛下を守れ!!!」
『『『『『『『『『『ダダダダダダッ!』』』』』』』』』』
近衛騎士達が現れ、国王を取り囲んだ。
「黒髪、貴様何者だ!!!」
近衛騎士の一人が、怒声を上げた。
「『ヤマト』と、名乗っておこうか。リートガルド伯爵の件で来た」
「これだけの騎士を前にして、随分と余裕だな?!」
「そうでもないさ」
「只者ではないぞ。貴様ら、気を抜くな!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
「おいおい。俺は別に、争いに来た訳じゃない」
「貴様がリートガルド元伯爵を、脱獄させたのか?!」
「その通りだ」
「分かっているのだろうな。脱獄に加担した貴様は、罪人だ!」
「ああ、何とでも言え。だがな、リートガルド伯爵に下した判決は間違っている」
「お主は、何を言っておる。証拠もあり、《審判の宝珠》も《黒》と示したのだぞ!」
会話に割って入ったのは、宰相である。
「全部、でっち上げたのだろう?」
「《最高審判》を、愚弄する気か?!」
「あんた宰相だよな。でっち上げに、加担したんだろ?」
「なっ、何を言っておる。近衛騎士よ、早くこいつを取り押さえろ!」
宰相は慌てた様子で、指示を出した。
「俺が行く!」
「ジークフリート卿!」
僕と会話をしていた男が、前に出た。
身長は二メートル近くあり、僕でも見上げてしまう程だ。
『シュバッ!』
『ブオッ!』
男は《瞬動》スキルで一気に間合いを詰め、僕の顔面を殴りにきた。
『バシーーーン!!!』
僕はそれを、右手で受け止めた。
「なっ!」
「俺は、話し合いをしたいのだがな」
「やはり、只者じゃなかったな。これなら、どうだ!」
『ブオッ!』
『バシーーーン!!!』
今度は脇腹へのフックを、左手で受けた。
「くっ!」
男のパンチは、常人では有り得ない物凄いスピードと威力があった。
しかし、僕はそれを軽々と受け止めた。
『ブオッ!』
『バシーーーン!!!』
『ブオッ!』
『バシーーーン!!!』
『ブオッ!』
『バシーーーン!!!』
『バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ・・・・・・・・・・!』
「そんなっ。団長の攻撃が、効かないなんて」
二人の攻防を、回りの人間は息を飲んで見守った。
「貴様、強いな」
「お前、本気じゃないだろ?」
「回りに被害が出るからな。だが貴様の強さ、底が知れん。《アレン殿》以来だ」
「確かに、アレンは強い」
「知っているのか?」
「少しばかりな」
「お主ら、待て!」
「ん?」
「陛下!」
突然、国王の横槍が入った。




