第三十八話 人の領地を乗っ取るなんて、図々しいにも程がある
プラーク街の別荘を去った後、僕は野宿しているハイネスさんと馬を《転移》で別荘に運んだ。
そして、領主様達に引き合わせた。
「皆様、良くぞご無事で! 大変、心配しておりました」
それだけでなく、領都で捕らえられて搬送中の伯爵家の人達十人も連れて来た。
「父上。ご無事でしたか!」
何だかんだで、朝まで掛かってしまった。
「ふぁー、眠いや」
事前に仮眠をとっていたが、少し眠かった。
◇
エシャット村に帰ると、その足で領主様達の救出を父さんに告げた。
「本当にやってしまうとは、凄いな」
「あとはリートガルド伯爵様に、どうやって領主の座に返り咲いて貰うかが問題なんだよね」
「大変だな」
「まあね。でもこのままコロネ子爵に居座られたら、領内が疲弊しそうだからね」
「そうだな」
「あと《亜空間ゲート》なんだけど、暫く使うの止めて欲しいんだ」
「領主様に知られると、まずいのか?」
「どうだろうね。でも今は内緒にしとく。プラーク街側の扉は、もう鍵を掛けたから」
「早いな。幸い今日は休みだから狩猟班はいいが、遊びに行く連中は断らないとな」
「頼んだよ」
この後朝食をとり、孤児達の勉強会も休みという事で少し眠った。
◇
僕は疲れているのか、昼近くまで寝てしまった。
「もうそろそろ、お昼だ。孤児達に、おやつを食べさせに行かなきゃ」
休日で勉強は休みでも、おやつは別である。
「領主様達の方は朝食を置いてきたけど、昼食は大丈夫だろうか?」
僕は少し、心配になった。
そんな事を考えていると、シロンとポムがやって来た。
「ご主人。シャルロッテにご飯やって、早く孤児院に行くニャ」
「モキュ!」
「分かった。少し待ってくれ。《影分身》」
『フワー!』
僕の体から、もう一人の僕が飛び出した。
「ニャニー! ご主人が、二人!」
「モキュ、モキュ!」
「そうか。初めて見せたんだっけな」
「ごっ、ご主人が二人いるなんて、鼻血が出そうニャー!」
「モキュ、モキュ!」
『『スリ、スリ』』
シロンとポムが、僕等に擦り寄って来た。
「悦に浸ってるところ悪いんだが、孤児院には分身と行ってくれ」
「分かったニャ。けど今度ゆっくり、二人のご主人を堪能させて欲しいニャ!」
「モキュ!」
「気が向いたらな」
「約束するニャ!」
「モキュー!」
「駄々を捏ねてないで、行くぞ!」
分身に抱きかかえられて、シロンとポムはいなくなった。
◇
僕は黒髪に変装し、別荘の増築した方のキッチンに《転移》した。
「ミランダ、大丈夫か?」
「ヤマトさん!」
「心配で、見に来た」
「大したものは作れませんが、何とかやってます」
「それなら、いいんだが」
「あら、ヤマトさん。要らしてたのね」
そこに、第二婦人のミネルバがやって来た。
「ああ。服を仕入れてきた」
「まー、嬉しい!」
料理が心配で見に来たのだが、ミネルバに母屋のリビングへ連行させてしまった。
僕は服と下着と靴を、テーブルの上に並べた。
「庶民的な物しかないが、我慢してくれ」
「気にしなくていいのよ。今は脱獄囚の身ですもの」
女性陣は服を選び、早速別室に着替えに行った。
「ヤマト。何から何まで、すまない。金を払おう」
領都の家族を救出した時、屋敷から没収した財産を王国兵士が魔法袋に入れて持っていた。
それを回収し、領主様に渡していた。
「あれは、プレゼントだ。金はいい」
「いや、しかし」
「礼なら一刻も早く領主に返り咲き、領民の為の領地経営をしてくれ」
「むっ、そうか。そういう事なら、有り難くいただくとしよう」
領主様は、僕の言葉に納得してくれた。
◇
「ヤマトも、一緒に食事をせんか?」
「ああ、いただく」
ミランダ達が作った料理を、僕もいただいく事になった。
メニューは野菜や肉を煮込んだだけのスープに、僕が提供した白パンだ。
「ヤマトさん、どうですか?」
「塩味が濃いな。それに野菜を大きく切り過ぎて、まだ半煮えだ」
「そうですか」
ミランダは、僕の言葉に落ち込んでしまった。
普段の僕だったら、こんな言い方はしない。
この台詞は、《キャラ》を演じての事である。
「だが、初めてにしては上出来だ。回を重ねれば、きっと上達する!」
僕は『やばい』と思い、咄嗟にフォローした。
「はい!」
するとミランダは、直ぐに元気を取り戻してくれた。
◇
食後片付けが終わったところで、僕は領主様に話しを持ち掛けた。
「早速だが、《領地奪還》の行動に移ろうと思う。何か良い策はあるか?」
「そうだな。コロネ子爵の用意した証拠が、《捏造》だと証明できれば良いのだが」
「本人に国王の前で証言させた方が、手っ取り早いんじゃないか?」
「それはそうだが、証言などする筈もない」
「分かった。行ってくる」
「おい。何をする気だ?!」
「任せろ。《転移》」
『スッ!』
「行ってしまった」
「父上。彼に任せて、大丈夫でしょうか?」
「きっと、大丈夫だ。彼は、かの《英雄》だからな」
◇
『シュタッ!』
僕はリートガルド領領主邸の敷地にある、穀物倉庫前に《転移》した。
ここは人頭税の小麦を、納めに来る場所である。
「コロネ子爵は、何処だ?」
《地図》機能で探してみると、屋敷の中にいた。
「人の領地を乗っ取るなんて、図々しいにも程がある」
僕はそう呟くと、早速屋敷に向かった。
屋敷に到着すると、会った人を片っ端から眠らせた。
そしてついに、コロネ子爵のいる部屋に辿り着いた。
『バンッ!』
ノックをせず、勢いよく扉を開いた。
「貴様。いきなり何だ!」
「リートガルド伯爵を嵌めた事を、国王に吐かせに来た」
「何っ!」
その瞬間、コロネ子爵のこめかみに血管が浮かび上がった。




