第三十五話 リートガルド伯爵、反逆罪
2021/05/27 コロネ子爵の嫡男の名前を、修正しました。
リートガルドは急いで屋敷へ戻り、伝達者から話しを聞いた。
「理由は分かりませんが、領主様は《反逆罪》の容疑を掛けられました。伯爵家の方々は、王国兵士によって屋敷に監禁されてます」
「馬鹿な。《反逆罪》だと!」
「はい。確かに」
「この事は、領都の母上や兄上達も知っているのか?!」
「はい。王都から共に出た者が、報告に向かいました」
「イアン様。もしやこの一件、コロネ子爵の仕業では?」
「くっ! だとしたら、私への当て付けか?! だがどうやって・・・・・」
「コロネ子爵は、裏の方で宰相様と繋がりがあります」
「宰相の力を持ってすれば、父上を陥れる事も可能か!」
宰相は国王の最側近という事もあり、貴族達への影響は大きかった。
「イアン様、どうなさいます?」
「王都へ行く!」
「では、私めもお伴します」
「ハイネス。お前は残って、村長代行を努めてくれ!」
「しかし」
「大丈夫だ!」
「分かりました。フロリダ村の事は、お任せ下さい」
ハイネスはついて行きたかったが、主の言葉に従った。
◇
今の話しを、僕は隠れて聞いていた。
「コロネ子爵が絡んでいるとしたら、僕にも関係あるな」
なにせ僕がコロネ子爵と揉めていたところを、リートガルド様が追放したのだ。
「だけど、貴族絡みの厄介事に首を突っ込と、碌な事にならない気がする」
村人の僕が貴族の権力闘争を、《話し合い》で解決するなんて到底不可能である。
「国王様の前で、力ずくでコロネ子爵に白状させるか?」
そんな事をすれば、王族や貴族の目が僕に向けられてしまう。
「変装すれば、いけるかも? でも、まだ容疑って言ってたな」
もしかして、貴族の仲間が容疑を晴らしてくれるかもしれない。
僕は悩んだ挙げ句、静観する事にした。
そして、リートガルド様は兵士五人を引き連れ、その日の内にフロリダ村を発った。
◇
その頃王都の屋敷では、リートガルド伯爵と第二婦人と学園に通う娘が監禁されていた。
「すまない。私に、力が無いばかりに」
「貴方のせいじゃありません。私達は、計略に嵌められたのです!」
「そうです。お父様がダンジョンの既得権を、王国から奪おうとしてるなんて言い掛かりです!」
「イアンがコロネ子爵を追放したのだって、きっと理由あっての事!」
「それを陛下に信じて貰えないのは、やはり私のせいだ」
「貴方!」
「お父様!」
リートガルド伯爵は、屋敷で裁判の日を待つだけだった。
◇
数日後、僕はカイゼル様の元を訪れた。
「こんにちわ」
「ニコルなのじゃ」
「おー、来たか。待っておったぞ」
ケーキとインスタントコーヒーを手土産に、定期的に来て世間話をしている。
今回は、フロリダ村の出来事について語った。
「そんな奴、妾が豚に変えてやるのじゃ!」
「ゼルリルよ。人間社会に、手出しは無用と言ったろう。人間の問題は、人間が解決すべきだ」
「しかし、パパ上。原因は、妾にもちょびっとあるのじゃ。それに、ニコルが困っておる」
「それは、我も分かっている。しかし魔王が表にでれば、騒動になる」
「ゼルリル様、大丈夫です。今回は、近況報告をしたまでですから」
「それなら、いいのじゃ。だが、困った事があれば、妾に言うのじゃ」
「はい。ありがとうございます」
ゼルリル様が出ていって、リートガルド伯爵家が魔王と繋がりがあると思われたら逆効果である。
ここは、大人しくして貰った方がいい。
◇
イアン・リートガルドがフロリダ村を発ってから三ヶ月が過ぎ、三月下旬になっていた。
しかし、一向に帰ってくる様子はなかった。
「ここが、フロリダ村か。父上の言う通り、随分と辺境だ」
そう言葉を発したのは、アルフォード・コロネだった。
彼は屋敷に閉じ込められたせいで学園を留年し、昨年の十二月に一年遅れで卒業していた。
そんな彼が、執事とメイドと護衛を引き連れやって来たのである。
「とっとと用事を済ませ、ゆっくりするぞ」
「はい。アルフォード様」
アルフォードは、ある用事を済ませに役場へ向かった。
◇
村長代行を務めるハイネスは、アルフォードの突然の登場に困惑していた。
「追放されたコロネ子爵の御子息が、なぜこの村にいらっしゃった?」
「つい先日、この村の村長を任されたのでな」
「何を言っておられる。村長は、イアン・リートガルド様ですぞ!」
「何だ知らんのか? リートガルド伯爵は裁判で《反逆罪》が下り、家族諸とも投獄されたぞ」
コロネ子爵の様々な捏造証拠と根回しと宰相の協力により、リートガルド伯爵は有罪となってしまった。
「そんな馬鹿な!」
「領地は《王家の直轄領》となり、私の父コロネ子爵が《領主代行》を命じられた」
「そんなの嘘だ!」
「ふっ、本当だ。国王陛下からの任命証を持参し、領都の屋敷は既に父が居を構えている。疑うなら、確認に行けばよい」
「くっ! 伯爵家の方達は、どうされた?」
「捉えて、王都に送ったぞ」
「そんなっ!」
「一応見せとくが、これが村長に任ぜられた書状だ」
「・・・・・」
その内容は、正式なものだった。
「ハイネスと言ったか? お前は私に従うか、この村を出て行くか選べ」
「くっ!」
ハイネスは考えるまでもなく、村を出る事を決めた。
しかし、兵士や開拓に訪れた者達は、ハイネスの説得によりフロリダ村に残る事となった。




