第三十二話 ニコルへ出店の打診
一週間後、役場と屋敷を合わせ、二十箇所の《ガラス窓》の取り付け終えた。
「この大きさで、この平面度と透明度。それに、この枠の仕組み。素晴らしいな」
「強度も増してあるので、滅多な事では割れません」
「強度までもか、素晴らしい!」
「窓枠には、軽くて錆にくい《アルミニウム》という素材を使用してます」
「初めて聞く名だな?」
「僕が開発したので、名前も僕が付けました」
「ニコルの開発だと! 作り方を教えてくれ?!」
「企業秘密です。それに材料があっても、僕の錬金術でしか作れませんよ」
「くっ、残念」
実際に作るとなると製錬に多くの電気を必要とするので、この世界には出回っていない金属だった。
「ところで、ニコルよ」
「はい」
「ガラス窓の店を、出さないか?」
「えっ!」
「この地は辺境な為か、折角のダンジョンも集客がイマイチだ。人を呼ぶには、もう一つ目玉が欲しい」
「それが、ガラス窓ですか?」
「村に商人が買い付けに来れば、物流も良くなるしダンジョンの噂も広がる」
「そういう理由でしたら、ダンジョンの食材を流通させればでいいのでは?」
「他領の者は、ここより近いプラーク街のダンジョンに行ってしまう。今のところ訪れるのは、領内の者だけだ」
「そう言われましても、私は孤児の面倒を見てるので手が回りません」
「それなら、移住者を雇えばいい。私が責任を持って、紹介するぞ!」
「うーん。それなら、何とかなるかもしれませんね。少し考えさせて下さい」
僕は報酬の土地を、直ぐにどうこうするつもりはなかった。
しかし、販売を任せられるのなら、良い話しの様な気がした。
この後、大通りに《二百平米》程の土地を、報酬として貰った。
◇
「ただいま」
「お帰りニャ」
「モキュ!」
「仲良くしてたか?」
「シロンとポムは、仲良しニャ」
シロンは目の前にいるポムを、前足で転がした。
「モキュ、モキュー!」
ポムは、それを喜んでいた。
「怪我させるなよ」
「ちゃんと、手加減してるニャ」
「モキュ!」
二匹は、思った以上に波長が合う様だ。
「ご主人。今日で仕事は、終わったのかニャ?」
「ああ、終わったぞ。土地も貰った」
「一段落ついたニャ」
「モキュ!」
「だけど、また頼み事をされた」
「いい様に、利用されてるニャ」
「利害が一致していれば、有りなんじゃないかな」
「それで、今度は何を頼まれたニャ?」
僕はシロンに、先程の話しを聞かせた。
「リートガルドは理由をつけて、ご主人を手元に置いときたいニャ」
「それは僕も感じてる。でもリートガルド様は、悪い人じゃなさそうだ」
「それなら、ご主人の好きにすればいいニャ」
「モキュ!」
「そうするよ」
◇
夕食後、店を出すか検討した。
「あんな辺境に、ガラス窓を買いに来るだろうか?」
高額なので、本当なら王都の貴族街で売りたかった。
「売れない商品を店頭に並べて、従業員を遊ばせる訳にいかないぞ」
給料を払うからには、利益を上げる必要があった。
「他にも、商品があった方がいいな」
僕は《亜空間収納》の中から、フロリダ村でも売れる商品を検討した。
「ダンジョンの村だけに、武器・防具・魔法回復薬なら高額で売れそうなんだけどなー」
しかし、僕はそれらの《販売資格》を、持っていなかった。
それに、フロリダ村には既に専門職がいた。
「村人相手だと、高額な物を売るのは難しいぞ」
それから考えた末、売れ筋商品は《日用雑貨》くらいしか思い付かなかった。
「良い品を安売りするのは、《エシャット村だけ》にしたいなー」
だからと言って品質を落とした低価格商品では、《薄利》にしかならなかった。
僕はこの時、開拓村で商売する難しさを感じていた。
「日用雑貨では利益を求めず、ガラス窓を買う客を待つしかないのか?」
リートガルド様に言われるまま、賭けの様な出店をするか改めて考えた。
「あー、駄目だ。どうしても、採算が合わない」
結局この日は、答えが出なかった。
◇
二日後の午後、リートガルド様のところへ訪問した。
「どうだ。ガラス窓の店を、出す気になったか?!」
「私なりに考えたんですけど、お客が来る気しないんですよね」
「いや、大丈夫だ。絶対、貴族や金持ちが飛び付く!」
「それじゃこの数日間、役場や屋敷のガラス窓について問い合わせはありました?」
「珍しがって見物する者はいたが、購入したいという者はいないな。第一、まだ噂はそれ程広まっていまい」
「僕はそんな不確実なものに、店を建てて従業員を雇えませんよ」
「ニコルー。そんな事、言わんでくれー!」
「それなら、こうしませんか?」
「どうするのだ?」
「従業員は雇えませんが、店のスペースを無償で貸す代わりに、受注予約をして貰えるなら考えます」
「何っ、本当か!」
「ええ。店に見本品を置き、販売は僕が来た時にします」
「盗人対策か?」
「はい。世の中信じられる人だけだと、いいんですけどね」
「そうだな」
リートガルド様は僕の案を受け入れ、借主を探してくれるそうだ。
僕は早速、翌日から店の建築に取り掛かった。




