第三十一話 リートガルド様からの呼び出し
僕はリートガルド様に呼ばれ、執務室を訪れた。
『トン!、トン!』
「入れ!」
「失礼します」
「おお、ニコル。来たか」
「はい。今日のご用件は、何でしょう?」
「先日鍛冶工房の準備が整ったのだが、材料の工面が大変でな。もしやと思い、ニコルを呼んだのだ」
「具体的に、何が必要ですか?」
「鉄鉱石があれば製錬するのだが、インゴットがあれば手間が省ける」
「インゴットなら、ありますよ」
「やはり、持っていたか。錬金術で、作ったのだな?」
「そうですけど、言い触らさないで貰えます?」
「分かっている。その代わり、まけてくれ」
「開拓中だから割引に応じますけど、頃合いを見て正規の値段にしますよ」
僕が安値で売るのは、基本的にエシャット村だけである。
「同じ領民を助けると思って、永続的にはならんのか?」
「私が能力を隠す理由の一つは、当てにされ過ぎるのが嫌だからです!」
リートガルドはその言葉に、『これ以上無理を言ったら、縁を切るぞ!』という意思を感じた。
「そっ、そうか。それじゃその時が来たら、要相談という事で頼む」
「分かりました」
僕は魔法袋から鉄と鋼のインゴットを取り出し、テーブルの上に置いた。
「私はインゴットの目利きはできんから、鍛冶師を呼ぶ。少し待ってくれ」
「はい」
僕は執務室で、鍛冶師を待つ事になった。
◇
『トン!、トン!』
「入れ!」
「イアン様。インゴットが、手に入ったんだってな」
「ああ。行商人のニコルが、工面できるそうだ」
「おー、イケメンのあんちゃんか。助かるぜ。インゴットって、これだな。早速、見せて貰おう」
「どうぞ」
執務室に来て早々、鍛冶師はインゴットの品定めを始めた。
品質はどちらも《普通》といったところで、《玉鋼》のような《極上品》とは違った。
「どちらも、思った以上に良い」
「領都で仕入れるとしたら、いくらの値をつける?」
「鉄は十キロ五万マネー。鋼は十キロ十三万マネーってところだな」
鍛冶師のつけた金額は、《鑑定》能力で確認した金額とそれ程差異は無かった。
「ニコル。半額でどうだ?」
「それは、ボッタクリ過ぎです。採掘場って、罪人がいく重労働な現場なんですよね?」
「むっ、良く知っているな。それじゃ、六掛けだ!」
「いいえ。八掛けです!」
「七掛けでいいだろ!」
「まあ、そんなところでいいでしょう」
割引きを約束したが、言いなりになるつもりはなかった。
《ダニエル商会》という収入源が無くなり、僕も稼ぐ必要があったのだ。
インゴットは、取り敢えず十本ずつ買ってくれる事になった。
「あんちゃん。魔物の素材は、持ってねーよな?」
「ありますよ」
「何っ! あるのか?!」
「オーガ・ウォーベア・スノーウルフ・ブルドボア・ミノタウロスなんかで良ければ」
「それだけあれば、上等だ。どうやって、手に入れた?」
「えーと、倒しました」
「あんちゃんは、なかなかのパーティーにいたんだな?」
「ええ、まあ」
エミリやユミナとパーティーを組んでいたので、あながち嘘ではない。
魔法袋から魔物素材を取り出し、こちらは《ダン防》の買取り値で売る事になった。
代金は村の財政から立て替えて貰い、収益が上がったら返すそうだ。
◇
鍛冶師は弟子達に材料を運ばせ帰ったが、僕は帰れなかった。
「ニコルよ」
「何ですか?」
「エシャット村の家屋には、ガラス窓がふんだんに使われていたな。あれも、錬金術か?」
「そうですね」
「人を集める為の話題作りに、フロリダ村でも普及させたいのだが」
「適正な価格で買っていただけるのでしたら、いいですよ」
「あの大きな板ガラスの相場は、かなり高額な筈」
この国では、ガラス自体高価である。
しかも、加工する技術が発達してないので、板ガラスは更に高かった。
「そうですね」
「まけては、くれんのか?」
「インゴットは《必需品》だから安く提供しましたけど、窓ガラスは《贅沢品》ですからね」
「そこを何とか!」
「リートガルド様。私が能力を隠す理由、もう忘れたのですか?」
「いや、忘れてはない!」
「ガラス窓にお金を掛けるなら、他に掛けた方がいいですよ」
「ぐっ、痛い所を突く。それなら、せめてこの役場だけでも」
「役場だけでも全部変えるとなると、結構な金額になります」
「そうだ。金の代わりに土地をやる。将来、ニコルが店を出せるように」
「土地ですか?」
真意は分からないが、こうなる様に誘導された様な気がする。
「どうだ?」
「そうですね。いいですよ」
怪しさを感じながらも悪い話しではないと思い、リートガルド様の交渉に応じた。
「それでしたら、屋敷もやっていただいたら良いのでは?」
「おお、そうだ! どうだ、ニコル?」
「分かりました」
執事さんの助言により、リートガルド様の屋敷も追加された。




