第三十話 コロネ子爵、追放
筆頭執事は、僕を執拗に捕まえようとした。
「ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・」
しかし僕は、体捌きだけでそれをかわし続けた。
そんな二人の動きが、膠着した時だった。
『ボアーーーーーーーーーー!』
コロネ子爵がこっそりと《火属性魔法》の《火炎放射》を唱え、それを僕に向けて放った。
だが僕は、魔法を唱える際の魔力を感知していた。
「魔法盾」
『ボボボボボボ・・・・・!』
僕は全身を覆い隠す大きさの《魔法盾》で、それを防いだ。
「グヌヌッ。無詠唱の《魔法盾》だと!」
コロネ子爵の放った魔法は、普通の人が喰らっていれば死ぬ威力だった。
要するに、僕を殺す気で放ったのだ。
『『『『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!』』』』
「上空に炎が上がるのを見ました。何があったのですか?」
この騒ぎに、王国兵士達が駆け付けた。
「丁度いい。お前ら、こいつを捕まえろ!」
「この若者が、何かしたのですか?」
「理由など、お前らが知る必要は無い! 従わんと、懲罰だ!」
「「「「分かりました!」」」」
兵士達はコロネ子爵に脅され、その命令に従った。
◇
「「「「「ハア、ハア、ハア、ハア・・・・・」」」」」
「何なんだ、こいつ?」
「五人掛かりで、触る事もできない!」
「只の行商人では、なかったのか?!」
それでも僕は、体捌きだけで彼らをかわした。
『『『『『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!』』』』』
「何をしてる?!」
そして遂には、リートガルド様が兵士を引き連れてやって来た。
「くっ! 愚図共が」
コロネ子爵が、執事や兵士達を小さな声で罵った。
「ニコル。これはどういう事だ?!」
「それがフロリダ村への食料販売を止めろと言われ、断ったら襲われました」
「何っ! コロネ子爵、説明して貰おうか?!」
「戯言だ。口の利き方の分からぬ無礼者を、捕らえていただけだ」
「ニコルが、何を言ったというのだ?!」
「説明する必要はない」
「貴族とて、この村でこんな事通用すると思うな!」
「イアン殿。その口のきき方、不敬だぞ。この間、言った筈だ!」
「私も言った。勝手な事は、私も父も黙ってはいない!」
「黙ってはいないか。それで、私をどうするというのだ?!」
「貴方には、このリートガルド領から出て行って貰う!」
「王都から派遣された、私をか? それがどういう事か、分かって言っているのか?!」
「知らん。だが、人の領地で好き勝手できると思うな!」
「その決断、後悔しても知らんぞ!」
「望むところだ!」
僕が原因で、大事になってしまった。
この先何が起こるのか、僕は知るよしも無かった。
コロネ子爵は荷物を纏め、一時間後には筆頭執事とフロリダ村を出て行ってしまった。
◇
一方、王国兵士やダンジョンの運営に来た職員達は、全員そのまま残った。
「あんた達は、帰らないのか?」
リートガルド様は、コロネ子爵を見送りに駆け付けた兵士の指揮官に問い掛けた。
「俺達の使命は、ダンジョンの守備と運営だからな」
「それなら、何故エシャット村を襲った?」
「コロネ子爵の指示で、詳細を聞かされてなかった」
「あれは村の女達を、無理矢理連れて行こうとして抵抗されたんだ」
「やはり、そんな事だったか。エシャット村の者には、悪い事をした」
「そう思うなら、ちゃんと謝罪する事だな」
「そうだな。ニコルとやら、真実を知らぬとはいえ、村を襲って悪かった」
「謝罪を受け入れます。村長の父や村の人達にも、伝えておきます」
「頼む」
この後、リートガルド様達は、話し合いを持った。
そして、フロリダ村発展の為に、お互い協力していく事を誓った。
その時に価格設定を、プラーク街のダンジョンに合わせる事になった。
僕はお暇したので、その事を後日知る事となった。
また、フロリダ村からの帰り道、眠らせた手下達の姿は消えていた。
もしかすると、筆頭執事に起こされ、一緒にリートガルド領を出たのかもしれない。
◇
翌日、フロリダ村では、ダンジョン産の食材の流通が復活した。
ドロップ品の内、《魔石》だけ全て買取りとなったが、他はダンジョン探索者の自由となった。
そんな事もあり、リートガルド様からは『食材の購入量を、減らしたい』と、言われてしまった。
それに対し僕は、『開拓にはお金が掛かりますし、いいですよ』と、快く答えた。
その結果、僕が買い取る量が増え、《亜空間収納》の食材がまた増える事になった。
そんなある日、食材を納めに行った時の事である。
「ニコルさん。リートガルド様が、納品が終わったら来るように仰ってました」
「リートガルド様ですか。分かりました」
僕は食材の代金を受け取ると、リートガルド様の執務室に足を運んだ。




