第二十九話 ニコルの排除
コロネ子爵の手下達は、《悪事矯正リング》の発動条件をつきとめていた。
昨日エシャット村からの帰り道、各々その餌食となったのだ。
そんな事もあり、やっとの思いでフロリダ村に辿り着いた。
そして、エシャット村での失敗と足のリングについて、コロネ子爵に報告した。
その結果手下達は罵られ、リングを外す当ても無いと言われてしまった。
手下達は失望し、『コロネ子爵の元では、これ以上働けない』と、思い至った。
その後手下達は六人で協議し、夜明け前にフロリダ村を旅立つ決心をした。
今は一台の馬車で街道を走り、エシャット村を大分通り過ぎていた。
「俺達また、ダンジョン探索者に戻るのか?」
「悪さはできなくなったし、それしか選択肢がねーからな」
「あんな飯も糞も睡眠も緊張しながらする生活、嫌だね」
「俺もだ」
「これも、コロネ子爵が落ちぶれたせーだ」
「ああ。こんな事なら、早く抜ければ良かったぜ」
「全くだ」
手下達は馬車を走らせ、王都方面へ向かった。
◇
一方のコロネ子爵は、窮地に追いやられていた。
王国兵士から反発を買い、十人いた手下の内六人に逃げられた。
それに加え、ダンジョンの経営も早々に行き詰まっていた。
「何て事だ。ラビネット宰相に頭を下げて、辺境くんだりまで来たというのに」
「早めに、リートガルド様と和解された方がいいのでは?」
「いや、まだだ。その内、奴等は食料が尽きる。多少高くとも、こちらで購入するしかない。それに僅かでも収入を得る為、ダンジョンにも来る筈だ」
筆頭執事のエドモントは、そう都合良くいくか不安だった。
◇
そして、五日が過ぎた。
「何故だ。状況が、変わらんではないか!」
「旦那様。リートガルド様は、エシャット村から食材を購入してる様です」
「馬鹿者! 分かっているのなら、何故手を打たん」
「しかしあの村、不気味じゃありませんか?」
エドモントはエシャット村が数時間で壁や堀を作った事に、只ならぬ能力の高さを感じていた。
「つべこべ言わず、何とかしろ!」
「はっ、はい」
こうしてコロネ子爵はリートガルドと協調する事無く、対立する道を突き進んだ。
◇
僕はリートガルド様の要望で、一日おきにフロリダ村に食材を届ける様になった。
その時間帯は、大体決まっていた。
『ご主人様。前方に、待ち伏せがあります』
「ああ。僕も気付いてる」
『どうしましょう?』
「このまま行ってくれ」
『分かりました』
馬車を進めると、木の陰から四人の男が現れ道を塞いだ。
「止まれー!」
その言葉に、僕は素直に馬車を止めた。
「何ですか?」
「お前、エシャット村の行商人だな?!」
「そうですけど、あなた達は?」
「俺達が何者かは、どうでもいい。だがお前は、金輪際フロリダ村に行くな!」
「そんな事言われても、リートガルド様から頼まれてるので」
「どうやら、痛い目見ねーと分からねーようだな!」
「あなた達こそ、痛い目見ないと諦めてくれそうもないですね」
「「「「何っ!」」」」
「《睡眠》」
『『『『バタン!』』』』
僕は男達を、例の如く眠らせた。
「実はこの間フロリダ村に行った時、コロネ子爵と待ち伏せする算段してたの聞こえたんだよね」
僕は《悪事矯正リング》を男達の足に取り付け、道の端に転がした。
「コロネ子爵の裏家業の実行部隊は、こいつらで終わりだ」
僕はその事を、事前に調べていた。
そして、エシャット村を襲った王国兵士達は、偶々コロネ子爵の指揮下に入っただけだった。
残す手駒は、筆頭執事だけである。
「それじゃ、行こうか」
『はい!』
僕達は再び、フロリダ村へ向かった。
◇
程無くしてフロリダ村に到着し、役場の食品倉庫に食材を納めた。
「なっ! そこの行商人、待つんだ!」
そして、馬車で帰るところを、コロネ子爵の筆頭執事に見付かった。
僕がここへ来た事を、驚いている様だ。
「何でしょう?」
「馬車を降りて、こちらで話しをしよう」
「はあ」
すると僕は、ダンジョン近くに連れて行かれた。
「単刀直入に言う。フロリダ村に、食材を売るのを止めてくれ」
「何故ですか?」
「ダンジョンの食材が、売れんからだ」
「それなら僕だって商売ですし、何よりリートガルド様に頼まれた事なんで」
「それでは、私が困る。言う事を聞くなら、二十万マネー払おう」
「目先の金に釣られて、リートガルド様と関係を悪くしたくないです」
「くっ!」
筆頭執事は、ぐうの音も出なかった。
「エドモントよ。何故まだ、行商人がおるのだ?!」
「旦那様!」
そこへタイミング悪く、コロネ子爵がやって来た。
「行商人。子爵の私が命じる。二度とフロリダ村に来るでない!」
「子爵様もですか? それは、リートガルド様に言っていただかないと」
「貴様。私に逆らう気か?!」
「いえ。そういうつもりは、なくてですね」
「言い訳はいい。エドモント、この行商人を捕まえろ!」
「はい!」
『シュッ!』
『スッ!』
返事をした後の執事の動きは、素早かった。
貴族に仕えているだけあって、武術の面でも腕が立つのだろう。
しかし、僕は体捌きだけでそれをかわした。
「なっ!」
「捕まる気は、ありませんよ」
「大人しく、捕まるんだ!」
その後、暫く執事から逃げ回る事になった。




