第二十六話 そうさせるお前達が、悪いんだからな
溺れ掛けた様子を見ていた兵士の指揮官が、コロネ子爵の手下に詰め寄った。
「おい、あんたら。まだ、こんな事やんなきゃいけないのか?」
「他に手は無い。場所を変えて、続けてくれ」
「無駄だ。この囲いは、攻略できない」
「どういう事だ?」
「俺達は、見張られている。トンネルの水は、村の連中の仕業だ」
「何っ!」
「それだけじゃない。俺達は手の内を晒し、既に対策を打たれた」
「まさか?」
「堀に開けた穴。さっきは無かったが、いつの間にか《結界》が張られている」
「何だと!」
男は石を拾い、堀に開けた穴に投げた。
『カツン!』
「石が壁の基礎の手前で、弾かれた」
「この分だと、堀の下も対策されただろう」
「くっ!」
「俺達は、帰らせて貰う」
そう言い、指揮官は踵を返そうとした。
「おい、待て。これは、コロネ子爵の命令だ!」
「そうは言うが、この村の者があんたらに、酷い狼藉を働いたって本当なのか?」
「本当だ」
「どうも信じられんな。いったい何をされた?」
「丁寧に援助協力を申し出たところ、村の奴等が俺達を囲みボコ殴りにし断った。その後意識を失っている内に、有り金や装備を全て奪って村の外に捨てたんだ」
勿論、これは嘘である。
「その挙げ句、こんな壁と堀を作って、《結界》まで張たってのか?」
「そうだ」
「いまいち、納得できん」
「疑うのか?」
「噂で聞いたんだが、フロリダ村の開拓に、この村の者が随分協力したそうだぞ」
「そんなの知るか。やられたのは本当だ!」
「形式上指示に従ったが、俺達王国兵士の使命は、ダンジョンの魔物を地上に出さない事だ。こんな事をしてる間に、非常事態が起きたらどうする?!」
「くっ!」
「人相手の治安の事なら、フロリダ村の兵士に頼るんだな」
コロネ子爵の手下は言い返す事ができず、言葉に詰まった。
指揮官はその様子を見て、踵を返し号令を発した。
「兵士は全員、撤収だ!」
「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」
兵士達は即座に、馬車に乗り込んだ。
そして、その様子を見ていた手下の仲間が声を掛けた。
「おい。兵士達を帰らせて、いいのか?」
「ああ。奴の言ってる事は、正しい。これ以上やっても、無理だろうよ」
コロネ子爵の手下は兵士達を引き止める手立てが無く、帰るのを見ていた。
またその様子を、食料の調達に来たハッサンが見ていた。
「いったい、何が起こってるんだ?」
そして、エシャット村を囲う壁と、それを攻撃する王国兵士に混乱していた。
「リートガルド様に、報告しないと」
ハッサンは王国兵士が来る前に、フロリダ村に引き返した。
◇
残されたコロネ子爵の手下は、集まって議論を始めた。
「どうするよ?」
「お手上げだ」
「フロリダ村の移民で、手を打つか?」
「馬鹿。リートガルドと揉めるぞ」
「それじゃ、《隣街》へ行くか?」
「仕方ねえ。最悪、《隷属の首輪》を使うぞ。数は幾つある?」
「十だ」
「それだけあれば、取り敢えずいいだろう」
「おい。無断で行ったら、不味いんじゃねーか?」
「誰が、子爵に報告するよ?」
「チッ、俺が行く。その代わり、お前ら抜かるなよ!」
「「「「「任せろ!」」」」」
◇
僕達は、その様子を見ていた。
「兵士達は帰ったが、昨日の奴等何してんだ?」
「女性の調達の、相談をしてる」
「聞こえるのか?」
「ああ。あいつら、エシャット村が攻略できないからって、隣街に行くらしい」
「酷い奴等だぜー」
「見過ごせないな」
「どうするんだ?」
「悪さができない様にする。これからする事は、内緒にしてくれ」
「「えっ!」」
「《睡眠》」
『『『『『『バタッ!』』』』』』
「全員、倒れたんだぜー」
「魔法で、眠らせたのか?」
「そう。そして、これを取り付ける」
そう言いながら、魔法袋から《悪事矯正リング》を取り出した。
一度は王都で使う機会を逃したが、身近な人達を守る為再び使う決意をした。
「何だそれ?」
「悪い事を考えると、痛みが走る魔道具さ」
「何でそんな物、持ってんだ?」
「いつか、役に立つと思ってね」
僕は、少し悪い顔をした。
「こえーな。そんな顔して言うなよ!」
「サジ、何ビビってるんだ?」
「うっせー!」
「ニコル。橋を降ろしてやるんだぜー」
「ああ、頼む」
壁の外に出る為、僕とスギルは見張り棟を下りた。
◇
門の扉を開け《結界》の一部を解除し、スギルに跳ね橋を下ろして貰った。
《結界》は僕も含め、そのままでは通り抜けられない仕様にしてある。
強度と持続性を優先し、複雑な設定にはしてない。
「スギルは門を、見張っててくれ」
「任せろだぜー」
スギルに見送られ、僕は眠っている男達の元へ向かった。
「本当なら、こんな物使いたくないんだ。そうさせるお前達が、悪いんだからな」
眠っている男達を見て、そんな言葉が漏れた。
そして、六人の足首に《悪事矯正リング》を取り付けていった。
取り付けが終わると、馬車から《隷属の首輪》を回収し、穴を埋めて堀の修復を済ませた。




