第二十五話 エシャット村、王国兵襲来
昨日あれだけの事があったのに、僕は今日も孤児院で勉強を教えている。
「ニコルにーちゃん、おそとのカベすごいね」
「わるいひと、はいってこれないね」
「ねー、どうしてできるのー?」
「そうだな。いっぱい勉強して、いっぱい錬金術や魔法の練習をしたんだ」
「それじゃ、べんきょうするー!」
「ぼくもー!」
「わたしもー!」
「ハハッ。頑張って、勉強しような」
「「「「「はーい!」」」」」
『バタ、バタ、バタ、バタ!』
「おい、ニコル。昨日の奴等が、兵士を連れてやって来たぞ!」
子供達にやる気を出させたばかりだというのに、サジが嫌な報せを持って来た。
昨日の内にスーパーの裏に小屋を建て、《亜空間ゲート》を設置した。
狩猟班は、早速プラーク街のダンジョンに出掛けた。
狩猟班の中で一番若手のサジとスギルが、見張りについていた。
「懲りずに、また来たか」
「奴等、どうする?」
「《結界》があれば、簡単に入って来られない筈。相手の出方を窺おう」
「分かった」
サジにそう告げると、子供達に振り返った。
「みんな、ごめんな。ちょっと、行ってくる」
「「「「「うん。がんばってー!」」」」」
僕とサジは孤児院を出て、見張り塔に向かった。
◇
「あれっ?」
「どうした?」
「いや、何でもない」
僕はこの時、『コロネ子爵達は、どうやって屋敷から出たんだ?』と、思った。
『《結界》を付与した魔力が、切れたのか?』
魔力を多く込めたので、一年やそこらじゃ《結界》は消えない筈である。
当時、《鑑定》能力で調べたのだ。
『それとも、誰かに解除又は破壊された?』
それなら、無いとは言いきれない。
『どちらにせよ、《結界》を突破される事を念頭に入れた方がいいな』
僕は走りながら、そんな事を考えていた。
『ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ、ガシッ・・・・・・・・・・!』
『ズバーーーン!!』
『ドゴーーーン!!』
『ガシャーーーン!!』
そして、見張り塔に近付くにつれ、喧騒な音が聞こえてきた。
◇
僕とサジは、スギルのいる見張り塔を登った。
「スギル、様子はどうだ?」
「あいつら、『扉を開けろ! 命令に従わない場合、この村は《国家反逆罪》だ!』って、言ってるんだぜー」
「脅しだな。開けたら駄目だぞ」
「分かってるんだぜー」
「他に動きは無いか?」
「弓矢や魔法で、物凄い攻撃をしてきたんだぜー。効き目が無くて、諦めたんだぜー」
「そうか。で、今度は何をする気だ?」
僕はこっそり、外の様子を覗き込んだ。
するとそこには、昨日の男達の他に大勢の兵士がいた。
そして、その中の兵士の一人が杖を構えた。
「***** ******* ***** ******* ******* 隧道!」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ガガッ!!』
兵士の魔法で、堀の石垣に穴を開けているようだ。
「くそっ、見えないや」
しかしその状況は見張り塔から確認できず、石垣を破壊する音だけ聞こえてきた。
「そうか!」
この時、僕は気付いた。
コロネ子爵達が、どうやって屋敷を出たのかを。
《結界》の下を、抜けたのだ。
◇
「《結界》はかわせたが、壁の基礎で止まってしまった。思った以上に頑丈だ」
「基礎の下を、掘れないのか?」
「堀の水が邪魔だ。塞き止める必要がある」
「それなら、堀の外から堀の下を掘ればいい」
「おいおい、他人事だと思って」
「コロネ子爵の命令なんだ。今日中に、何とかしてくれ」
「チッ。何だってこんな事を、しなきゃいけないんだ」
魔法を放った兵士と昨日の男が、そんな会話をしていた。
そのまま様子を見ていると、兵士は男の言う通り堀の外に縦穴を掘った。
かなり、深そうだ。
次はその穴に入り、堀の下を掘り進めるつもりだ。
「こうしちゃ、いられないな!」
「どうしたんだ?」
「あいつら、《結界》や壁の下にトンネルを掘る気だ。だから、《結界》を張り直す」
「ニコルって、何でもありだな。まあ、任せるわ」
サジは、呆れていた。
◇
壁の基礎部分は厚さ二メートル、深さは二.五メートルまで延びていた。
一方《結界》の深さは、一メートルである。
深さ三メートルの堀の下を掘り進めれば、いずれ村の中に入って来られる。
僕は見張り塔から手を伸ばし、《結界》に触れた。
「《結界拡張》」
そして、膨大な魔力を流し《結界》を拡張していった。
深さを五メートルまで伸ばし、底面にも《結界》をめぐらせた。
「よし、できた。これで全方向、《結界》で村を覆ったぞ!」
「もう、大丈夫なんだな?」
「攻撃が効いてない内は、大丈夫。でも、絶対じゃないから。《結界》を破る人が、現れるかもしれない」
「謙遜しなくて、いいんだぜー」
「いや。今回の件は、迂闊だったと反省してる」
「でもよ。やっぱり、ニコルは凄いぜ。壁が無かったら、今頃あいつ等押し寄せてたぜ」
「褒めてくれて、ありがとな。後はあいつらに、これ以上やっても無理だと諦めさせないとな」
「どうするんだ?」
「まあ、見てろよ」
僕はそう言って、見張り塔を降りた。
◇
「よし、この辺だな」
地面に手を当て、錬金術で堀の底に穴を開けた。
その場所は、丁度トンネルの上だ。
『チョロチョロ、チョロチョロ、プシュー・・・・・!』
「ヤバいっ! 水が上から吹いた」
穴にいた兵士は、慌てて外へ向かった。
『ドバーーー!』
「うわー!」
しかし、水が勢い良く吹き出し、流されてしまった。
その後水と共に、兵士が縦穴から浮かび上がってきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、死ぬところだったぜ!」
兵士は垂らしてある縄梯子で、地上に上がった。




