第二十四話 夢じゃねえよな
僕は見張り塔に登り、男達に掛けた《睡眠》と《捕縛》の魔法を解いた。
「むぐっ、俺は眠っていたのか?」
「俺もその様だ」
「俺達、いつの間に馬車に乗った? それに、ここは何処だ?」
男達は馬車から降り、辺りを見渡した。
「ここは、村の外なのか?」
「確かに、来る時通った道だ」
「では、あの壁は何だ?」
「夢じゃねえよな。壁なんか無かったぞ!」
「いったい、何が起こった? 誰か分かる奴は、いないのか?!」
男達は、他の馬車にいる仲間に問い掛けた。
「げっ、何だこれは!」
「嘘だろ!」
しかし、知る者はいなかった。
◇
「お前壁登り得意だろ、向こうの様子を見てこい!」
「ふん。面倒くせーが、俺も気になる。ちょっくら行ってくるわ!」
堀の幅は四メートルで、深さは三メートル。
壁と堀の間は五十センチで、石垣の地面になっていた。
運動能力のある成人男性だったら、飛び越えは可能だ。
『タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!』
「おりゃ!」
男は助走をつけて、ジャンプした。
『バシーン!』
「うあー!」
『ボチャーン!』
男は堀を飛び越えられたが、着地を失敗した。
その原因は、壁の外側二十センチにある《結界》に阻まれ、着地の目測を誤ったのだ。
また、その堀の水位は、半分程まであった。
「プハー! イテテッ!」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫だ」
男は体を痛めながらも、自力で堀を上がった。
◇
「何が起こった?」
「壁の外に、見えない《結界》がある」
「《結界》だと!」
仲間は石ころを拾い、壁に向かって投げた。
『カツン!』
『チャポン!』
「どうやら、本当のようだ」
「壁と堀だけでなく、村を囲う《結界》を張ったというのか?!」
男達はその事実に、驚愕し沈黙した。
「俺がやる!」
沈黙を破り、男が名乗り出た。
そして、腰にぶら下げていた短杖を構えた。
「*****、*******、*****、*******、*******、水槍!」
『ズバァーーー!!』
「チッ、傷一つ無しか!」
「俺も、試そう」
「*****、*******、*****、*******、*******、圧縮空気砲弾!」
『ズバーーーーン!!』
「駄目だ!」
「もう一度!」
「*****、*******、*****、*******、*******、螺旋水流!」
『ズバババババーーーーーーーーーー!!』
「チッ、また駄目だ!」
「*****、*******、*****、*******、*******、旋風刃!」
『ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ、ガッ・・・・・・・・・・!!』
「これでも、駄目なのか?!」
「どうやら、一朝一夕ではいかないらしいな」
「この村、何か変だぞ!」
「ヤバい気配が、ハンパない!」
「今日はもう、帰ろうぜ!」
「賛成!」
こうして男達は、フロリダ村へと引き上げた。
◇
僕は今の様子を、見張り塔からこっそり見ていた。
そして、見張り塔を下りその事をみんなに告げた。
「みんな。奴等は帰ったよ」
「「「「「「「「「「おーーー!」」」」」」」」」」
「ありがとう。ニコル君!」
「本当に助かったわ!」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
身の危険を感じていた女性陣から感謝され、揉みくちゃにされてしまった。
「だけど、こんな物を作って村は孤立しちゃうね」
「何言ってるの。今までだって、誰も来なかったじゃない!」
「そう言えば、そうか」
「プラーク街にだって行けるんだから、気にする事ないわ」
こうしてエシャット村は、《壁》と《結界》に囲まれた生活が始まった。
◇
男達はフロリダ村に戻ると、コロネ子爵に報告した。
「コロネ子爵。申し訳ありません」
「どうした?」
「村の女を、連れて来れませんでした」
「一人もか?」
「はい」
「何をやっておる。これだけの面子がいて!」
「いえそれが、あの村はおかしいのです」
「何だと言うんだ?!」
「それが女を馬車に乗せようとしたところ邪魔が入りまして、我ら全員いつの間にか眠らされたのです。そして目覚めると、村の外に追い出されてました」
「《睡眠魔法》でも、掛けられたというのか?」
「恐らく」
「それでおめおめと、帰って来たのか?」
「それが自分でも信じられないのですが、我々が寝てる間に村を囲う壁が立てられてまして」
「馬鹿な! そんな事できる筈あるまい!」
「本当です。しかも、《結界》まで張ってありました」
「村を覆う《結界》だと! 戯言を言うな!」
「ですがここにいる六人、全員確認しました」
他の五人も、全員頷いた。
コロネ子爵は男達の顔を見て、嘘ではないと覚った。
「そうか分かった。お前達の言う事を信じよう」
「ありがとうございます」
「だが、相手が得体の知れない者達であっても、このまま引き下がれん。兵士を全員連れて行け。多勢で、眠らされる前に制圧するんだ!」
「しかし、《結界》が!」
「私達がどうやって屋敷から出たのか、忘れたか? 兵士には、《土属性魔法》の使い手がいたろう」
「そうでした。地下ですね」
「そういう事だ。明日は、失敗するな!」
「分かりました」
翌日、エシャット村は再び攻められる事となった。
そして、実はこの時、コロネ子爵は別件でイライラしていた。
今日からダンジョンの管理を始めたのだが、入場料の値上げ等で利用者から反発を買ってしまった。
その結果、ダンジョンの利用を拒否されたのだ。
ドロップ品の購入も拒否され、販売の収益も見込めなくなっていた。
今日は王国兵をダンジョンに送り込み、自分達の食料を確保するだけに留まった。
◇
同じ頃、拒否した側のリートガルドも困っていた。
「こんな噂が広まったら、この村に移民なんて集まらない。今いる者達だって、離れてしまう!」
「食料も、ダンジョンのドロップ品を当てにしていました。今後、食料不足は否めません」
秘書のハイネスが、進言した。
「そうだな。エシャット村に、また頼るか」
「ダンジョン探索者も、引き留めませんと」
「山で、狩りや薬草採取の仕事を回せんのか?」
「一時的には可能でしょうが、解決策になりません」
「やはり、コロネ子爵を何とかしなければ・・・・・」
コロネ子爵との協議は、難航しそうだった。
取り敢えず目先の食料の解決に、翌日ハッサンがエシャット村へ行く事になった。




