第二十三話 守備的な敵対
話し合いの結果、女性陣の《貞操の危機》と子供達の《誘拐》の不安は拭えなかった。
そんな不安を抱えては、《召集令》に従えないし日常を過ごす事も難しくなった。
普通の村であれば、貴族に従うしかなかった。
しかし、僕が村全体を覆う《結界》を張れる事を、みんなは知っている。
だが、《結界》を張ってコロネ子爵達を締め出してしまえば、エシャット村は孤立し国に逆らう事になりかねない。
そんな話し合いの最中、ダンジョンに行っていた狩猟班が帰って来た。
「どうしたんだ。みんな集まって?」
「お前達こそ、帰って来るの早いじゃねーか」
「いやー、『かくかくしかじか』でよー。帰ってきちまった」
「何だと。こっちも、『かくかくしかじか』だ」
村人達は二人に注目し、会話を聞いていた。
「王都から来た奴等、とんでもねーな」
「本当だぜ」
どうやらダンジョンの方でも、一悶着あったようだ。
◇
「父さん。今の話し、聞いてたよね」
「ああ、やりたい放題だな」
「このまま、エシャット村から手を引きそうもないね」
「ニコル、何か打つ手はあるか?」
「そうだね。まず、戦うか・守るか・逃げるか、方向性を決めないと」
《悪事矯正リング》を取り付けるという手もあるが、どうしたものだろうか?
「逃げるって、《亜空間ゲート》でか?」
「うん」
「プラーク街のニコルの家には、これだけの人数は住めないぞ」
「そうだね。だからどこか広大な土地を探して、家や畑を《移設》しようと思う」
「「「「「「「「「「えーーー!」」」」」」」」」」
僕が突拍子もない事を言って、みんなが驚いた。
「おいおい、そんな事できる訳が・・・・・」
父さんは、言葉の途中で考え始めた。
「ニコルは、できもしない事は言わない。もしかして、できるのか?」
「うん。できる」
「そうか。ニコルがそう言うなら、可能なのだろう」
「「「「「「「「「「ざわざわ・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」
みんながそれを聞いて、ざわつき始めた。
「今の僕なら、戦って奴等を殲滅する事もできるけど、それは更なる戦いを生むような気がする。どれを選ぶかは、みんな次第だね」
能力を隠したせいで、誰かが傷付いたり今まで築き上げた生活を壊したくなかった。
この様な状況になってしまっては、みんなに《能力》を明かしてもいいと思った。
「守る場合は、やっぱり《結界》か?」
「うん。心配だったら、高い壁と堀で囲ってもいいよ。その上で《結界》も張る」
「それだけの物を作るには、時間が掛かるだろう?」
「大丈夫。今日中にはできるよ」
「「「「「「「「「「えーーー!」」」」」」」」」」
父さんを含め、再び村のみんなが驚いた。
「家や畑を持って行けるのなら、ニコルには可能なのだろう」
「「「「「「「「「「ざわざわ・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」
そして、村のみんなが再びざわめいた。
「僕は思うんだ。《亜空間ゲート》を使って、逃げる事はいつでもできる。けど、今じゃない気がする。まして戦うのは物騒だし、守ってみない?」
「ニコルっちに任せる!」
「私も!」
「俺もだ!」
「ニコル君、やっちゃってー!」
「「「「「「「「「「ワー、ワー、ワー・・・・・・・・・・!」」」」」」」」」」
「みんなはこう言ってるけど、父さんの意見はどうかな?」
「ああ。俺も、ニコルに任せる!」
「決まりだね。それじゃこの人達、馬車に積んで外に出しちゃおう」
「そうだな」
こうしてエシャット村は、コロネ子爵と《守備的な敵対》をする方向に進んだ。
◇
みんなに手伝って貰い、コロネ子爵の手下を村の外に出した。
そして、僕はエシャット村を囲う壁を立てていった。
高さは、五メートル。
範囲は、二キロ四方である。
壁の外側は堀になっており、ちゃんと水も引いた。
更に《結界》を張り、外部から人が入れないようにしてある。
これらを、五時間程で仕上げてしまった。
みんなはそれを見ている間、呆気にとられていた。
「まさか、本当に一日で完成するとは」
「ニコル君、凄いわ」
「これなら、安心ね」
「「「「「「「「「「ワー、ワー、ワー・・・・・・・・・・!」」」」」」」」」」
完成して間も無く、みんなから歓声が上がった。
「人が来ないなら、《亜空間ゲート》使ってもいいよな?」
「リートガルド様達が来た時の為に、設置場所を目立たない場所に移した方がいいね」
「頼んだぜ、ニコル」
「分かったよ、サジ」
この後、スーパーの裏に小屋を設置しする事になった。
そして、『リートガルド様達は、僕がいる時しか通さない』と、取り決めをした。
「ところで、父さん。門番はどうしようか?」
門の扉は鉄製で、堀には跳ね橋が掛かっていた。
そして、門の両側には見張り塔が建っている。
「そうだな。リートガルド様達も、来るしな」
父さんは、村人達を見渡した。
「ニック。狩猟班の若手に任せたいんだが、いいか?」
「俺達?」
「戦闘慣れしていて、いざという時対処できるだろ。交代でやってくれ」
「しょうがないな」
ニックさんは面倒臭そうにしながらも、引き受けてくれた。




