第二十二話 ニコルっち、遅いよー!
男達がエレナとルチアナとニーナを馬車に乗せようとしたところ、ウェンディとミーリアがその場を目撃した。
丁度出来立てのパンを、スーパーに届けに来たのだ。
「ちょっと、あんた達。三人を何処へ連れて行く気よ!」
「エレナさん、どうしたんですか?」
二人は目の前の状況に、異変を感じた。
「二人共、逃げて! こいつらに、連れて行かれるわ!」
「そんな事言ったって、放っておけない。ミーリア、これ持ってて!」
「ちょっと、ウェンディ!」
ウェンディはミーリアにパンの入ったケースを預け、男達に歩み寄った。
「***** ******* ***** ******* *******」
「ほう、この娘もなかなかだ。それに、向こうの娘は上物だ」
男は品定めをしながら、ウェンディを待ち受けた。
「《水弾!》」
『スッ!』
ウェンディは歩きながら小声で呪文を唱え、不意をついて男に魔法を放った。
しかし、あっさり避けられてしまった。
「危ねーな、このアマ!」
男はウェンディとの間合いを詰め、右腕を振り上げた。
◇
ワン太達を追い掛けると、遠くからスーパーの前に馬車が三台停まっているのが見えた。
「お前達、あの馬車の奴等にやられたのか?」
「「「ワン!」」」
「分かった。お前達は、大人しくしててくれ。シータもな」
「「「「ワン!」」」」
近付くにつれ、人影も見えてきた。
「ウェンディから、魔力を感じる。魔法を使う気か?」
次の瞬間、ウェンディが放った《水弾》は男に避けられ、間合いを詰められた。
「ヤバい!」
僕は言葉と共に、《瞬動》スキルを使った。
『シュバッ!』
『ガシッ!』
そして、男が振り上げた腕を掴んだ。
「誰だ?!」
「ニコルっち!」
「お前は、女の子に手をあげるのか?!」
「何だと!」
『ギュッ!』
「いてー! くそっ、放せ!」
『ブンッ!』
僕が腕を強く握ったせいで、男は痛がった。
しかし、痛がりながらも反対の拳で僕を殴りにきた。
『スカッ!』
『ブオッ!』
『ドサッ!』
「ブホッ!」
僕はその拳をかわし、腕を掴んだまま男を投げ、腹這いで地面に倒し腕の関節を極めた。
「いてー! おい、お前ら。こいつを殺れ!」
「村人にやられるなんて、情けねーな。待ってろ」
そう言って男達は、エレナ姉さん達を馬車に押し込もうとした。
状況を確認すると、男達は足元のこいつを入れて六人いる。
みんなの安全の為、悠長にこいつらの相手をしてる場合じゃなかった。
「《睡眠》」
『『バタン!』』
エレナ姉さん達を捕らえていた男二人が、眠って地面に倒れた。
そして、御者席にいる三人と足元の男も眠ってしまった。
これが、今とれる一番の安全策だった。
「何々、どうしたの?」
エレナ姉さんが、叫んだ。
「魔法で、眠らせたんだよ」
「そっ、そう。助かったわ、ニコル」
「ニコル君、ありがとう」
「ニコルにー、かっこいい」
「ニコルっち、遅いよー!」
「ウェンディ、素直にお礼言いなさいよ」
「ベーだ!」
ミーリアの指摘に、ウェンディは舌を出して拒否した。
「みんな、怪我は無い?」
「私達は大丈夫。でも、スーパーの中でお父さん達が殴られたの!」
「ミーリア、見に行ってくれないか?」
《回復属性魔法》を使えるミーリアに、父さん達を頼んだ。
「うん」
「私も行く!」
「「私も!」」
エレナ姉さん達も心配そうに、スーパーに駆けて行った。
ここに残ったのは、ウェンディと騒ぎを見ていた数人の村人である。
◇
僕は魔法で、男達を捕縛していった。
「こいつら、見覚えがある」
「そうなの?」
「誰だったかな?」
「もー、早く思い出しなさいよ!」
僕が考えていると、騒ぎを聞き付け更に村人が集まって来た。
「ぼく、このおじさんたちしってる!」
「ルーク」
「ぼく、このおじさんたちに《ゆうかい》されて、ニコルにーちゃんにたすけてもらったんだ」
「「「「「「「「「「何だってーーー!」」」」」」」」」」
ルークの言葉に、その場にいたみんなが驚いた。
「ルーク君、本当なの?」
ジーナを抱いて、ルークと駆けつけた母さんが質問した。
「うん。ちゃんと、おぼえてるよ」
「そうなのね。子供の誘拐なんて、許せないわ。プンプン!!!」
母さんは、相当怒ってしまった。
「で、二コルっちは思い出した?!」
「そう言えば、ルークの言う通りだ。こいつら、貴族の手下だ!」
「貴族? 何でそんな大事な事、直ぐ思い出せないのよ!」
「何でって、そんなのしょうがないだろ!」
「ふん。今回は助けられたし、許してあげる。それで、こいつらどうするの?」
「どうしようか? 一つ疑問なんだけど、何でこいつらエシャット村に来たんだ?」
まさか、『ルークを追って』と、いう事はないだろう。
「こいつらは王都からコロネ子爵と、ダンジョン防衛施設の運営に来たそうだ」
「父さん!」
スーパーにいた父さんが、ジーク兄さんやエレナ姉さん達と現れた。
◇
父さんは僕や村人達に、事の経緯を説明してくれた。
そして、僕も王都でのコロネ子爵邸で起こった事を、掻い摘んで説明した。
「僕はその時《変装》してたから、こいつらは気付いてないんだけどね」
「そうなのか。何だか大変な事になったな」
「村の人達を、こいつらの所へ行かせるのは危険だね」
「ああ。特に女と子供はな」
村の人達が、不安な顔になってしまった。
「困った事に、こいつら王国の仕事で来たんだよね」
「逆らったら、不味い事になりそうだ」
「この状況も、充分不味いけどね」
「国ももっとまともな人物を、派遣してくれればいいのにな」
「そうだね」
「ねえ、ニコルっち。また《結界》を張って、こいつらが村に入れなくしようよ」
「それでもいいけど、父さんどうする?」
「うむ。少しみんなで、話し合うか」
こうしてこの場に村人を集め、緊急で話し合いが行われた。




