第二十一話 召集令
僕はいつもの様に、孤児院で子供達に勉強を教えていた。
「ワン! ワン! ワン! ワン! ワン! ワン!」
すると突然、犬の鳴き声が聞こえた。
「何事だ?!」
僕は異変を感じ、慌てて見に行った。
すると、そこにはゴーレム犬のシータがいた。
「どうした、シータ。何かあったのか?」
「ワン!」
シータは鳴いた後、頷いた。
「そうか。あったんだな」
「ワン!」
「ねえ、ニコルおにーちゃん。どうしたの?」
子供達が、僕を追って集まって来た。
「何か大変な事が、起こった様だ。僕はこれから見に行く。今日の勉強はおしまいだ」
「「「「「「「「「「わかったー!」」」」」」」」」」
「行くぞ、シータ!」
「ワン!」
シータは一鳴きすると、走り出した。
僕は、その後を追った。
◇
シータを追うと、村の入口でワン太とフタバとサンタが倒れていた。
「おい、大丈夫か?!」
「「「ワン!」」」
「お前ら、前足が無いじゃないか!」
切り口を見ると、刃物で切られたような痕だった。
「よし。今、治してやる!」
僕は落ちている前足を拾い、《鑑定》能力で誰のどの足か視ながら、錬金術で修復していった。
「治ったぞ」
「「「ワン!」」」
三匹は、しきりに尻尾を振った。
「いったい、誰にやられたんだ?」
「「「ワン!」」」
ワン太とフタバとサンタは、ついて来いと言わんばかりに走り出した。
僕とシータは彼らの後を追い、再び走った。
◇
コロネ子爵の指示でやって来た男達は、スーパーで働くニコルの姉エレナに目をつけた。
「ねーちゃん。あんた美人だな」
「ありがと。お客さん、見ない顔ね」
「俺達は昨日、王都からフロリダ村に着いたばかりだ」
「へー、王都からなの。凄いわね」
最近ダンジョンができたせいで、エシャット村を訪れる人が増えていた。
「俺達が仕えているコロネ子爵が、ダンジョンの責任者になってよ。その使いで、今日は来た」
「子爵様の使い? 何の用?」
「これを見ろ」
「『召集令』? 何々、『ダンジョン運営の為、貴村から人員を召集する。子爵エドモント・コロネ』ですって」
「ルチアナさん、どう思う」
「なーに。エレナちゃん」
「これ見て」
「・・・・・んー、お義父さんに来て貰った方がいいわね」
「こっちのねーちゃんも、なかなか美人だな。そのお義父さんってのは、村長か?」
「そうよ」
「それじゃ、呼んで来てくれ。コロネ子爵の使者が来たってな」
「分かったわ」
ルチアナは、村長であるジーンを呼びに行った。
◇
ルチアナに呼ばれ、ジーンは男達から話しを聞いた。
しかしその内容は、納得がいくものではなかなかった。
「村長。村の女は、出せねーとぬかすのか?!」
「若い女性限定で住み込み労働なんて言われても、納得いきません。しかも、十五人もだなんて。報酬だって、食事だけなんですよね」
「おい。俺達は国王様が《ダンジョン防衛施設》の責任者に任命した、コロネ子爵の使いで来てるんだ。それでも、逆らうつもりか?」
「いえ。逆らうとかじゃなく、この条件に納得がいかないんです」
ジーンは男達の胡散臭さと一方的な要求に、必死で抵抗した。
「あんた達、勝手な事言ってんじゃないわよ!」
「何だ、ねーちゃん。威勢がいいな。だが、俺は好きだぜ」
「あんたなんかお断りよ! 私は人妻なんだからね!」
「ほう、人妻か。俺は別に構わねーぜ」
「イヤらしい目で、見ないでよ!」
「エレナちゃん、落ち着いて!」
「ルチアナさん」
ルチアナは興奮したエレナの肩を掴み、落ち着かせた。
「この二人は決まりだな。連れて行くぞ!」
「なっ! ちょっと、待ってください!」
「うるせー!」
『バキッ!』
「うぐっ!」
『ガシャーン!』
「「お父さん(お義父さん)!」」
止めに入ったジーンは男に殴られ、商品棚に衝突し意識を失った。
「おい、行くぞ!」
「「おう!」」
ジーンを殴った男に促され、仲間達はエレナとルチアナの腕を掴んだ。
「放しなさいよ!」
「イヤ、止めて!」
『『タッ、タッ、タッ、タッ!』』
「「お前ら、俺の嫁から手を放せ!!」」
そこに二人の夫ジークとハンスが現れ、男達の手を振り払った。
ここで働くロッシとニーナが不穏な空気を感じ、二人を連れて来たのだ。
「チッ、女達の旦那か。こいつらもやるぞ!」
「「おう!」」
『バキッ!』
「うがっ!」
『ガシャーン!』
「ジーク!」
『バキッ!』
「うげっ!」
『ガシャーン!』
「ハンス!」
二人は、あっさりとやられてしまった。
「そこの娘も、若いがなかなかだな。一人追加だ」
そう言って男達は、ニーナも含めた三人を連れ出そうとした。
「お前ら、三人に手を出すな!」
そこに、ロッシが立ちはだかった。
「お前も、痛い目見るだけだぞ!」
「うるさい! お前らの好き勝手に、させない!」
「ほう、粋がるねー」
『バキッ!』
「うっ!」
『ガシャーン!』
「ほら、言わんこっちゃねー」
「おにーちゃん!」
「「ロッシ(ロッシ君)!」」
そして、ロッシもあっさりとやられてしまった。
「あんた達、何て酷い事するのよ!」
「「「「「そうよ、そうよー!」」」」」
今度はこの惨状を見ていたスーパーの客達が、文句を言い放った。
「うるせー。ババアは、黙ってろ!」
「「「「「「ヒィーーー!」」」」」」
だが、男から放たれた《威圧》に、悲鳴をあげ尻込みしてしまった。
結局、エレナとルチアナとニーナは、スーパーから連れ出される事になった。




