第十九話 ダンジョン防衛施設、運営の一行
魔王襲来から三ヶ月が過ぎ、王都からフロリダ村に《ダンジョン防衛施設》を運営する一行が訪れようとしていた。
「長い旅が終わるのはいいが、随分と僻地だな」
「そうですね。旦那様」
「これも全部、《黒髪》のせいだ」
その《施設長》としてやって来たのは、ニコルと因縁のある《コロネ子爵》だった。
子供の誘拐が原因で、ニコルが屋敷に《結界》を《付与》し、閉じ込めた人物である。
《魔王襲来》を前にして、ある人物の助言で《地中》を確認したところ、深さ一メートルで《結界》が途切れている事が判明した。
その後地下室のある外壁に穴を開け、無事出られたという訳だ。
しかし、《一年》近く屋敷に籠っていたせいで、王城での要職を失ってしまった。
そこで、《裏稼業》で繋がりのある《宰相》に泣き付き、この職を掴み取ったのだ。
ただその見返りも、ちゃんと要求されている。
ダンジョンの《利益の一割》を、宰相に《上納》する契約になっていた。
コロネ子爵は王国の兵士や職員の他に、筆頭執事と裏稼業の手駒を同行させた。
そして一ヶ月掛けて、ようやく目的地のフロリダ村に到着したのである。
「こんな僻地だからどうかと思ったが、開拓は進んでおるではないか」
「リートガルド伯爵家も、なかなか侮れませんな」
「この村の代表は、リートガルド伯爵家のイアン殿だった筈。挨拶をせねばな」
「そうですね」
コロネ子爵と筆頭執事は同行者達を待機させ、村の代表であるリートガルドのところへ向かった。
◇
二人は役場の応接室に通され、紅茶を飲んでいた。
高級なテーブルとソファーでは無く、質素な木のテーブルと椅子だった。
開拓中である為、そこまで手が回らないのである。
「よく、参られた。コロネ子爵」
「世話になる、イアン殿。それにしても、王都から随分離れてるのだな」
彼らは貴族同士という事もあり、王都で何度か会っていた。
しかしリートガルドは、コロネ子爵にいい印象を持っていなかった。
「このような田舎に来られたという事は、ダンジョン防衛施設の施設長になられたのですか?」
「その通り。これが、その《任命書》だ。早速今日から、ダンジョンは私の管轄下になる」
リートガルドは、その書状に目を通した。
「確かに。コロネ子爵、ダンジョンの防衛と管理を頼みます」
「任せてくれ。ついては、これまでの状況を教えていただきたい」
「そうですな。現在我が領の兵士で地下五階層まで探索が進んでおり、生態系はプラーク街のダンジョンに似ていますな」
「プラーク街と言うと、食材をドロップするダンジョンですかな?」
「その通りです」
「食うには困らないが、《財源的魅力》としては、なんとも言えませんな」
「同感です」
「生肉のように日持ちしない物は、遠方への輸送は難しいし、近隣で捌くしかない」
「《氷属性魔法》や《冷凍魔道具》で凍らせば日持ちするが、なかなか人材も物も揃わない」
「その辺の対応は、急務ですな」
この後も暫く話しは続き、夕方には一行の歓迎会が催された。
◇
王都からの一行は、その日ダンジョン付近にテントを張った。
コロネ子爵のテントは他と比べ広くて豪華で、ベッドも備わっていた。
そんな場所で、明日から始まるダンジョン運営に纏わる会議が行われていた。
「イアン殿は、甘い。今の条件でやっていては、利益など微々たるものだ。明日からは入場料を《一万マネー》にし、ドロップ品は全て《半額》で買い取れ!」
「そっ、そんな事をすれば、ダンジョン探索者から苦情が出ます」
「そうです。人が集まらない事には、いずれ廃れてしまいます」
「それなら利益が充分上がるよう、ダンジョン探索者を集めてこい。そうすれば、設定条件も考えてやる!」
「そっ、それはまだ、村の整備が」
「これだけ整っていれば、充分だろう」
「それは・・・・・」
「兎に角だ。今は目標利益を上げる為、先程言った条件を実行しろ。向こうの兵士達からも、入場料を徴収するんだ!」
「わっ、分かりました」
「それと施設を建てる前に、私の住居が欲しい」
施設の建築は、《土属性魔法》の《建築魔法》を得意とする魔法師が同行していた。
「国の方からはスタンピードを警戒し、安全面を優先させろと言われました」
「ここの責任者は、私だ。ここでは、私に従って貰う」
「わっ、分かりました」
「お前達は、もういい。明日から、頼んだぞ!」
「「「「「はい」」」」」
施設職員達は渋々ながら了承し、テントを出た。
◇
「エドモントよ」
エドモントとは、筆頭執事の名前である。
「はい。旦那様」
「来る途中、村があったな」
「はい。ございました」
「我々の飯炊きと雑用をする人夫を、連れて来るのだ」
「対価は、どう致しましょう?」
「我々の食事の余り物を、くれてやればよい」
「それでは、人は集まりません」
「お前も甘いな。奴等を使え。力で従わせるんだ。それと夜の相手をする娘も、忘れぬよう伝えておけ」
「はっ、はい。旦那様」
フロリダ村に厄介な貴族が現れ、その魔の手はエシャット村にも伸びようとしていた。




