第十六話 ダンジョン周辺の開拓協力依頼
日本をゆっくりと堪能したいところだが、色々と忙しいので僕は直ぐに元の世界に帰った。
『シュタッ!』
ボス部屋に《転移》すると、魔王様達はいなかった。
この部屋の主さえも、リポップされてない。
「何処へ行ったんだ?」
魔王様達の居場所を探ると、プラーク街のダンジョンにいる事が分かった。
「このまま、黙って帰るのも悪いな」
魔王様達に挨拶する為、プラーク街のダンジョンに《転移》した。
『シュタッ!』
「お邪魔します」
「ニコルが、来たのじゃ」
「向こうに、誰もいなくて困ったろう。こちらの屋敷に、父上を案内していた。これでお互い、行き来できる」
「ニコルよ。息子と孫娘に会えた事、感謝する」
「いえ。ご挨拶に行けず、申し訳ありませんでした」
「そうだな。一応、待っておったのだぞ」
『ギクッ!』
「勇者の坊主は、よく来ておったぞ」
「ハハッ」
何も言えず、笑って誤魔化した。
「ニコル。妾の作ったダンジョンを、大きくしたのじゃ」
「えっ! 魔素の量が、少なかった筈じゃ?」
「パパ上に頼んで、ここのダンジョンコアから、魔素を供給して貰っているのじゃ」
「そんな事、できるんですか?」
「ついでに魔物の生態系も、ここと同じようにしたのじゃ。どうじゃ、嬉しいじゃろ?」
「そっ、そうですね。嬉しいです」
「あまり、嬉しくなさそうじゃな。妾には、この《魔眼》で分かるのじゃ」
魔王様達は、《魔眼》スキルを持っている。
嘘は、通用しない。
「ダンジョン自体嬉しいのですが、故郷の村に往来が増えるので、色々と心配事も増えるのです」
「そうであったか。それなら妾が住んで、村を守るのじゃ」
「えっ!」
「なんじゃ?」
「《魔王》が村にいると知れたら、騒動になります」
「それもそうなのじゃ。たまに、遊びに行くだけにするのじゃ」
「そうして下さい」
僕はゼルリル様の申し出に焦り、肉料理を置いて逃げるようにこの場を去った。
◇
エシャット村は、これから増えるだろう小麦の需要を見越して、畑の開拓を進めていた。
僕はその協力と孤児の世話と村の治安が心配で、今年は行商の旅に出るのを止めた。
しかし、それは表向きの事であり、暇な時にコッソリ《転移》で出掛けていた。
一方ダンジョン周辺の開拓は、残された兵士五十人で行われた。
本格的に街作りが始まるまで、道路や仮設住宅を建てるのが役目らしい。
そんなある日、残留組になったハッサンさんが、父さんのところへやって来た。
「ジーン村長。折り入って、頼みがある」
「何でしょう」
「この村の建築や土木の技術は、素晴らしい。我々は兵士であって、その辺は素人だ。どうか、手を貸して欲しい」
「そうですか。お困りでしたか。それなら、条件が一つあります」
「条件?」
「はい。ダンジョンに、村の有資格者の入場を認めて欲しいのです」
「ふむ、分かった。その代わり、手助けを頼むぞ!」
「分かりました」
ハッサンさんは、スーパーで食料を仕入れると帰っていった。
◇
「なあ、ニコル。明日からダンジョンの方の開拓を、手伝ってくれないか?」
「どうしたの急に?」
「いや、ハッサンさんに頼まれてな。その代わり、資格のある者はダンジョンに入れるようにして貰った」
現在《亜空間ゲート》は使用禁止にしており、狩猟班は山で狩りをしていた。
「ふーん、そうなんだ。だったら、孤児院の面倒は見て貰うからね」
「わっ、分かった。任せろ」
僕はおやつの入った魔法袋を、父さんに預けた。
◇
翌朝、シャルロッテに騎乗し、山の麓のダンジョンへ向かった。
シロンとポムは、家で留守番である。
「シャルロッテ。兵士達の馬もいるし、無理しなくていいんだぞ」
『最近ますます出番が無いので、お供します』
行商の旅に出なくなり、シャルロッテには申し訳なく思う。
「村の敷地を出たら、変装して臭いを消すからな」
『分かりました。参りましょう』
今日は珍しく二人きりで出掛けるので、嬉しそうである。
◇
「***** ******* ***** ******* ******* 道路!」
ダンジョンの近くまで来ると、魔法で道路整備をしている魔法師達がいた。
「ご苦労様です」
「お主は確か、ここまで道案内をした村人」
「ニコルです」
「どうした?」
「えーと、お手伝いに来ました」
「ハッサンに、頼まれたというやつか?」
「ええ、まあ」
「たった、一人でか?」
「一人で、十人分働きますから!」
「威勢がいいな。まあ頑張れ。ハッサンは、この奥だ」
「はい。ありがとうございます」
礼を言うと、シャルロッテを走らせ、ハッサンさんの元へ向かった。




