第十五話 召還者達の帰郷
帰りの《転移》も、暫くの時間暗闇を飛んだ。
『シュタッ!』
「ただいま。遅くなって、すみません」
勇也さん達はテーブルに着き、お茶を啜っていた。
『『ガタッ!』』
「ニッ、ニコル! どうだった?」
「ニコル君!」
僕の姿を見て、二人は立ち上がった。
「成功です。これ、日本から持って来ました」
そう言いながら、手に持っている《空き缶》を見せた。
「それって、コーヒーの空き缶じゃないか。本当に、日本に行ったんだな!」
「凄いよ、ニコル君!」
二人は驚きながらも、顔はほころんでいた。
「俺達も、日本に帰れるんだよな?」
「帰れます」
「「やったーーー!」」
二人は、両手を突き上げ喜んだ。
◇
「確認だけど、二人はこっちの世界に戻らなくていいんだよね?」
「「いい!」」
「言っておくけど、向こうで《魔力の自然回復》はしなかったよ。魔力が切れたら、魔法は使えなくなるからね」
「おっ、おう。構わないぞ」
「ぼっ、僕も」
二人には、少し未練があるようだ。
「それから向こうの日付けは、西暦二千三十八年◯月◯日だった。二人が召還されてから、随分経ってるんじゃないかな?」
「四年経ってる」
「僕も四年」
「多分、《失踪者》扱いになってると思うよ」
「「だろうな(そうだね)」」
「世間が騒ぐかもしれないけど、それに耐えられる?」
「そんな事言ったって、耐えるしかないだろ」
「四年前の召還時には、戻れないの?」
「《時を遡る》なんて、《神様》じゃないと無理でしょうね」
「《宇宙空間の転移》も、大概だぞ!」
「そうだね」
僕も言ってて、そう思った。
「勇也君。お互い大変だけど、頑張ろう!」
「そうだな。こっちの世界で、やってこれたんだ。何とかなるさ!」
「それじゃ、いいんだね?」
「「ああ(うん)」」
「そうだ。ニコルに、《アイテムボックス》の中身をやるよ」
「僕も魔法袋を、受け取って欲しい」
「いいの? 金貨とか、向こうでも価値あるよ」
「いいさ。日本に帰れるんだから」
「僕も、同じだよ」
「そう。それなら、ありがたく受け取るよ」
「それじゃ、これ」
僕は忍さんから、差し出された魔法袋を受け取った。
「ありがとう」
一方勇也さんは、《アイテムボックス》から中身を取り出し、地面に積み上げた。
「ニコル、受け取ってくれ」
「うん。ありがとう」
僕は山の様になったドロップ品や武器やお金や食材を、《亜空間収納》にしまった。
◇
「それじゃ行く前に、その服装を何とかしなきゃね」
「うっ、そうだな」
「この格好じゃ、コスプレイヤーだもんね」
「僕の錬金術で、服装を変えるよ」
「ああ、うん。頼む」
「凄いね。そんな事もできるんだ」
「それじゃ、いきます」
二人にそれぞれ手を翳すと、白い光りに包まれた。
やがて光りは収まり、二人は自分の服装を確認した。
「錬金術って、便利だな」
「こういう格好は、久し振りだよ」
「ついでに、僕も」
僕は変装アイテムで、前世の自分になった。
服装の設定も操作し、二人に合わせた。
「あれ、ニコルなのか?」
「向こうで、ちょっとした騒ぎになってね。前世の自分に、変装してみた」
「ニコル君イケメンだから、女の子が集まって来たんだろうね」
「まっ、まあ、そうですね」
「ニコル。お前、どー見ても年上だろ!」
「そうだね。二十五歳の時の姿だから」
「早く言えよ!」
「まあ、いいじゃない。それじゃ、行こうか?」
今更な事なので、軽く受け流した。
「ニコル。ちょっと、待つのじゃ」
そう言えば、魔王様達を放っておいてしまった。
「すみません。僕達だけで、話し込んじゃって」
「そんな事はいいのじゃ。この場を離れるなら、さっきの《ケーキ》を置いて行くのじゃ」
「ああ、そうですね」
《亜空間収納》からケーキの入った厚紙の箱を取り出し、ゼルリル様に渡した。
「これでいいのじゃ。心置きなく、行くが良い」
「はい。それじゃ皆さん、行ってきます」
魔王様達に挨拶すると、勇也さんと忍さんと一緒に《転移》した。
◇
『『『シュタッ!』』』
「日本に、着きましたよ」
「「やったーーー!」」
二人は、がっしり抱き合いながら喜んだ。
「なあ、ニコル。ここは、何処なんだ?」
「僕の地元の、東京都杉並区です」
「杉並区か。それなら、俺の実家の横浜市からそんなに離れてないな」
「僕は川崎市だから、その間だね」
「そうだ、忍。住所交換しとこうぜ」
「そうだね」
僕は《亜空間収納》から紙とペンを取り出し、二人に渡した。
そして、二人は住所を書いた紙を交換し、再会を約束をした。
◇
「川崎も横浜も行った事あるから、家の近くまで送りますよ」
「うん、頼むよ」
「俺は、自分の《転移魔法》で行けそうだ」
「一人で、家族の説得は大丈夫なの?」
「大丈夫だって。なんとかしてみせる」
「そう。それなら勇也さんとは、ここでお別れだね」
そう言って、僕は手を差し出した。
「ああ、世話になった」
勇也さんは、きつく僕の手を握った。
「忍も元気でな」
「うん」
忍さんとも握手を交わすと、勇也さんは《転移魔法》で消えていった。
「それじゃ、僕達も行きましょうか?」
「そうだね」
忍さんの家の住所を確認し、思い当たる近い場所に《転移》した。
そこから暫く歩き実家のアパートに到着すると、夕食時になっていた。
僕はそこで、家族との感動の対面を見届けた。
「ニコル君、本当にありがとう。君のお陰で、家族に会えたよ」
「良かったですね。これから大変かもしれないけど、頑張って下さい」
「うん。頑張るよ」
「それじゃ」
僕達は握手を交わし、別れを告げた。
僕が歩いてその場を去ると、忍さんはいつまでも手を振って見送ってくれた。




