第十四話 惑星間転移
僕は《日本》のある場所を、《転移先》に思い浮かべた。
「うん。やっぱり、日本に《転移》できそうだ」
以前、この世界の事を、《検索ツール》で調べた事がある。
その時この惑星が、《天の川銀河》にある事を知った。
つまり、地球と同じ《銀河系》にあるという事だ。
僕は五歳の時、《空間属性魔法》をレベル10にした事により、転移可能距離が《無限》になっていた。
それはつまり、行った事のある場所であれば、惑星間の《転移》も可能という事だ。
そしてある日、『もしかして、《前世の記憶》があれば、地球に行けるんじゃないか?』なんて事を閃き、試しに《転移先》に前世の実家を思い浮かべた。
すると、感覚的に《転移可能》という事が分かった。
だがその時は、実行しなかった。
帰って来れるか心配だったし、何が起こるか分からなかったからだ。
「日本だと! ニコルお前、何で俺達の世界に行けるんだよ!」
「《元日本人の転生者》だからかな?」
「嘘だろ! それっ、初耳だぞ!」
「ごめん。素性は、隠しておきたかったんだ」
「フン、しょうがねえ。ところで、本当に日本に行けるのか?」
「試した事は無いけど、感覚的に『行ける』って分かるよ」
「でもよ。こことは違う、異世界に《転移》するんだぞ」
勇也さんは、ここが地球と同じ宇宙だと知らなかった。
「実は地球とこの星は、同じ《天の川銀河》にあるんだ」
「マジか?! そう言えば、ニコルの《転移》って、距離が無限だったよな?」
「うん。あと必要なのは、実行する《勇気》なんだよね」
「失敗する可能性も、あるって事か?」
「『やってみないと分からない』と、いうところかな。でも、多分大丈夫」
「それなら、早速俺達を日本に連れて行ってくれ!」
「お願いします!」
「悪いけど、最初は僕一人で行くよ。やっぱり、何かあったら大変だから」
「そういう事なら、ニコルが戻るまで待つ」
「成功を祈って、待ってるよ」
「うん。それじゃ皆さん。争わずに、待ってて下さい」
「妾が、見張ってるのじゃ!」
「よろしくお願いします」
ゼルリル様にこの場を任せ、僕は地球へ《転移》した。
◇
いつもは一瞬で着くのだが、今回の《転移》は違った。
暗闇の中一点の小さな光りに向かって、飛ぶような感覚で移動した。
恐らく、百秒は過ぎている。
『シュタッ!』
「成功したのか?!」
《転移》に指定した場所は、自宅近くの公園である。
確認の為、回りを見渡した。
「確かにここは、地元の公園だ」
この景色を見るのは、十八・九年振りである。
「懐かしいなー。一応、日付けだけ確認しておくか」
《検索ツール》で調べてみると、西暦二千三十八年◯月◯日だった。
僕が死んで異世界転生してから、同じ位の年月が過ぎていた。
「本当に、僕が住んでいた街なんだろうな? 平行世界とかじゃないよな?」
初めての事で、不安な気持ちが過った。
「よし! 街を見て回ろう」
不安な気持ちを払拭する為、自分の目と感覚で確かめる事にした。
◇
真っ先に向かったのは、《実家》だった。
「両親は、健在だろうか?」
妹と弟もいるが、それぞれ家庭を持っていていい齢である。
「会いたいけど、僕はこの世界で《死んだ人間》なんだよな」
どうやって会っていいか分からず、家を確認するだけにとどめた。
その後も街を見て歩いたが、街並みにそれ程変化は無かった。
「もう、僕が住んでた街って言い切って、いいんじゃないか?」
僕は散策を止め、現代の情報を仕入れる為書店を探した。
「書店なら、あそこだな」
そして、大型スーパー内の書店に向かった。
◇
「ねえ、ねえ、ちょっと見て。あの外国人、変わった格好してるけど、超イケメン!」
「うわっ、本当だ。ハリウッドスターも真っ青。写真撮りたいね!」
「逆ナンしちゃう? ねえ、しようよ!」
女の子達の声が聞こえ、僕の事を噂してると分かった。
『やばい。僕は今、イケメン外国人だった。地元に帰って来て、すっかり日本人の感覚になってた』と、内心焦っていた。
「騒がれる前に、用事を済ませて帰ろう」
僕は週刊誌や漫画雑誌を、手に取って開いた。
しかし、そこに載っていたのは、知らない芸能人や漫画ばかりだった。
「十八年も経ってれば、そうだよな」
たいした情報も得られず、騒ぎが起こる前に書店を出る事にした。
ふと視線を出口に向けると、僕を見つめる人だかりが増えていた。
「「「「「「「「「「キャー!」」」」」」」」」」
「王子様が、こっち見てるー!」
「どうしよう。どうしよう!」
「誰か、声掛けなさいよー!」
店を出ようとしたが、女の子達が出入口を塞いでいた。
「うわっ、どうする。突っ切るしかないのか?」
覚悟を決め出入口へ向かって歩くと、《モーゼの樹海》のように人垣が割れた。
「フー!」
何事も無く書店を出たが、彼女達は僕をつけて来た。
知らん振りしてそのままスーパーを出ると、僕は突然走り出した。
「「「「「「「「「「キャー、逃げたー!」」」」」」」」」」
僕は落ちていた《コーヒーの空き缶》を拾い、人目のつかない場所で《転移》した。




