第十三話 二つの再会
時は、ニコル達が《転移》する少し前に遡る。
オーエン街のダンジョンのボス部屋には、先客がいた。
「やったぞ。ここのボスは、楽勝だったな!」
「宝箱もあるよ!」
「忍。本番は、これからだぜ!」
「何の事?」
「これからが、大一番って事さ。出て来やがれ、糞ったれー!」
『シーン!』
「怖じ気付いたかー。弱虫ー!」
『シーン!』
「お前のかーちゃん、でーべーそー!」
「勇也君。何やってんの?!」
「まあまあ、待ってろよ」
◇
『シュタッ!』
勇也の言う通り待つと、間も無く何者かが現れた。
「軟弱勇者よ。久しいな」
現れたのは、魔王カイゼルであった。
「うるせー! 軟弱言うなー!」
「少しは、成長したか?」
「当たり前だろ! だから、来たんだ!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっと待って! 勇也君、この人《魔王》じゃないか!!!」
忍と呼ばれた青年は、《魔力感知》スキルで目の前の人物から強大な魔力を感じた。
その正体を知る為、《鑑定》スキルでステータスを覗いたのだ。
「何だお主、知らなんだか?」
「聞いてないよー!」
「事情があって、俺の口から言えなかったんだ」
以前勇也は、『喋ったら、スタンピードを起こす』と、脅されていた。
「どうすんの、この状況?」
「魔王を倒す! そして、日本に帰る!」
「今の僕達じゃ、無理だよー!」
「忍。お前となら、やれる!」
「ウソだー!」
彼の名前は、《忍木 忍》。
《ガーランド帝国》で《クラス召還》された際、《追放》されたのが彼だ。
追放後《アルシオン王国》に渡り、他のダンジョンで勇也と偶然出会ったのだ。
いじめられっ子気質で気が弱く、二十歳で年上なのに十八歳の勇也がいつも主導権を握っていた。
彼のステータス上の職業は《忍び》で、《忍術》という固有スキルを持っていた。
そしてそのスキルには、《鑑定》《隠秘》《収奪》という能力が最初から備わっていた。
彼は召還されて直ぐ能力に気付き、《隠秘》スキルでステータスの職業を《学生》に変え、スキルを隠した。
そのお陰で、《鑑定》スキル持ちの同級生を欺けたのだ。
そして、二人の様子を見ていた魔王は、痺れを切らした。
「お主ら、我を前にいい加減我にしろ。新顔よ、覚悟を決めるがいい!」
「ほら、魔王もこう言ってるぞ!」
「嫌だーーー!」
忍は覚悟を決められず、大声で叫んだ。
◇
転移先に勇也さんとカイゼル様がいるのを、僕は感知していた。
そしてもう一人、以前検索した事のある人物なので、素性を知っていた。
『『『シュタッ!』』』
僕は構わず、その場所に《転移》した。
「ジジ上!」
「おおー、ゼルリル。会いたかったぞーーー!」
二人は久し振りの再会に、両腕を広げ駆け寄った。
ゼルリル様は飛び付き、それをカイゼル様が受け止め、そのまま二人は回りだした。
「アハハッ! アハハッ! アハハッ!・・・・・」
ゼルリル様が、めっちゃ喜んでいる。
「父上もゼルリルも嬉しいのは分かるが、そこの勇者達が困っておるぞ」
「おお、そうだった! サムゼルもよく来た」
突然の展開に、二人は固まっていた。
「なっ、なっ、なっ、なっ、何で魔王が三人もいるんだよー!」
「ヒィーーー!」
しかしその存在の正体に気付き、驚き恐れた。
「どれ、相手をしてやる」
そう言ってカイゼル様は、抱えていたゼルリル様を下ろした。
「ふざけんな! 魔王三人なんて無理・・・って、何でそこにニコルがいるんだ?!」
大人しくしていた僕に、やっと勇也さんが気付いた。
「勇也さん。久し振り」
「『久し振り』じゃねー! 何でお前が、魔王と一緒にいる?!」
「家族が久し振りに対面する、手助けかな?」
僕は首を傾げながら、答えた。
「いやいや、そうじゃない」
「ああ、そうか。勇也さん、魔王様達は悪い魔王じゃないよ。だから、戦う必要は無いんだ」
「そんなの信じられるか!」
「んー。どうすれば、信じてくれるかなー?」
「例えそれが本当だとしても、俺達が元の世界に帰るには、魔王を倒すしかないんだ!」
「そんな無理してまで、帰りたいんですか?」
「当たり前だ! 俺は実家のレストランを継いで、一流のシェフになるのが《夢》なんだ!」
「夢かー」
「それに忍だって、帰りたいのは一緒だ!」
「どうも、《忍木 忍》です」
「僕は、ニコルです。忍さんも、元の世界に帰りたいんですか?」
「うん。帰りたい! 勇也君みたいに夢は無いけど、残してきた母さんと妹が心配なんだ!」
二人からは、『帰りたい』という強い意志を感じた。
「忍は相手を倒す事で、今は三つのスキルを奪える。二人で魔王を倒し、《異世界転移》スキルを奪わせるつもりだった」
「スキルを奪うって、ある意味《最強スキル》ですよね?」
「だからって、人殺しはしてないよ。全部、魔物から奪ったんだ!」
忍さんは、必死に訴えた。
「しょうがない。一度試してみるか!」
「何を試すんだ?!」
「僕に少し、時間をください。何とかできるかもしれません」
「「えっ!」」
僕の言葉に、二人は再び固まった。




