第十二話 ダンジョン発見の報せ
エシャット村の住民は、兵士達の食料を確保する為、忙しくしていた。
村の蓄えはスーパーの魔法袋に充分あり、僕の《亜空間収納》にも大量にあるが、この状況が続けばいづれ尽きてしまう。
それを回避する為、野菜の収穫量を増やしつつ、畑を広げる計画が持ち上がった。
それに伴い、魔道具の《乗用荷車》や《乗用耕運機》を隠すのを諦めた。
「よし、こんなものかな」
僕も孤児院を見る傍ら、開拓地の石ころを除去したり土の改良を手伝っている。
また、パン工房もフル稼働していた。
従業員の子供達も成長し、以前より手が掛からなくなったので、ウェンディも厨房に立たされていた。
「もー、何でこんなに忙しいのよ!」
「一緒に、頑張ろう」
そして、ミーリアも手伝いに駆り出された。
この忙しい状況が終わるまで、ケーキとクッキーの製造が、中止に追い遣られてしまった。
◇
そんな中小麦の乾燥が終わりに近付き、脱穀や納税用の小麦俵作りが、数日後行われようとしていた。
そんな時リートガルド様が現れ、父さんはある話しを持ち掛けられた。
「ジーン村長。ダンジョンを、発見したぞ」
「ダッ、ダンジョンですか?!」
「安心しろ。魔王はダンジョンを去り、安全は確保された」
「まっ、魔王まで!」
「その先触れも、今朝父に出したところだ。でないと、《魔王討伐》に王国中から兵士が集まって来るからな」
「王国中からですか?!」
リートガルド様の発言に、父さんはいちいち驚いていた。
という僕も、先日ダンジョンの様子を見に行った時、発見されていた事に驚いたのである。
「それで、そのダンジョンなんだがな」
「はい」
「プラーク街のダンジョンのように、魔物が食料をドロップする事が分かった」
「おおー!」
「これなら、村の負担を減らせそうだ」
「それは、助かります!」
その報せに、父さんは安堵した。
「それにしてもこの村は、色々と目を見張る物が多いな。関心する」
「ありがとうございます」
「家屋や道作りに長けているし、それに規模は小さいがこの店の商品は優れた物が多い」
「はぁ」
「魔道具も、ふんだんにある」
「はぁ」
「その理由が、知りたいものだな」
「えー、それは・・・・・」
父さんは、言うか言わないか迷っていた。
「まあ良い。その内聞くとしよう。それで明日なんだが、私はダンジョンに五十人を残し一旦領都に帰る」
「明日ですか?」
「私は街作りの計画を立て、職人や移住者を募って再び戻って来る」
「そういう事ですか」
「そこで、ジーン村長!」
「はい!」
「すまないが、《人頭税》の納税に行くのを、待って貰えないだろうか?」
「何故です?」
「移住者の食料に、納税分の小麦を充てたいんだ」
「わっ、私は構いませんが、領主様の了承をいただきませんと」
「それは、私が交渉しよう」
「それでは、《納税証明》もしていただけると、ありがたいのですが」
「任せろ。その辺の手続きは、私の方でしよう」
「ありがとうございます」
「今日、食料を受け取ったら、明日朝早く領都へ出発する。世話になった」
「いえいえ。お戻りになるのを、お待ちしてます」
翌日、リートガルド様達は、五十人を残し領都に帰って行った。
その後、村では小麦の脱穀と俵作りが行われ、負担が減った事で今年も《収穫祭》が行われた。
「からあげ、おいしーね!」
「うまうまー!」
「ほんに、どの肉料理も美味しいのー!」
孤児院の子供達やリンゼさんは、いつも以上の料理に喜んでいた。
◇
収穫祭の翌日、肉料理とケーキを持参して、サムゼル様の所へお礼に伺った。
ちなみにケーキの新作はレアチーズで、苺ショート・モンブラン・フルーツショートも、たくさん持ってきている。
「こんにちは」
「おお、来たか」
「ニコルなのじゃ」
「肉料理とケーキを、持ってきました」
「おお、そうか!」
「待っておったのじゃ。ニコルのケーキは美味しいと、パパ上から聞いていたのじゃ!」
「ニコル、肉料理は後でよい。新作ケーキを食わせろ!」
「サムゼル様は、ケーキがお好きですね」
僕はインスタントコーヒーを淹れ、一つは牛乳を半分注いだ。
「サムゼル様は、新作のレアチーズケーキとインスタントコーヒーです」
「おおー!」
「ゼルリル様は、苺のショートケーキとカフェオレです」
「オオー!」
「どうぞ、召し上がってください」
「「いただこう(いただくのじゃ)」」
『『パクッ!』』
「美味い!」
「美味しいのじゃ! ニコルは、名パティシエじゃ!」
「いえいえ。錬金術じゃないと、ここまで美味しく作れませんので」
「どちらにしろ、凄いのじゃ。ジジ上にも、食べさせたいのじゃ!」
「ゼルリルは、お爺ちゃんっ子だからな。父もあれで、甘味が好きだ」
「ジジ上は、どうしておるのじゃ?」
「そう言えば、一度も足を運んで無かったな」
「僕も、一度お会いした切りです」
「ニコルは、会ったのかえ?」
「はい」
「それなら《転移魔法》で、妾を連れて行くのじゃ!」
「えっ!」
「我も行くぞ!」
約束をしておいて、僕は一度も足を運んでいなかった。
その事に、後ろめたさを感じた。
「良い機会だし、行きますか?」
ケーキはまだまだあるので、お土産に持って行く事にした。
「行こう(行くのじゃ)!」
二人がケーキを食べ終わるのを待って、カイゼル様がいる《アルシオン王国ユンベルグ辺境伯領》の《オーエン街》のダンジョンに《転移》した。




