第十一話 ゼルリルと先遣隊
魔王サムゼルと魔王ゼルリルは、百年振りに再開し人間界を楽しんでいた。
今はダンジョンの更に下層にある、サムゼルの屋敷で寛いでいる。
「パパ上とこんな長閑に過ごすのは、久し振りなのじゃ」
「我が魔王になってから、忙しかったからな」
「妾も魔王になって、忙しかったのじゃ」
「魔界とのしがらみも無く、のびのびできるな」
「本当なのじゃ」
「「アーハッハッハッハッ!」」
二人の魔王は、高らかに声を上げて笑った。
「パパ上。一つ、頼みがあるのじゃ」
「何でも言ってみろ」
「妾が造ったダンジョンのコアに、ここのダンジョンコアの魔素を供給して欲しいのじゃ。このままでは、折角作ったのに数年で死んでしまう」
「うーむ。ゼルリルの頼みでは、しょうがないな」
『パチンッ!』
魔王サムゼルは、指を鳴らした。
「これで、コア同士が繋がったぞ」
「ありがとうなのじゃ」
「しかし、ニコルに文句を言われそうだな」
「なぬ? そうなのかえ。ダンジョンがあれば、この街のように発展すると思ったのじゃが」
「人間も魔族と同じで、利権が絡むと力の強い者がそれを奪う」
「あやつは、強いのじゃ」
「ニコルは、己の利権の為に力を振るわんだろう。力を行使するには、それ以外の理由がいる」
「それは、何なのじゃ?」
「弱い立場の者を、守る時だな」
「ふむ。それは、感心なのじゃ」
二人の魔王の間でこんな会話がされ、新しいダンジョンには魔素が供給された。
◇
リートガルド率いる先遣隊は現地に到着してから、三日目を迎えていた。
「リートガルド隊長。あちらの小山から、僅かですが魔物の気配を感じます」
そう語るのは、探知系スキルの持ち主である。
「それは確かか? 魔王ではないのか?」
「魔王に会った事が無いので言い切れませんが、通常の魔物と同じ感覚です!」
「分かった。近くにいる者は、あの山を探れ!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
リートガルドは兵士を集め、小山を調べさせた。
「リートガルド隊長。この奥に、空洞があります」
「何っ! 本当か?」
「はい。一メートル先は、空洞になってます」
「何者かが、入口を塞いだというのか?」
「私の《土属性魔法》で、穴を開けましょう」
「よしっ、頼む!」
「***** ******* ***** ******* ******* 隧道!」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!』
魔法により、小山には人が通れる程の穴が開いた。
「リートガルド隊長。穴が開きました!」
「よしっ。中を調べるぞ!」
リートガルドはそう言うと、魔道具に灯りをつけ、自ら入っていった。
「どうやら、奥は本当に空洞だったようだ」
「そうですね」
「このまま、奥へ進むぞ!」
「「「「「「「「「「ハッ!」」」」」」」」」」
こうしてリートガルド達によって、呆気なくダンジョンが発見されてしまった。
◇
「ダンジョンコアに、そろそろ魔素が溜まるのじゃ。パパ上、ダンジョンを改良しに、行ってくるのじゃ」
「父も、ついて行こうか?」
「妾はもう、子供じゃないのじゃ!」
ゼルリルはそう言った後、頬を膨らませた。
その顔は、子供そのものだった。
そして、そのまま《転移》した。
◇
「パパ上が言うには、ニコルの村は食料を欲しているのじゃ。妾のダンジョンも、食料をドロップさせるのじゃ」
ゼルリルはそう呟き、ダンジョンコアに手を翳した。
「《リメイク ダンジョン》」
『ゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・!』
ゼルリルはダンジョンにいる魔物を一旦コアに吸収し、生態系を変える作業に入った。
そして、五層あるフロアの拡張を同時に行った。
その作業は、三十分に及んだ。
「できたのじゃ。これでニコルも、少しは喜ぶじゃろうて。どれ、一応確認に行くのじゃ」
ゼルリルは、地下一階へ《転移》した。
◇
「振動は、治まったようだな」
「そのようですね」
「魔物が全て、消えてしまいましたね」
「いったい、何が起こってるんだ?」
『シュタッ!』
そこへ、一人の美少女が現れた。
「「「「「「「「「「うわっ!」」」」」」」」」」
「何じゃ、人間がおったか」
「リッ、リートガルド隊長。あの少女、とてつもない魔力の持ち主です!」
「わっ、私も感じている!」
ゼルリルは魔王だけに、大量の魔力を内包していた。
「今のは、《転移魔法》じゃありませんか?」
「そのようだ。《勇者》や《賢者》と呼ばれる、特別な者にしか使えない特殊魔法」
「私はその中に、《魔王》も含まれると聞き及んでます」
「まさかこの少女が、魔王だと言うのか? しかし先程から、震えが止まらん」
「私もです」
魔力探知に優れる者程、その脅威に震えていた。
「ごちゃごちゃと、煩いのじゃ! 妾はお主達が言う通り、《魔王》じゃ!」
「「「「「「「「「「ひぃっ!」」」」」」」」」」
「何じゃ、ビビリじゃのう。何もせぬわ!」
「ほっ、本当か?」
「本当じゃ。このダンジョンの管理はお主達人間に任せるゆえ、有効に使うが良い」
「魔王。お前は、何処へ行く?」
「妾は、自由気侭な旅に出る。飽きたら、魔界に帰るがな」
『スッ!』
そう言い残し、魔王は消えていった。
「消えた?」
「命拾いしたー!」
「夢じゃありませんよね?」
「あんな容姿で、魔王だとは!」
リートガルド達は緊張のあまり一度休憩し、落ち着きを取り戻した後先へ進んだ。
暫くすると、生態系の変わった魔物が姿を現し始めた。
「これが、魔物なのか?」
「野菜ですね」
「もしや、プラーク街のダンジョンと、同じ類いかもしれませんね」
「だとすれば、食料の心配は軽減するな」
リートガルド達は数日間ダンジョンを探索したものの、魔王は現れなかった。




