第十話 魔王討伐、領都先遣隊
エステリア王国に魔王が襲来し、多大な被害が及ぶところを、二人の英雄によって被害は縮小された。
その中で、エシャット村のあるリートガルド伯爵領は、魔王が飛来した一番の被災地である。
魔物騒動は一日で収まったものの、肝心の魔王の情報を掴めてなかった。
伯爵は領地防衛の為にも、翌朝先遣隊を調査に送った。
そしてその一週間後、先遣隊はエシャット村の近くまで来ていた。
◇
僕は兵士達がエシャット村に向かってるのを数日前に察知し、村長である父さんに相談した。
その結果、当日は《結界》を解除し、《亜空間ゲート》や大型魔道具の農機具を隠し、迎え入れる事になった。
家庭用の魔道具は僕が王都で稼ぎそのお金で買い、錬金術で作った商品はとあるルートから仕入れたと言い張るつもりだ。
これらはあくまでも、指摘された時の言い訳であり、自分達から打ち明けるつもりはない。
「そろそろだな」
僕は兵士達が到着するタイミングで、村の入口でワン太とじゃれながら待ち受けた。
「ニコルではないか。無事だったのか?」
以前、注意喚起に来てくれたハッサンさんが、馬に乗ってやって来た。
「ハッサンさん! この通り、僕も村も無事です」
「それは、良かった」
「皆さんは、魔王討伐に来てくれたのですか?」
街道には、騎馬や馬車が連なっていた。
「領都からの、魔王討伐の先遣隊だ。街や村で魔王の情報を仕入れ、この村に辿り着いた。魔王は、こちらへ来たのか?」
「はい。黒い球と共に魔物をばらまきながら、あの山の麓に飛んで行きました」
「以外と近いではないか。よく無事だったな?」
「はい。《黒髪》の魔導師様が、魔物を魔法で次々と退治してくれました」
「ここにも、現れたか?」
「えっ、他所にも現れたんですか?」
僕は白々しく、聞き返した。
「もしや、国を出た《勇者様》が、戻って来てくれたのかもしれんな」
「勇者様ですか?」
僕は勇也さんの事を、思い出した。
「お陰で今回の魔王襲来は、被害が少なくて済んでいるようだ」
「このまま、事態は収まるのでしょうか?」
「まだ、油断は禁物だ。魔王は、《ダンジョン》を造っている筈。今は何故か収まっているが、スタンピードがいつ起こるか分からない!」
『ギクッ!』
「どうした、ニコル?」
『ダンジョン』という言葉に反応したなんて、言えない。
「まっ、また、魔物が現れるんですか?」
「それを調査するのが、我々の使命だ」
「そっ、そうなんですね」
僕はこの時、鼓動が早くなるのを感じた。
「ところで、この辺りで魔物の死骸を見掛けないが、村で回収したのか?」
「いいえ。魔導師様が、魔法で回収していきました」
「《アイテムボックス》を、使ったというのか? だが、他所では回収してなかったな」
「満杯になったのかも、しれませんね」
「それもそうだな」
適当に答えたのだが、ハッサンさんは納得してくれた。
「皆さんはこれから、山へ行かれるんですか?」
「ああそうなんだが、今の話しを隊長に報告してくる。二コルはここで、待っててくれないか?」
「分かりました」
ハッサンさんは、一際立派な馬車へ向かっていった。
◇
暫くすると、ハッサンさんに連れられ、立派な馬車がこちらにやって来た。
その馬車からは、上等な装備を身に纏ったキリッとしたイケメンが降りてきた。
「話しは、聞いた。私はこの隊の隊長、イアン・リートガルドだ」
「リートガルド様? もしや、御領主家の方でらっしゃいますか?」
「そうだ」
まさかの、領主の御子息の登場である。
「失礼しました。私はニコルと申します。村長の次男です」
「今は緊急時だ。私に気を使う必要は無い。魔王の降り立った場所へ、案内してくれないか?」
「私がですか?」
「何やら、事情に詳しいようだからな。それとも、他に適任者がいるのか?」
「いえいえ。私が案内します」
「それとは別に、食料を分けて貰いたい。金は払う。だが、これだけの人数だ。負担も大きかろう。村長と、話しをさせてくれまいか?」
「ええ。そういう事なら、案内します」
そうは言ったものの、僕はリートガルド様の馬車に乗せられ、ハッサンさんが案内してくれた。
直ぐ出発する為に、他の兵士は村に入らずその場で待つ事になった。
◇
スーパー前に馬車を停めて貰い、父さんを連れて来た。
「お待たせしました。エシャット村村長のジーンです」
「イアン・リートガルドだ。魔王討伐に、兵を二百人率いて来た。子息のニコルに、現地の山まで案内して貰う事になった」
「はい。それは、聞き及んでおります」
「それと山に滞在する間、食料の補給をしたいのだが可能か? 金は払う」
「二百人分を一日三食は、正直厳しいですね。何しろ、住民が三百人にも満たない村ですから」
「我々は遠征の間、一日二食にしている。無理の掛からない程度で構わない」
「それでしたら、何とかしましょう」
「助かる。まだ、三・四日分の食料はある。二日後の午後あたりから、使いに魔法袋を持たせるので、用意しておいてくれ」
「承知しました」
リートガルド様と父さんが話している間、僕は馬を用意していた。
騎馬や馬車がたくさんいるので、今回はシャルロッテではなく実家の馬を借りた。
「用事は済んだ。ニコル、案内を頼む」
「はい」
僕は馬に乗り、二百人の兵士を率い山へ向かった。
◇
ダンジョンのある小山から、大分手前で馬を停めた。
「村から見ていたのですが、恐らく魔王はこの辺りからこの奥の何処かに降りたと思います」
「確かに、魔物の血の痕が多いな。よし、分かった。ニコルよ、ご苦労だった」
「私は帰っても、よろしいのですか?」
「ああ、危険だからな。気を付けて帰れよ」
「はい。失礼します」
貴族だからという事で構えていたが、リートガルド様は良い人そうだ。
それでも僕は、ダンジョンが見付からない事を祈り村へ帰った。




