第八話 ダンジョンの影響
ダンジョン入口の鉄扉前に《転移》し、閂を掛け洞窟を出た。
「ダンジョンをこのままにして、去っていいのか?」
この時エシャット村と僕への影響を、懸念した。
「魔王を追って、王国中から兵士達が集結する。この場所が見付かるのも、時間の問題だろうな」
魔王がいないと分かれば、その内開拓が進む。
ダンジョンは《王国》が管理し、街は《領主》が管理する事になっている。
規模は小さいが、このダンジョンも同じだろう。
「開拓が始まれば、エシャット村に人が往来するぞ」
そして、往来した人の感じる違和感。
『貧乏村という割りには、家屋は立派だし道も整備されている』
『家庭や農作業用の魔道具が、普及している』
『スーパーの商品にも、錬金術で作った良品が安価で売っている』
『終いには、《亜空間ゲート》なんて物で、他所の街に行けてしまう』
「どう説明しろって、言うんだ? 『僕が全部やりました』って言うのか?」
これらを隠蔽するとなると、村の生活が昔に戻ってしまう。
そんな事は、したくない。
「だけど、流石に《亜空間ゲート》はまずいな」
王族や貴族が、放っておく筈がない。
「錬金術で作った商品も、僕みたいな行商人が現れて、《転売》する人が出てくるだろうな」
転売はいいとしても、村人以外には《高値》で売りたい。
「それに、食料や人手が必要になるぞ」
ダンジョンから一番近いエシャット村が、協力を求められるのは必然的。
村で食料不足や農作業の人手不足を、起こすかもしれない。
それらに正当な対価が支払われればいいが、そんな保障はない。
「領主様は善良な人だと聞くが、どんな輩がやって来るか分からないからな」
立場の弱い者は、《搾取》されるのが世の常である。
◇
僕の中で『今まで通り、平穏に暮らしたい』という気持ちと、『オープンにして人の往来を受け入れた方が、将来的にいい』という気持ちが交錯していた。
「ええい、面倒臭い。入口を塞いでやれ!」
『ゴゴゴゴゴ・・・・・!』
錬金術で洞窟の入口を、塞いでしまった。
一見したら、ただの小山である。
僕の気持ちは『平穏に暮らしたい』という方に傾き、国益を隠すという《卑怯》な手段に出た。
しかし、絶対見付からないようにした訳でもない。
それなら、もっと遣り様があった。
これは僕の《優柔不断》さと、《罪悪感》がそうさせた。
「血溜りは、消した方がいいな。《清浄》」
この一帯の地面は、『怪しい。ここで、何かが起こった』と思わせる程、多くの魔物の血に染まっていた。
僕は周辺の血を、魔法で《適度》に消していった。
そして後の事は、《神様の采配》に任せる事にした。
「あわよくば、見付かりませんように!」
最後に、本音を神様に祈ってみた。
「よし! 気分を切り替えよう」
魔物の死骸回収が、まだ残っていた。
「オリハルコン装備は、もういらないな。《脱衣》」
魔法で装備を外し、《亜空間収納》にしまった。
魔王用に装着したが、結果的に必要無かった。
そして、ポム用に《亜空間収納》からウエストバッグを取り出し、腰に巻いた。
「ポム。ウエストバッグに、入っててくれないか?」
「モキュ!」
「フッ! お前、そんな風に鳴くんだな」
まだ少しモヤモヤしていた気持ちが、ポムの鳴き声で和んだ。
ポムをウエストバッグに入れると、エシャット村方面に向かった。
◇
エシャット村周辺の回収を、急いで終わらせた。
それでも、《魔王襲来》から三時間が経っている。
「他の場所は、大丈夫だろうか?」
気になったので、《検索ツール》で王国中に生存する地上の魔物を確認した。
「まだ、かなり残ってるな」
各領地では、騎士・兵士・傭兵・ダンジョン探索者等が配備されている。
「エシャット村みたいな小さな村は、戦力の配備なんてされてないんじゃないか?」
僕は次の瞬間、《転移》した。
向かった先は、一番近い隣街である。
そこは正に、戦闘の真っ最中だった。
街の警備兵が、飛行する魔物に苦戦していた。
そして街中には、怪我人や死人が横たわっていた。
「こんな事なら、もっと早く来るんだった!」
呑気に魔物の死骸を回収していた事を、悔やんだ。
「《黒矢》連射!」
『『『『『ギャー!』』』』』
「魔法の矢?」
「誰の仕業だ?」
「「「「「命拾いした!」」」」」
離れた場所から矢を放ったので、正体は晒してない。
僕は見付かる前に、前世の自分に変装した。
「《範囲中級回復》」
僕を中心に、広範囲の回復魔法を放った。
「何だこの光は? 体の痛みが消えてくぞ!」
「俺もだ!」
「回復魔法だ! それも、広範囲の!」
「まさか、《聖女様》がいらしたのか?」
『僕は、聖女じゃない。勘違いしないで欲しい』と、頭の中で突っ込んだ。
僕は続けて、街に潜む魔物を検索した。
「《黒矢》大連射!」
狙いが定まると、魔法を放った。
『ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ! ビュッ!・・・・・・・・・・!』
「おい、あそこだ! 黒髪の青年が、魔法の矢を放ってるぞ!」
「本当だ!」
「回復魔法も、彼なのか?」
僕は注目を、浴びてしまった。
「よし。この街は、片付いた!」
そう呟き、次の場所へ向かった。
◇
その後、多くの地域を回った。
途中、アレンさんに遭遇するという場面もありながら、エステリア王国に散らばった魔物を殲滅した。
だが行く先々で、多くの亡くなった人を目にした。
「くそー! 出遅れなきゃ、もっと救えたのに!」
「モキュ!」
ウエストバッグからポムが顔を出し、僕を見詰めた。
「心配してくれてるのか?」
「モキュ!」
「ありがとな」
そう言いながら、ポムの頭を撫でてやった。
この一連の活躍で、称号《影の英雄》の特典戦闘時のステータス三倍が、六倍に跳ね上がった。
また、ポムのステータスを見ると、レベル19にまで上がっていた。
「ポム。一日で、成長したな!」
「モキュ!」
ポムは、笑いながら答えた。
「という事は、シャルロッテとケイコも成長してるな」
魔物討伐の経験値は僕には入らないが、僕と契約した者に振り分けられる。
「遅くなってしまった。村のみんな、心配してるぞ!」
既に日は沈み、暗くなり掛けていた。
僕は変装を解き、エシャット村の近くに《転移》した。




